第7話 その10 「門前のアーネスト」
「あっ、コラ! それ俺が取っておいたヤツだろ!」
「へーんだ。スリフト様がいつまでも食べないからですよ。早いもの勝ちです」
パクリ!
「あー、アル王子またわたしの持ってるの食べた!」
「早い者勝ちだろ」
「ムー!」
「メイド、アル王子とか、不敬だろ」
「スリフト、透香は、いいんだよ。むしろ嬉しいくらいだよ」
「殿下も、お人形遊びがすぎますよ」
かれこれ、一刻以上も三人で歩いてすっかり表面上は打ち解けてます。
というより、互いに腹の探り合いというか隠し事が多すぎて、真面目な話ができないので仕方なくおちゃらけているというのが正解
でも、いきなりアルって愛称呼びを要求して、逃げれないような搦手を使ってくるし、よくわからない王子さまです……
まあ、上手いこと言いくるめられて、妥協でアル王子・透香と呼び合わされて、スリフト様の怒りを一身に浴びて現在に至るでございます。
「あー殿下。学園の門ですよ」
スリフト様が、門まで走って行って嬉しそうに駆け戻ってきた。マジワンコ騎士です。愛犬スリフトです。
ついに、学園に到着です。長かったー。
「王立サピエンティア・プラム学園にようこそ、透香」
アル王子が、手を取れとばかりにこちらに掌を差し出す。
その手のひらをパーンと叩いて、手を挙げて逆にハイタッチをアル王子に要求してやった。どうよ!
「なんだ、抱き上げて欲しかったのかい。気が回らなくてすまない」
そう言って、ハイタッチの手に指絡めて体を寄せてくる。どんな思考回路でその結論に辿り着くの、近い、近いってば!
「ナニ、してるの?」
下からの視線、懐かしい声!
「お嬢さまー」
アル王子の手を振り解いて、お嬢さまにダイフです。あー懐かしい、愛おしい、尊いです。お嬢さま成分が充填されていきます。スリスリ。
「これは、これは、アルスト殿下。わたくし、アーネストが長女、セシリアでございます。お久しぶりですわ」
「そうだね、久しぶりだね。レディ・セシリア。学園に入学おめでとう」
お嬢さまが、わたしをくっつけたまま、カーテシーで王子に応えます。
「それよりも、本日は、わたくしのギフトを、わざわざ学園まで送っていただきまして感謝の言葉もございませんわ」
「あーそうか、僕は駅前に置き去りにして行ったから、いらないんだと思ってしまったよ」
「そんなわけありませんわ、わたくしのギフトは優秀ですからちゃんと帰ってきますもの」
あーいい匂い。お嬢さま。お嬢さま。クンカクンカ。
「いつまでくっついてるの! この駄メイド!」
怒られちゃった。エヘヘ。
でも、本当にわたしも、捨てられたかと思いましたよ。寂しかったですよ。
でも、なんだかお嬢さまとアル王子の雰囲気が悪げですね。なぜでしょう?
「そうだね。彼女はとても優秀で美しい。どうだい、彼女を僕にくれないかい。セシリア・フォン・アーネスト。キミより僕の方がうまく使ってあげられるよ」
アル王子さま、あからさまに喧嘩を売ってらっしゃる。女性に優しい設定でしたよね。うちのお嬢さまは売られたら、絶対に買うし倍返しですよ。覚悟できてます?
お嬢さまは……恐る恐るお顔を覗きこむ。めっちゃ笑顔!おまけにこっちを向いたー。
「ルナリア、どうしましょう。アルスト殿下が、是非あなたを所望とのことですわ。こんな名誉はなくってよ。ルナリアどうしますか?」
「えー! 嫌に決まってますよ。アル王子ってば隙あればすぐにくっついてるし、イジワルなんですもん。お嬢さまの方が断然いいですよー」
わたしが後ろからお嬢さまの肩に手を回しお嬢さまがその手を取る。ユリユリモーションの茶番です。そのまま、ふたりして、ズルい笑顔で王子のほうを向いて見せつけるようにニッコリ。最後にふたりでイーッて顔でお断りです。
「はっははは! コイツは手厳しいお嬢さま方だね」
「おい! いくらなんでも不敬だろ!」
ワンコ騎士が再び「ガルルル」スリフト様になって吠えてらっしゃる。
「あら、不敬罪で手打ちにでもされてしまうのかしら? 恐ろしいわ。でもスリフト様、剣はお持ちですの?」
さすがお嬢さまです。人を怒らせる才能の塊です。スリフト様の剣をわたしが切ったのも隠密経由で筒抜けだったみたいですね。
「くっ! この!」
スリフト様、真っ赤になってる。羞恥半分、怒り半分ですね。こっちにも、お嬢さまといっしょにイーッだです。
「スリフト殿、よければコレをお使いください。不敬な妹ですまんな」
クエルク様が、笑顔で「ユニコーンの槍」をスリフト様の前に差し出す。
「あっ! でもこれは妹がわたしにと作ってくれた大事な槍なので、間違っても『アーネストの腐れギフト』なんぞに、切られぬようにお願いしますよ」
兄妹揃って煽りまくりです。でも笑顔のクエルク様は目がひとつも笑ってません。
隠密から聞いたのでしょうけども、例えわたしのことでも、アーネストの名を侮蔑されたこと。この兄妹に取っては、それが王家でも許さないんだ。
最初の悪い雰囲気の納得がいきました。
「スリフト、どうする?」
「王子……」
あっ! ダメ……
アル王子なら、笑ってうまく場を終わらせるものだと思ってました。
でも違う、自分の従者、いや、一緒に話してた感じからするとふたりは主従というより親友なんだ。だからこそ、王子も引かないんだ。それに、多分……王家のプライドもあるんだろうな。
「僕の使っていいよ。僕はこっちの方が得意だからね」
ギュと拳を握って見せる、もう片方の手で腰の剣をスリフトに放ってやる。
「殿下、恩に着ます!」
スリフト様が、受け取った剣を腰に構える。
もうダメじゃない。入学も待たずしてお嬢さまが兄妹揃って王族に反旗です。乙女ゲームが始まる前にバトルゲーム開始の危機です。
「やめてくださーい!」
場違いな突拍子もない大声で間に踊りでたのは、そうです、そうでなくっちゃです。
乙女ゲーム『聖女と薔薇の刻証」の正ヒロイン。
『南の聖女』リリィ・レイン
さすがです。ここで、来なきゃヒロインじゃありません!
柔らかなピンクの髪に、どこまでも慈愛に満ちた美しく優しい御尊顔でございます。
「喧嘩はダメです! 戦いからは何も生みません! やめてください!」
聖女様、言葉が薄っぺらいです。本気で止めてます? それでも真剣な顔して間に立ってるから大真面目なのね。肩には彼女のギフトもいるし。
あっ!カバドラゴン! ニャローそこに居たか!
なんかぶつけるものないかな。




