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第7話 その6 串焼きと王子さま

 仕方ない、歩きますか……ふぅ。


 王都の駅前、突然ボッチで置き去りにされた憐れなメイドなのでございます。


 とは言うものの、そこは特級メイドですからね。困ることなんかは、ひとつもないんですよ。本当ですよ。


(プラム、学園への経路と所要時間を教えて)

《徒歩での到着予定時間17:30 所要時間2時間24分です。ルート表示します》


 視界の中に地図とタイマーがAR(拡張現実)で表示されました。さすが、安心安全のルナリアさんです。


 ……にしても、結構遠いな。王都自体は色々と観る場所も多そうだから観光がてら歩くのもいいんだけどね。


 トボトボと、ナビに従い学園へと歩きだす。駅前の広場を抜けると王都のメインストリートなのですね。メインといっても、本来の物流を支える馬車が往き交う道路は別にあって、こちらは歩行者専用。


広い巾の道の真ん中には背中合わせで露店が立ち並び、市が開かれ、左右には立派な石造りの商家が軒を連ねてる。


活気と食欲をそそるいい匂いに満ち溢れる市場。


甘い香りの漂う揚げパイの店、フルーツ生搾りのジュース屋さん、こっちのなんか粉物屋さんからは焼けたソースの香り。


 先程問題は無いと言った舌の根が乾いてませんが大問題がありました。わたし、お給金もお小遣いもなしで、お嬢さまにご奉仕することを運命(さだめ)られた便利道具(ギフト)ですのでお金を持ってません!


 襲いくるグルメの数々に成すすべなく、涎を飲み込んで足早に通り過ぎて行かなければならないのね。悲しみが止まらない。


そんななか、さらにトラブルの予感。


《当躯体に対する監視及び追跡行為を検知。センサー展開します》


 ピコン! と頭に小さな赤いツノが2本生えた。ルナリアさん最新装備の『シックスセンスセンサー』です。センサーが空間を把握しだす。


《後方12メートル追跡者数2 その他該当被疑者配置データを送ります》


フムフム、その他の追跡者(チェイサー)は、この感じはアーネストの隠密がひとり。ちゃんとわたしにもついているのね。


残りはわたしと言うより、後ろのふたりを監視してる感じ、んーと、あとひとつは、小さいですね。人ではない感じギフト?


シックスセンスセンサーよくわからないけど優秀すぎ。某国エージェントなら感涙モノの便利グッズです。


《照合完了、後方2名のうちひとりが該当データ有り。神殿と列車での接触あり、仮称名『黄門様』です》


あやつか! 列車で腰に回された手と至近距離で見た金髪碧眼の整った顔。それにドキッとした感情まで蘇って思わず首を振って回想を追い出す。


ちょっとドキドキが残ってるけども、ここは冷静に対応を考えないとね。


なんて余裕があるのも、ホログラムの光学迷彩で隠してますがセバス様から頂いた、セシリア鋼の長刀『ストロング ノブレス ソード』(命名:セシリア様)略してSNSという拡散炎上しそうな物騒な一品を背中に装備しているからです。はっきり言ってこの刀最強なんですよ。


この刀を装備したらわたしの戦闘力がFからAAA+++の最上級に跳ね上がったんです。封印されし我が力がついに解かれたかと心舞い上がりました。でもプラムの解析で驚愕の事実です。


《セシリア鋼と当躯体を構成する特殊量子は大変相性が良く、その刀で心臓を貫けば即座に核融合を起こして星ごと消滅できます。この星最強の兵器です。良かったですね》


最終兵器ルナリアちゃん爆誕です。そんな物騒なもの抑止力にもならないので封印されし力は永久に封印です。


余談はさておき、脳内対策会議をまずは開催。


《守護対象不在の今ならば被害は最小で済みます。相手の真意を探るに適したシチュエーションです》


プラムの正確な状況分析。続いてネコ耳ルナリアどうぞ。


『なにか、食べたい!』


うん、そうだね。わたしも同意。欲望に忠実です。


脳内会議の結果はこのまま、泳がせて相手の真意を引き出してあわよくば奢ってもらおうという合理的な作戦に決まりです。


だってね。ちょうど目の前に串焼きの露店があるのです。焦げた肉の匂いと甘めのタレの香り、もう動けません。歩けません。


グー!


ヒャア! お腹鳴らしてしまった。店主がこっち見てる。恥ずかし。


「お腹、空いてるの?」


突然耳元で甘い声。驚いて逃げようとしたら。背中にピッタリと体を寄せられて腰からお腹に手を回されてるし、横顔が耳元に触れるくらいに寄せられてる。


距離近い。息かかる。お腹触るな! 落ち着けわたし!

冷静に相手の真意を探るって打ち合わせしたじゃない。

ここは、精神年齢的にお姉さんなんだから、余裕を持って対処よ。


「奢って!」


――!! 

ネコ耳ルナリアの方に、先に口を使われちゃった!


碧眼が驚きの色でこちらを見ている。


「プッ! ククク」


さすがに笑われてる。恥ずかしくて、頬が熱くなってきます。


「ご主人、串焼きを三本いただこう」

「毎度あり」

「はい、笑ってごめんね。お詫びのしるしにね」


金色の髪の向こうの優しい目、なんてものは眼中になく、差し出された串焼きを受けっ取って口に運ぶ。


噛み締めれば、口内に広がる肉汁……うーん、美味しい!


ハッ! しまった。大人のお姉さんの余裕どころか、あっさりと餌付けされてしまった。恐る恐る、彼の顔に目を移す。


なんか本気でびっくりしてる。ナンデ……?


「本当に、食べられるんだ!」

「このアーネストのギフトどう見ても怪しいです。離れてください。殿かっ?」


 隣にいたもうひとりの口に遮るように素早く指が当てられた。


「スリフトは、本当にそそっかしいね」

「あっ! いや、すまない。アルスト……」


 もう一人の彼がちょっと申し訳なさそうに口籠った。


 こちらはすごく実直そうな感じの方ですね。体格はかなりの筋肉質。短髪の銀の髪。意志の強そうな目と口が如実に剣士や兵士の雰囲気です。あえて例えるなら忠実なシベリアンハスキーですね。


 でも、素直ないい人なんだろうな。いまだに横でわたしの腰に手を回してる距離感バグってるこやつより、よっぽどわかりやすいわね。攻めやすそうな方からいきましょう。


 けど、ふたり並んだ時点で、もうわたしには、正体わかっちゃったんだけどね。ふたりともわたしのゲームの攻略キャラですもの。


もっとも横のキャラは設定とだいぶ性格が違う感じで確証持てないんだよね。お母さんそんなふうに育てた覚えはありません。


 でもここはアドバンテージを利用して揺さぶって本音を引き出したいところです。


「スリフトが、失礼な物言いしてごめんね。悪気はないんだ許してくれるかい?」


また、顔近づける。近い、近いっんだって! こんな攻撃に怯んでたまるかです。


「いえ、お気になさらず。怒ってなんかいませんけど……」


そう言って、スリフトと呼ばれるワンコ騎士に横目で視線を送る。バツが悪そうにこちらを見るのを確認してから


「でも、お詫びのしるしに彼の分もいただきますね」


そう言って、二本目の串焼きをつまんで、スリフト騎士に見せびらかすように一口パクリ。そんな悔しそうな顔しないで、本当に食べたかったの?


「んー! 美味しい! ありがとうございます。アルスト殿下とスリフト アルメリア様」


スリフトの雰囲気があからさまに、変わる。片手が腰の剣の柄に伸び、殺気が迸る。


素直ですね。正体言い当てられて、怒っちゃいました?

もう一段煽ってみようかな。って思ったら、突然右手を取られた。


アルスト殿下!? わたしの右手首を掴んで上へ引き上げ、わたしの食べかけの串焼きの残り肉をパクリ。


「「なっ!」」


わたしと、スリフトが同時に驚きの声をあげた。


わたしの中ではネコ耳ルナリアが肉取られてブーってなってますけど……


「肉取られたくらいで、怒るなよ。これで僕も共犯だよ。どうする、ス・リ・フ・ト」


からかうように、言い放って好奇心いっぱいの目をスリフトに向ける。その態度にスリフトが諦めたように、剣の柄から手を離してやれやれって感じで肩を竦める。


「もう、いいですよ。まったく、そんなおかしなギフトのどこがいいんだか。アルスト殿下、ご自分の立場を少しは、考えてください」

「いつも悪いね、スリフト」


特にすまなさそうにするでもなく、さらりと言い放つ。

ほんと、食えない王子ですね。


というか、まだわたしの右手も離してくれないし、最初からお腹に手回したまんまだし、ほぼ後ろから抱きしめられたまんまなんですけど。


抗議を込めて殿下の顔を見上げる。


気づいた、殿下がニッコリ、全然通じてません!


「もう、バレてるみたいだけど、改めまして僕がアルスト・オライオン・ド・ロメリア。この国の第一王子だよ」


さらに、逃がさないとばかりに顔を近づけてくるし!

そして耳元で甘く囁かれる。


「よろしくね、『透香』」


向こうの揺さぶりの方が一枚上手みたいです。どうしましょう……

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