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第6話 その11 「バトルですわ」

「はーい、お嬢さま」


 お嬢さまの前に冷たく冷えたジンジャーシロップとレモンで作った刺激と炭酸が強めの特製スカッシュをお出しして、わたしもお嬢さまの後ろで同じものを飲みながら目の前の殿方達の熱いバトルを観戦です。


「ウーン、シュワっとして美味しい!」


 まあ、筋肉オークジェネラルが熱苦しいからちょうどいいです。


「いくぞ、小僧! 初撃で、くたばってくれるなよ!」


 ジェネラルの剥き出しの筋肉がさらに隆起した瞬間。シャムロックに突進です。タックルというよりは相撲のぶちかまし。さすがにこの質量の筋肉の突進シャムロックでも受け止めきれないんじゃない? でも予知があるからよけるよねと思ったら平然と受けて立ったのは『ゴートマン』に一瞬で変化したシャムロック。


 大ヤギの『リアークラッシュ(頭突き)』がジェネラルの突進に合わせて迎え撃つ。


ドガァーン!!


 衝撃音いや、炸裂音があたりに響く。これ、生物の出せる音じゃなくないです?


 オークジェネラルとゴートマンの額同士がガッチリとつき合わさって睨み合ってます。瞬間ゴートマンがシュルと姿を変えてシャムロックへと戻ると、小さくなった分を利用してジェネラルの懐に潜り込む。素早くジェネラルの足の間に腕を回し肩を付き当ててからの


「ウオッシャァァ!」


 気合い一発、あのジェネラルの巨躯を抱え上げた。さらに誇示するように一拍溜める。


「いけー! ゴートマン!」

 お嬢さまの熱のこもった声援が飛びます。


「ウォリャァァ!!」


 ジェネラルの巨躯を床に叩きつける。お嬢さまも一緒に持ってたグラスを、テーブルに勢いよく振り下ろす。ピシャってわたしの顔にまでジュース飛んできましたよ、

もう。


「これですわ、これ! やっぱり研ぎ澄まされた技の応酬もいいけれども、この泥臭い肉体対肉体のぶつかり合いですわ。わたくしも殿方に生まれてれば……」

「襟首を摘ままれてポイですか?」


 お嬢さまがもう一度グラスをテーブルにドン。「冷たっ!」またジュース飛ばされました。


 ブルブルっとジェネラルが首を振って立ち上がる。


「ちょこまかと変化しおって、『スプリガン』といいまったく魔族ってのは、やりづらいわ」


 ぺっと横を向いて唾を吐く。そこには少し血が混じってます。


「へー、スプリガンを知ってるのか、オッサン」

「あー何度か戦場で死合(やりあ)ったわ。デッカくなったり小さくなったりめんどくせージジイだったな。いい加減くたばったか?」


 ジェネラル様が、少し懐かしそうな笑みを浮かべてる。


「じいは、エルフ族だからな。まだまだ当分死なないぞ」

「なんだと! ゴブリンじゃないのか? ウソだろオイ!」


 ジェネラルの驚き顔にシャムロックも小さく破顔してます。

「あんたこそ、人族かよ? どう見てもオークだろう。こっちに来いよ。歓迎するぜ」


 そう言われてジェネラル様が、笑みを消しフンっと胸を張って姿勢を正しました。


「オークではない。我こそは、『オーク・リー将軍』である! 間違えてはいかんぞ、小僧」


 やっぱりオークジェネラルじやないですか、リーさん。


「さてお互いに自己紹介も終わったみたいなので、ここからは我々も参戦させてもらうとするぞ、覚悟はいいかな皇子殿」

「遠慮は不要だぜ」


 セバス様に答えたシャムロック。その居たはずの場所にどこから投げられたかわからないクナイがトントントンと刺さってます。


「きたわね、セバス。負けるな! ゴートマン! ルナリアおかわり!」


またグラスをテーブルに叩きつけるから、今度は氷が飛んできましたよ。もしかしてワザとやってません?


「はーい、いまお作りしますね」


 あくまで微笑みを絶やさないのがメイドの心得です。なんか混ぜてやろうかしらもう。


 もう大混戦です。とにかくシャムロックは動き早すぎです。これだけのスピードに加えてオークジェネラルに負けないパワーです。そりゃあ、強気にいけるわけですね。


でもセバス様方も、全然負けてません。


ドーンとジェネラルの重い一撃、これはシャムロックも当たるわけにいかないから当然に避けざるをえない。その回避方向を飽和的に他の者が攻撃で塞ぐというよりセバス様に向かうようそこだけ退路を開けて誘導していますね。連携の取れた統制された軍ならではの波状攻撃です。


でもシャムロックもそこは、お見通しみたいに身体を部分的にゴートマンの状態に変化させて、角や蹄といった刃物を通さない防御で無理矢理退路を切り拓いてく。


「そこよ! 避けて! いけー!」


もうお嬢さまは、ソファーの上でゴートマンと一緒に戦ってます。戦闘狂です。闘争よ、飽くなき闘争を我にですね。でもシャムロックばっかり応援してるのは、なんだかモヤモヤします。次のジュースもなんか混ぜちゃおう。


「ねえ、ルナリア。隠密が何人潜んでるかわかる?」

「セバス様、オークジェネラルペアに加えて部屋付きの軍人さんが4人に隠密が ひいふうみーと5人ですか総勢11名ですね」


ついでにお嬢さまの観戦ガイドとばかりに今潜んでいる位置や動きも解説します。


お嬢さまがポカーンと口を開けてこっちを見た。


「すごいわね、なんでそんな事までわかるの? 最近夜中にセバスに剣の稽古つけてもらってるからかしら?」


 

そうです、あのユニコーンの一件依頼、学園でのボディガードも務めなきゃならないとばかりにセバス様が毎晩、わたしに剣の稽古をつけてくれてるのです。


でもねこれは、稽古とは関係ないのです。


「お嬢さま、ルナリアは新たなチカラを顕現させたのです。ジャジャジャーン! コレです」


 そう言って、わたしはドヤ顔で頭の上にちょこんと生えた二本の赤い角を両手で指差す。


「ブッ、なにそれ? ツノ生えてますわよ」

「これこそが、シックスセンスセンサー!第六感受信装置です」


 ドヤ顔で言ってますけど、わたしも本当はこれが何か、ミリも理解してません。ちょと前に「戦闘する事もあるなら」とプラムがアップデートついでに実装してくれました。なんでも人間の五感以外のものをまるっと感知するセンサーとの事です。


 とりあえず隠密持ちとかは動けばわかる程度には優れものです。


「これで隠密さんの動きもバッチリです!」

「へーなかなか便利そうですわね。さすがわたくしのギフトですわ。じゃあこの後の戦況とかもビビビっと虫の知らせでわかるかしら?」


 うーんそっちは第六感じゃなくてプラムの予測演算だよね。


(どうプラム?)

《当該データー収集完了です。シミュレーション開始します。シャムロックが今のままの戦術の場合あと26回の攻防でシャムロックが追い詰められます。シミュレーション結果をリンクします》


「お嬢さま、今が一回二回三回だから、今のままならあと23回の攻防でシャムロックが追い詰められちゃいます」

「そんなとこまでわかるのすごいわね。でもそうね、そんな感じになりそうよね。あいつってば囚われてますものね」


 へー、お嬢さまもそう思うんだ。なんか引っかかる言い方もしてるけど……まあ戦闘民族には何か感じるものがあるのですかもね。


 わたしはプラムがリンクしてくれたシミュレーション結果を確認。ふむふむ、こう攻め込んで、こう返してふんふん、さすがセバス様、実を囮にして最後は虚で決めるつもりですね。で、気になる決着は?っと


へっ?! わたしー


 その時、背後でセバス様の声。


「ルナリア!」


 流れるような所作で、持っていた長刀をこちらに投げよこした。驚くわたしが、慌てて手を差し出せばピタリとそこに収まる。


「なにコレ、軽い!」


続いてセバス様の声。先程と違って逆らうことを、許さない命令。


抜刀(ぬけ)っ!」


声に逆らえぬまま、身体が即座に反応して鞘から刀身が滑り出す。

その刀身は自刃の重ささえ吸収したのかと思うほどの漆黒! そしてあつらえたようにわたしの手に馴染む。


「ひゃう!」


刃の向かう先に現れたもの見て変な声出ちゃったけど、わたしの思いと寸分違わぬ場所で刃がピタリと止まった。


 切先はシャムロックの首筋にピタリと当たってる。


「ヒュー! お見事。メイドさん♡」


 首筋に刃物当てられてるくせにシャムロックが涼しげに笑う。


「コレ、俺の負けかな?」

「皇子様は、ずいぶんお優しいのね」


周りの思考が一瞬で断ち切られました。


「皆様に合わせてあげるなんてね。」


 お嬢さまが口元に当ててた扇子をピタリと閉じる。そこにあるのは全てを小事と笑い伏せる自信に満ちた笑顔。


「ゴートマン! あなたのフィールドはそんなに狭かったかしら?」


 それを聞いたシャムロックの口元が愉快に邪悪に口角を上げる。

「さすがだ、お嬢さま! 壁や床そんなもんに囚われたなんてな。サンキュー! さあ第二幕の開始と行こうか!」


ドーン!!


 シャムロックの声を遮るような大音響が響き渡った。何事とそちらを見れば、ジェネラル様がパンチ一閃で執務机が粉々というか跡形も無く粉砕されていた。


「小僧! 負けだ負け、こちらの負けでいいぞ!」


 そう言って大声で笑い出した。


「かべや天井まで壊されて軍本部が破壊されたとなったら本気でただでは済まされなくなるしな。それにセシリア様が本格的に加わられては、ワシはともかく部屋付きの奴らは死んでしまうわ! 今回は負けで結構!」


「オーク・リー納得いったか?」


セバス様がジェネラルの肩に手を乗せて笑みを浮かべながらそう聞かれた。


「うむ、口先だけの小僧でないのは確かだし胆力も認めよう、うーん、まあ、仕方ないお嬢さまが惚れた御仁だ素直に祝福いたそう」

「小僧! お嬢さまを不幸にだけはしてくれるなよ」



ジェネラル様が、シャムロックの肩をがっしりと掴んで鼻声まで出して熱く語ってます。


 何かというか想像はできますけども、大変大きな勘違いをされてますね。そんな心配は不要です。天と地が認めてもわたしルナリアが絶対に認めません!

なんで手を止めたかな。あの時切っておくべきでした。


セバス様が呆れた顔でリー将軍に近づき


「全く何を勘違いしてるのか…… リー将軍、話を戻すぞ。さてセシリア様、どこに行かれるおつもりかな」


 セバス様が、この隙に乗じて逃げ出そうとドアを開けかけてるお嬢さまを呼び止めました。お嬢さまは、本当に抜け目ないですね。

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