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第7話 その7 「王子様と学園道中」

 いきなり『透香』と名前を呼ばれて、めっちゃ動揺しています。落ち着け、わたし。まだ焦るには早いわよ。


(プラム、神殿でのハッキングで漏れたのって名前だけだよね?)

(肯定、個体名『透香』以外の流出は記録されてません》


 と、いうことは、アルスト王子は何かを勘繰ってカマをかけているって可能性が高いのか。さて、そんな手間をかけて、ギフト(わたし)なんかの何を知りたいのかな?


 『ギフトの中に異世界人がいますよー』なんて本当のこと言ったところで王子に何かメリットがあるとも思えないけどね。第一、信じてもらえるとも思えないしね。


 なるほどね。これよ、これ!


 本当のことを言えば、逆に信じないからごまかせる。嘘じゃないからわたしも動揺しない。 いい案じゃない!


 よし、方針は決まったわ。異世界電波ちゃん作戦決行よ!


 あと、いつまでもお腹を触らせてる訳にはいかないわよね。まずは、王子のバグった距離感から逃げ出しましょう。恥ずかしいもんね。


 王子の手から逃げるように体を横に滑らせる。


「あれ?」


 逃げる対象の王子の手がわたしの腰を逆に押し出す、反対の頭上で掴まれてた手がさらに上にリードされる。


「何これ、ちょっとまって!」


 アン・ドゥ・トロワの掛け声でも聞こえそうなくらいの見事なアルスト王子のリードです。逃げるどころか、わたしはその場でターンを決めさせられる。


 巧みに王子が腕をスイッチして再び腰を抱かれ、反対の手は頭上で絡められる。


違うのは、今度は背中からじゃ無く、真正面から抱きしめられてる!!


「うまいね。ダンス」


 そう言って、人を食った余裕の笑みを浮かべて、息が掛かるくらい顔を寄せられた。


「ちょっ! 近い、近い!」


 思わず顔を引こうと背中を逸らしたけど、腰はしっかりホールドされてる。


結果……。


 わたしは、アルスト王子の腕に支えられ、大きく背中を逸らした状態で、彼と至近距離で見つめ合ってます。


これ……。どこからどう見ても、宮廷の舞踏会のダンスのフィニッシュです。


何故こうなる!!


夕暮れの王都のメインストリート。

串焼きの匂い漂う露店の前で、金髪の王子と銀髪のメイドが優雅に「愛のフィニッシュ」


思わず周りの人々から拍手が上がってます。


「え、何かの余興?」「ねえ、あれ王子様に似てない……」


ザワザワとした、周囲の声が耳に入ってきた。王子の表情もちょっとマズイって顔になってる。とりあえずこの場から逃げた方が良いかなー


――ドォォォォン!!


 背後で、スリフト様が腰の剣を鞘ごと地面に突き立てた。その音と殺気みなぎる表情に、わたしと王子だけで無く周りの人々の視線も集まる。


「殿下ぁぁぁぁぁ!! よりにもよってアーネストのギフトと、衆人環視の中で何をやっているのですかー!!」


あちゃー! この忠犬ワンコ騎士、いらない事を言っちゃった……


「殿下って今言ったわ」「やっぱり本物の王子さまじゃないの」「なんでこんなところに……」


いけない! 騒ぎになりそう。


ぐいっと手を引かれる。


「逃げるよ。透香!」

「あっ、はい!」


思わず返事返しちゃった。この後に及んでも、まだわたしの正体を探りにくるとか、本当に食えない王子様です。


でも騒ぎになるのも得策じゃ無いからね。手を取り合って逃げるのは釈然とはしないけど、とりあえずここは逃げましょう。


 王子とエスケープ決めようと走り出した。その時、ビクン!とわたしの頭のツノが何かを感知した。悪意が向けられてる?


それと、同時に逃走方向の道端の酒屋に積んであった小ぶりの酒樽が倒れてこちらに転がってきた。しかも明らかにわたしにだけ向かって!


転がる酒樽、跨ぐにはちょっと大きいし、飛び越そうにも、数が多い。避ける場所も無い。


《回避パターン解析、剣撃必須です。ホログラム解除。抜刀してください》


ちょっと、こんな街中で刃傷沙汰になっちゃうの?! それって大騒ぎにならない。捕まったりしない。大丈夫?


頭の中にぐるぐると余計な事が浮かぶけど酒樽も当たれば痛そうだしな。仕方ない、抜くかと覚悟を決めて背中の刀に手を伸ばす……


「つかまって」


急に、体が軽くなる。背中に伸ばそうと上げた手が何故か王子の首を捉える。頬に当たる分厚い王子の胸筋。


……!!


抵抗する間も無く、アルスト王子にお姫様抱っこされてる!! ひゃー何してるのこの王子!


驚いてる、わたしの目前で、転がってる酒樽が不自然にバウンドして真っ直ぐわたしに向かってくる。


「しっかりつかまっててね」


不意に背中の王子の手が外れる。思わず落ちないように首にしがみつく。


目の前に迫った樽を、王子が片手で掴んだ。


いやね、小ぶりとはいえ酒樽ですよ、大人一人でも持ち上げられるかどうかってサイズの樽、それも慣性のついた樽を片手でって、信じられない。


しかも受け止めたんじゃ無くて、掴んだのよ。酒樽の木材に指めり込んでる。服が破けそうなくらい腕の筋肉隆起してる。


その酒樽を次にバウンドした酒樽に投げつけて回避し、最後にバウンドした酒樽は、スゴイ回し蹴りが炸裂です。


酒樽がビューンと飛んでって四階ぐらいある石作りの商家の屋根にぶつかって粉砕されてる。


再び背中に手が周って、しがみついてた手が緩んだ。


「あの小さいのは、どうやら君に用事があるみたいだね」


こともなげに、アルスト王子が涼しい顔で言う。王子も気づいてたんだ。こちらを監視してた、小さなギフトの気配……


王子がズボンのポケットからコインを取り出して顔の前で確認する。金貨、ゴールドです。確か一枚で庶民なら半年は楽に暮らせるとか言ってたよね。無造作にポケットに入れてるなんて、さすが王子様です。物欲的にトキメキます。


そのコインを無造作に指で後ろに弾いちゃった。


王子がわたしを抱っこしたまま、軽く振り返る。コインはヒューンとスリフトワンコの元に飛んで片手で受け止められた。


「悪いね、スリフト! 先に、行ってるよ。酒樽の弁償と、あと、おやつの調達よろしくね」


後ろで聞こえる、「殿下ー!」と呼び止める声も気にせず、わたしを軽々と抱き上げたまま、速度を上げた。


もう、色々とバグってますこの人、規格外です。なんか勝てる気がしないです。


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