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第7話 その11 「対決!聖女と悪役令嬢」

「女! 邪魔立てするなぁぁ!!」


 スリフト様、それ悪者! 悪者のセリフです!


「いいえ、どきません! 話し合えばきっと分かり合えます! 剣を収めてください! 」


 ぷっ! 素敵です。リリィ様 まさに王道ヒロインです。昔、臭すぎて没にしたセリフです。


 でも、この臭さは使えるわ。

(プラム、ホログラム準備よ)


 聖女、リリィ レインが再び語り出す。


「言葉は、争うためではなく、理解し合うために神様から授かったもののはずです。拳を交える前に、まずは心を開いて語り合いましょう」


 綺麗な夕闇迫る晴天の空からまるで雲間をぬって差し込むあざとい光がリリィを照らし出す。


「っ……!」


 リリィ様、演出の光に一瞬びっくりしてる。かわいい。


「そ、そうです! みなさん、本当は優しいはずです! 憎しみなんて捨てて、手を取り合えば、きっと!」


 素晴らしいお言葉が続き、皆を説得しようという強い意志はひしひしと伝わってきます。まさに聖女ですが、わたしの過剰な演出も相まって薄っぺらさが際立つてます。ごめんなさい、リリィ!


 ご高説に、アル王子は苦笑気味で楽しそう。クエルク様は、顎に手を当てて完全に観察中。


 スリフトワンコは、感動して涙を流してらっしゃる! 触らないでおこう。


 お嬢さまは、顔も笑ってませんし真剣に耳を傾けてます。人の話は聞くのよね。従わないけど……


「争いは、憎しみの連鎖を生むだけです。憎しみは、誰も幸せには致しません。互いに相手を思いやる優しさそれこそが大切なのです」


 真剣にそう思っていらっしゃるのですね。リリィ様でも、逃げてー


「……終わりましたか?」


 空気が、凍る。


 お嬢さまのたった一言で、場の温度が一気に下がった。


 お嬢さま。いえ、セシリア公女殿下が、静かに一歩前に出る。


 その笑顔は、先ほどまでと同じはずなのに、まるで別物だった。


「……リリィ・レイン、南の聖女さま」


「は、はい!」


「素晴らしいお言葉ですわ。耳に心地よく、誰もが否定しづらい。そして、とても“便利”でいらっしゃる」


 褒めている。言葉だけなら。でも、その声音には一片の温度もなかった。


「ですが、」


 一歩、さらに踏み込む。


「それで? 貴女は、何を賭けてその言葉を口にしているのかしら」


「え……?」


 リリィ様の表情が揺れる。


「誰も幸せにならない? 結構。ではお聞きしますわ。

 誰の不幸を、どこまで引き受ける覚悟がおありで?」


 ぐ、と言葉に詰まるリリィ様。


「理想を語ることは、罪ではありません。けれど、」


 お嬢さまの瞳が、真っ直ぐにリリィを射抜く。


「現実に干渉する以上、それには『覚悟』がいるのですわ」


 ひえっ、怖い。


 これがお嬢さまの『本気モード』。悪役令嬢の真骨頂でございます。


「わ、私は……ただ、みんなが……」


「“みんな”とは、誰のことですの?」


 被せる。逃がさない。


「王家も、貴族も、平民も、敵国も。すべてを救うおつもりで?」

「それとも――都合の良い範囲だけ?」


 完全に詰め将棋です。チェックメイト寸前。


「そんな!」


 リリィ様、涙目。


 うん、これはちょっと可哀想。


 痛っ。 腰のあたりにちくってなんかきた。横を向くとクエルク様が、こっちを見てる。


 あっ! 用があるからってユニコーンの槍で突かないでください。スカートちょっと切れてますって危ないなもう。


 クエルク様が声を出さずに口を動かす。口パク?


 ふむふむ、「追い込みすぎだ……」はい、「敵にまわってどうする……」ふむ、「つもりだ、このバカ!」


 わたしは頭の上で大きく丸を作って応える。すぐさまお嬢さまの耳元に小声でクエルク様のお言葉を伝えます。


「クエルク様からの伝言です。敵にまわってどうするつもりだこのバカ。これ以上、追い詰めるなスカボンタンとのことです」


 お嬢さまがクエルク様をきっと睨む! ビビるクエルク様。仲良し兄妹です。


 お嬢さまの口調が、取ってつけたように変わる。


「それでも、あなたの言葉は、わたくしの心に刺さりましたわ。荒んだわたくしの心に必要なのは、この清らかな穢れのない言葉なんですわ。ありがとう、リリィ レイン。いえ、南の聖女様」


 お嬢さまも、目を泳がせしばたいてる。半べそまで追い込んでからのごまかしは、さすがに苦しすぎます。


「わかってくださったのですね。セシリア様!」


 ブッー!! セーフなのこれ? イケてるのアレで?


 リリィ様、マジ聖女です。お嬢さまも、バカにされてるんじゃないかと逆に疑ってますよ。


「素晴らしい! リリィレイン、君はなんて素晴らしい!まさに心に響くね」


 拍手しながら、アル王子がリリィではなくて、こちらに近づいてきた。わたしの横までくる。だから近いって、くっついてこないで。


 アル王子が、軽く肩をすくめながら皆に聞こえるようにわたしにつぶやく。


「彼女は“そういう役割”なんだろう?

 世界を綺麗に見せるための」


 その言葉に、リリィ様がびくりと反応する。


「役割……?」


「うん。君の言葉は正しいよ。正しすぎて、現実には馴染まないだけで」


 さらっと、ひどいこと言ってるこの人。


「でもね。僕は嫌いじゃない」


 にこり、と笑う王子。


「そういうのが一人くらいいた方が、物語は綺麗になるからね」


 うわ、この人やっぱり腹黒い。そして近い。



「リリィよ、まったく、無粋で腹の中に何か隠しているもの達ばかりで嫌になるな」


 そう言って、隠し事が全身に詰まってそうなクエルク様がリリィに声をかける。


「クエルク様、わたし……」

「いいのだよ、リリィ。君の思いは、何も間違ってなどはいないのだから」


 リリィの顔がパッと輝きます。わたしのいない間に攻略進んでる?


「だが、リリィ。妹も決して悪気があって、君を追い込んだわけではないんだ。そこは、わかって欲しい。理想と現実はいつも相反するものだからね」


 さりげなく、セシリア様のフォロー細やかですね。でも、本当の思いも少し乗ってます?


「はい。クエルク様、わたしもセシリア様のお言葉には刺さるものはありました。わたしの覚悟が足りないこと気づかせていただきました」


 ふたりとも、いい雰囲気です。



「やれやれ、一歩リードされちゃったかな。でも僕は、透香も南の聖女も諦めるつもりはないんだけどな」


 アル王子が、顔を手で隠しながら小声でぼそりとつぶやく。多分、わたしとお嬢さまぐらいにしか聞こえてないよね。


 お嬢さまが、王子の底知れなさを感じて不安気に見つめてる。多分、わたしも同じ顔してる。


 王子が、わたしを見る。捕食者、いえ獲物を戯れに弄ぶ目、でも愛おし気に見つめる不思議な目……


 クスッと笑い。隠してた顔を見せる。もうただの陽気な顔


「ても、あの聖女は好みじゃないな、ここは、我が親友殿の出番だね。真実の心は、紛い物に勝るかもだよ。ねえ、透香」


「スリフト、いつまでそこで呆けてる。聖女様が悪の手に落ちちゃうぞ!」


 スリフトワンコがハッと我に返って、あたりを見回す。リリィが視界に入った途端、走り出す。


「リリィ レイン、先程は汚い口をきき、すまなかった。このとおりだ許してくれ!」


 全力の前屈みで謝ってます。


「あっ、いえ、その……大丈夫です。全然、気にしてませんから」

「本当か、そなたは本当に優しいのだな。先程の話本当に心に響いた。人とは互いに愛し合い高め合うものなのだと本当に感動した」


 本当の連続攻撃に、リリィは、タジタジだ。


「そなたが気に入った。いや、愛してる! リリィ レイン、俺の理想の人だ。女神さまだ。俺と……」


 あまりの勢いにリリィがかたまってる。


「俺と、結婚を前提に付き合ってくれ!」


 ……?

 リリィー 大丈夫?


「あっあの…… いやです。ごめんなさい! 無理です!」


「そう焦らずともいいぞ、聖女リリィ・レイン殿。今すぐには返事せずとも良い。ゆっくりこれから育んでいけばいいのだから」


 大丈夫あの、ワンコ?


「話にならんな、行くぞ、リリィ」


 クエルク様がスリフトワンコから隠すようにマントを広げてリリィの肩を抱く。


「はい、クエルク様。ありがとうございます」


「興も冷めたし日も暮れた、これ以上茶番に付き合っていられんな。失礼する、王子殿下」

「続きは、まただね。クエルク・フォン・アーネスト」


 アル王子が軽く手を挙げ応える。束の間、王子を見つめて、礼を残しクエルクが踵を返した。当然のようにリリィが付いていく。


 ポツリと取り残されるワンコ。


「ねえ、アル王子。スリフト様大丈夫?」

「透香は優しいな。でもスリフトは最後の最後まで諦めない面倒なタイプだから大丈夫だよ」

「何それ、褒めてるの貶してるの?」

「もちろん、貶してるんだよ」

「ぶっ! 逆。逆」


「仲良すぎない、あんた達」


 お嬢さまが、ジト目でみてらっしゃる。


「いえ、お嬢さまそんなんじゃなくてですね、コレは……」

「気が、合うんだよ僕ら」


 ニヤリとお嬢さまに、笑い返す。さっきの仕返しですね。大人げないですよ、王子さま


「まあ、いいわ。あげれはしないけど、アーネストは寛容ですわ、王子さま」

「それは助かるよ。保護者公認だ」


「それでは、わたくし共もお暇いたしますわ、ごきげんよう。王子殿下」


 深く優雅にカーテシーを決めて、お嬢さまが踵を返す。わたしも当然付いていきます。



 もう日も暮れて薄闇の中、アルスト殿下がつぶやく。


「役者は揃ったのかな……なら舞台の幕を開けよう」


 星もまばらな空を見上げる


「透香、君はどんなふうに踊ってくれるのかな」


 宵闇の天に唾を吐く。落ちるより早く体を躱して歩き出す。


「スリフト、そろそろ帰るよ」


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