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第7話 その4 「正ヒロインが、現れた」

 王都ロザリア、中央駅前広場。

 次元の裂け目から現れた黒鉄の神獣、スレイプニル。その背に乗る全身鎧の騎士に対し、群衆は恐怖?……それとは明らかに違う予感に突き動かされていた。


 ――プシュー、と。

 装甲の隙間から白い蒸気が噴き出す。


 重厚なヘルメットがスライドし、肩のアーマーが展開する。中から現れたのは、夜空を溶かしたような漆黒の髪と、見る者を凍らせるほど冷徹で、峻烈なまでに整った青年の素顔だった。


「「「「きゃああああああああああっ!!」」」」


 その瞬間、広場は戦場と化した。いや、黄色い悲鳴による暴動だ。


「あれ、学園の生徒会長! 『次元のクエルク』様よ!」

「クエルク様ー! こっち向いてー!」

 石畳を埋め尽くす街娘たちの波。お忍びのトップアイドルが白昼堂々身バレしたような、狂気じみた熱狂。彼女たちは一目見ようと、互いを押し退け、怒涛の勢いでスレイプニルへと殺到する。


 ***


 いつまで待っても現れないクエルク様に業を煮やしお嬢さまは諦めてホームを後にして駅の外に出てまいりました。兄を訪ねて0.1里です。


「まったく。どこで手間取ってるのかしら、我が兄さまは?」

「お嬢さま、ちょっと待って、待ってくださいー」


 スタスタと前を行くお嬢さまを追いかけますが追いつけません。手荷物の革製の大型旅行鞄が三個もあると二本しかないわたしの腕じゃ対応しきれませんよー


 やっとお嬢さまが立ち止まった。


「ヒィヒィ、お嬢さま。ちょっと待ってくださいね。今もう一個の旅行鞄を、持ってきますから」


 少し後ろにある旅行鞄を回収して再びお嬢さまの横に戻る。お嬢さまは、クエルクさまへのプレゼントのユニコーンの槍しか持ってないから楽そうですね。


「うわー、人がいっぱいですね。さすが王都です。お嬢さま、ほら見てください。あそこなんてすごい人だかりです。何かのイベントですかね?」


 駅前の広場の『都会』に圧倒されながら眺めてます。人だらけだー!


「クエルク兄さま!! ……何をやってらっしゃるのかしら」


 わたしも確認できました。先程の、イベントの中心にいらっしゃるのは、まさしくお嬢さまの兄、クエルク様ですね。


「わたくしの迎えも忘れて、何をしてらっしゃるのかしらね……我が兄さまは? まあ、広場にスレイプニルで派手に登場して身バレで女の子に取り囲まれている以外にみえませんけどね」


 身バレのアイドルですか……なるほど納得。兄妹揃ってお騒がせなのですね。


 それにしてもすごい人気ですね。ここからでも「クエルク様ー♡」なんて黄色い声援が聞こえますし、今も横で「えっ、クエルク様がいるの!」なんて声をあげて走っていく女の子が後を絶ちません。


 人だかりが濁流状態ですね。そろそろ危ないんじゃないかと思う過密ぶりです。


 ほらあの帽子を被った女の子なんて旅行鞄が人混みに流されて一緒に引っ張られてる。なんかわたしと同じく如何にも田舎から出てきましたみたいな感じの娘ですね。


「危ないわね、あの娘……」


 お嬢さまも同じ娘を見ていたみたい。そしてその、予感はそのまま的中しちゃいました。


 流されてた旅行鞄から耐えられず手を離した瞬間に別の人並みに横からぶつかられて、完全にバランスを崩すというより空中に放り投げ出されてる。


「「危ない!」」


 お嬢さまとふたりで叫んだ、でもその叫びは懸念した結果にはならなかった。


 スレイプニルから生える四本のマニュピレーター。それが、次元を引き裂いた先程の動きとは違い、優しくそして精密に空中に投げ出されたその娘をキャッチ、さらにもう一本が彼女の旅行鞄の回収までおこなっていた。


「すごいですね、あのギフト!」

「あの八脚馬! なんかわたしを扱う時とずいぶん違うわね。」


 お嬢さま、どんな扱いされてましたの、襟首ですか? 足首ですか?


 助けられた娘がお姫様抱っこのまま、クエルク様の方に運ばれている最中に深々と被ってた帽子が風でポロリと落ちた。


 あれって、もしかして……いやもしかしなくても間違いないわ。あんな髪色した少女絶対他にいない。


 ゲーム本来のヒロイン……


「こんなイベント、どのキャラでもなかったわよ!」

 思わず、声に出ちゃった。


「クエルク兄さま、ナイス! それ、当たりよ。逃がさないで!」

 お嬢さまも、思わず声が出てますよ。


 ***


 よくやった。スレイプニル! このわたしのせいで、怪我人を出すなどあってはならないからな。

《マスターホメテー》


 スレイプニルが転倒から救った少女をこちらへと運んでくる途中、彼女が深々と被った帽子が風でポロリと落ちた。落ちた帽子は空いてるスレイプニルの手で素早くキャッチ。


 重ねてよくやった。スレイプニル。

《ホメテーホメテー》


 この娘、すぐにわたしの脳細胞が照合を始める。大きめの旅行鞄、年齢十五歳前後、淡いブルーの瞳、美少女、ミディアムに整えた髪はピンク


 間違いない、さらによくやったぞ。スレイプニル! 

《ホメラレタ エヘヘ》


 この娘こそ、今期、特待生枠で入学する『南の聖女』だ。こんなに早く、目玉商品(リリィ レイン)に接触できるなんて、我が身の幸運が恐ろしいわ!


「大丈夫かい、怪我はないね。ようこそ、王都ロザリアに歓迎するよ『南の聖女、リリィ・レイン殿』


 ここで、軽く口角を少し上げて彼女を真っ直ぐに見つめる。笑顔ヨシ! 角度ヨシ! さあ、どうだ!


 見つめられた少女は、一拍、いや三、四拍ほども間を置いてから頬を紅潮させ目を逸らした。


 ヨッシャァ! キター! 少し間が長いな。ニブイのか? 少々修正が必要だな。


「あの、どうして、わたしの名を?」

「はっ! これは、失礼。君の可憐さに見惚れてつい名乗りを忘れてしまった許されよ。わたしは、サピエンティア・プラム学園で生徒会長を任されている、クエルク・フォン・アーネストだ。君のことは学長からも伺ってた所以、その美しい髪色を見てすぐにわかったのだよ」


 クエルクが胸に手を当て馬上ながら軽く会釈し騎士の礼をリリィに捧げた。まるで夢物語から抜け出してきた美しい騎士の所作。


「きゃぁぁ! 素敵!!」


 その姿に、周りの少女達が黄色い悲鳴を上げる。当のリリィ レインは必死に頭を手で隠して、帽子がなくなってることに気づいて今度はキョロキョロとそれをさがす。


 スレイプニルのマニュピレーターが拾ってあった、彼女の帽子を差し出すとすぐに頭に乗っけて顔まで隠してしまった。


 ふむ、髪色にコンプレックスがあるようだな。綺麗なのに勿体無いことだな。だがまずは、この周りの少女達をなんとかしないと、落ち着いて聖女を攻め落とせぬな。


 何かいい手は……おう、あるではないか、打ってつけの我が妹がそこに!

(スレイプニル、快天号に連絡を取って兵士を駅前のセシリアの後ろにならばせろ)

《らじゃあー、快天号、快天号。こちらは、クエルク中佐からのー緊急命令だよ……マスター伝えたよー》


 ギフト、スレイプニルが間延びした口調で答える。相変わらず、我がギフトとは思えぬ気の抜けた声を出す。まあ、それはさておきつゆ払いといこうか。


「お集まりの美しき淑女のみなさま方。わたしも美しきそなた達との会話をまだまだ、続けたいところではある」


「キャァァァァ」「ステキー」「こっち見てー」


 少女達が想い想いの声援を送る、それに答えるように片手を上げそして歓声をなだめる。


「だが、すまない! 本日はプライベートで王都に来た我が妹を保護回収するために参った故、危険だから早々にこの場を離れよ! わたしも美しきそなた達が傷つくのは見たくないのだ!」


 ザワザワとした波が居合わせた少女達に広がっていく。


「クエルク様の妹ってあの『北の災◯』!」

「アーネストの狂◯!」「小さな暴◯!」


 北の地を守るアーネストの姫の恐怖と破壊に彩られた数々の逸話とその通り名。その通り名をはっきりと口にしたらその夜にどこかに連れ去られる。少女達の間にはそんな都市伝説まである生ける恐怖。


「おお、我が妹よそこにいたのか!」


 クエルクが駅を見る。そこには、遠目からでもわかるぐらいの愛くるしい美貌を湛える少女が立っていた。ただその少女の纏う雰囲気は距離など関係無いとばかりの荒れ狂う北のブリザードだった。


 そしてその少女の後ろに、秩序と恐怖の北方のガーディアン、泣く子の口さえ塞ぐと言われるアーネスト軍の制服が雪崩れ込んできた。


「ねえ、あれ槍持ってない?」「なんでアーネストの軍隊が、ここに?」

 不安が少女たちの中に伝搬していく。


 セシリアの後ろで並び終えた軍人達が隊列編成の最後に大きく片足をあげ地面を踏み鳴らした。「ザッ!!」軍靴の音が響く。その音が合図と成り少女達の不安が恐怖へと堰を切った。


 次の瞬間には海が割れるがごとく、セシリアとクエルクの間に集まっていた少女達が我先にと逃げていく。そして、駅前の広場に恐怖のみが残った……


 そんな中で、我関せずとクエルクがマニュピレーターに抱かれるリリィに向かい、優しい笑顔を向ける。


「これも、何かの縁だ。君も、学園まで一緒に送ろう。いいね? リリィ レイン」


 そう言って、リリィの手を取りその甲に軽くキスをする。


 これで、どうだ……いけるか?


 リリィの顔がみるみる真っ赤に染まってピンクの髪より赤く染まった。それでも必死に絞り出すように小声で答える。うむ、律儀な良い娘だ。


「あっ、えっと……お願いします……クエルク様」


 よっしゃあー! 決まったな。聖女攻略第一段階コンプリート!

《マスタースゴイ、カッコイー》



「おう、我が妹よ! そんなところにいたのか心配したぞ!」


 取ってつけたような笑顔でお嬢さまに声をかける。


 人避け代わりされたお嬢さまから、ブチン!と何かが切れた音が聞こえました。堪忍袋の緒かな?


 お嬢さまが、ニッコリ微笑んで一歩前に足を踏み出し、クエルク様へのプレゼントのユニコーンの槍を大きく振りかぶりました。


 仲良しご兄妹ですね。


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