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第6話 その9 「裸族の宴(サバト)

 軍本部に連行されたお嬢さまとお供の悪魔ふたりの御一行様は、窓ひとつなく使い古された長椅子がポツンとあるだけの、殺風景な部屋にひとまず詰め込まれました。


 セシリア様も網に絡まったままで置き去りです。公爵令嬢どころか人に対するとは思えない酷い扱いでございます。


 まだ、シャー! とかフーなんて威嚇態勢のお嬢さまを見ればそれも納得ですけどね。まずは暴れるケモノを網から出さないとですね。


「お嬢さま、大丈夫ですかー?」

「シャー!」


 手を噛もうととしないでください。ドウドウですよ。お嬢さま。

 フー!

 めんどくさいな。このまま放置する決意を固めかけてたところに、悪魔シャムロックが後ろからヒョイっと網の端を持ち上げた。お嬢さまが解ける網と一緒にコロコロコロって下に落ちて、床にビターンと着地です。


 床でピクピクしてるお嬢さま(それ)の襟首をつまんで、シャムロックの眼前に突き出す。


「シャムロック!もう少し優しく扱いなさい。お嬢さまがこれ以上壊れたらどう責任取るんですか!」


 シャムロックが顎に指を当てながら首を傾げてお嬢さまの顔を、ふんふんと確認する。


「大丈夫だろ。それに、多少壊れたって今さらだろこれ……イタッ!」

「フー!」


 ほら、顔引っ掻かれた。ざまぁです。


「シャ-!」「危なっ!」ドサッ! 手まで引っ掻こうとするから放しちゃいましたよ。猫ムーブの割に着地がさっきから未熟ですよ。お嬢さまも『ざまぁ』でございます。


「痛いですわね。まったく」


 ようやく言葉を思い出しましたかお嬢さま、人の世界にようこそです。腰をさすりながらお嬢さまが長椅子のど真ん中に腰を下ろす。


「ふう、まったくもう。本当に疲れましたわ。どうせこの後、セバスのお説教か将軍が無理をふっかけにくるんでしょうけどね。とりあえずちょっと休みましょう」


 お嬢さまが、長椅子の空いている席をポンポンと手で叩く、お言葉に甘えまして横に座らせていただきますね。


 ドサッ!


 誘われてもいないくせに、さも当然とばかりにお嬢さまの隣に座るんじゃありません。キッと睨んだつもりなのにニコッとして手を小さく振り返された。


「まったくだぜ! あんたも、セシリアお嬢さまといると大変だな」

「なにを他人事みたいに言ってるんですか、今回の騒動はあなたにも責任あるんですからね」

「まあまあ、ふたりとも落ち着きなさい、誰が悪いなんて今さら詮索しても詮無きことですわ」


 一番の原因がよくそんな道理を口にできますね。まあ確かに今さらですけど。


「それにしましても、その姿すごいですわね。一体どうなってるのかしら?」

「あっ、これですか。悪魔モードです。まあ半分はイリュージョンみたいなもんですけどね」

「へー、じゃあ触っても大丈夫なのね」


 そう言ってお嬢さまがわたしの胸に手を伸ばしてきた。手がホログラムの刃のドレスの中に沈みこみ直に胸に触れた。


「ポチッ?」

 お嬢さまに先端の敏感な部分を指でなぞられた。


「「△□✖〇▣◎!!」」


 お嬢さまとわたしが同時に声にならない叫びをあげる。わたしの叫びは……言わなくてもいいよね。胸に手を当てお嬢さまから逃げる。わたし顔真っ赤です。なんでこういうときに限って、そこをピンポイントで当てるのですかお嬢さま。本当にもう!


 お嬢さまのは想定外の事態に驚いた叫びですが、次の瞬間にはわたしがどういう状態なのかを即座に把握したお嬢さまが、オモチャを見つけたときの、邪悪ないたずらっ子の笑みを浮かべた。


「ねえ、ねえ。ゴートマン。この子ってば、裸族ですわ! 露出メイドですわ!」


 お嬢さまが、ニヤケ顔をこちらに向けたまま、後ろ手でシャムロックの太ももををぱんぱんと叩く。ぱんぱんと叩いたつもりのお嬢さまがその手に感じた予想外の感触に手を止めて振り向く。


「むにゅ?」


 お嬢さまの手の先はシャムロックのホログラムでできた白い腰巻きの中に消えていた。


「ヒュー! お嬢さま、だいたーん」


 シャムロックがお嬢さまに、軽く舌を出してドキッとするようなイタズラな笑みを返す。お嬢さまの顔が口を開けて固まったまま、朱に染まりだす。


「な、なっ! なんで、あんたまで裸族なのよ! なんてものをわたくしに触らせますの!」


「この姿の時には、そんなものらしいから仕方ないだろ。それにゴートマンの時にも触ってたから、慣れたもんだろ」


「なに言ってんのよ! あれはあなたが気持ちよさそうにお腹出して寝てるから、つい目について、ちょっと突っついただけですわ。って、起きてたのにされるがままにしてたのですか。このヘンタイ山羊!」


「まあ、気持ちよかったからな」


 しれっとシャムロックが、とんでもない告白してるし、まったくなにをしてるのですか、ふたりとも! お医者さんごっこですか? 幼き日の甘酸っぱい思い出ですか? このアオハル少年少女どもめ。


 とりあえず、これ以上お嬢さまが触ってくる前に悪魔モード解除っと

 《Cancellation of transformation(変身解除)》


 可愛いメイドに戻りましたよ。


 シャムロックも同様に変身を解きました。仕立ての良い白のシルクの開衿シャツに黒のシンプルなパンツ。鍛え上げられた筋肉で造形された身体は小麦色の肌をまとった彫像です。


 ラフに流した白髪には黒のメッシュが混じり髪の流れと同じように、頭頂に向かう対の角。額には白択と同じく赤い秘石とそれを囲む目を想起させる朱色の縁取りが、紛れも無い魔族だと主張しています。


 それにしても、顔がいいわね。ゲームの攻略キャラとして美形設定したから当然だけど、実物はヤバいですね。小麦色の肌なのに氷を思わせるようなクールな美青年です。


 年相応の幼さが無ければわたしでも、ヤバいところです。お嬢さまも、目を奪われて……あれなんか不満気に見てますね。好みじゃなかった?


「ちょっと大きいからっていい気にならないでくださいね」


 お嬢さまがシャムロックに悪がらみしてらっしゃる。


 そっちかー、シャムロック大きいもんね。2m前後かしら体躯もいいから尚更大きく感じるものね。


「うん? 今、セシリアお嬢さまの声がしたけどどこにいらっしゃいますかー」


 シャムロックが、わざわざ立ち上がりあたりを見回す。お嬢さまが、ぐぬぬって顔してシャムロックのスネを蹴ろうと足を上げるけどヒョイと躱される。


「ここにいらっしゃいましたか、セシリアお嬢さま」


 シャムロックが、からかうように大袈裟に腰を屈めて手を胸に当て騎士の様に挨拶をする。さしものお嬢さまも至近距離であの整った顔を突きつけられては、耐えられなかったみたい。ぷいっと目線をそらしたけどほっぺが桃色に染まり出してます。


「悪かったって。からかいすぎたって機嫌直せよ」


 シャムロックが何を勘違いしたのか、お嬢さまの頭をワシワシと撫でながら謝りだしてます。乙女心が理解できないとんだ唐変木(スカポンタン)です。まだまだお子ちゃま野郎です。


「頭、撫でないでよ、バカ!」


 お嬢さまってば、膨れっ面の赤い風船ですよ。カワイイ♡


「シャムロック、お嬢さまもをあまりからかわないでください」


 お嬢さまを、後ろに隠すように間に割って入る。


 シャムロックにはまだあげません。これは、わたしのお嬢さまです。

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