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第6話 その8 「悪魔プラン」

「みなさま、お見知りおきの方も多いと思いますが、セシリア様のギフト特A級ヒューマノイドメイドの「ルナリア」です」


 兵士の方々と群衆の皆様に向きを変えながら何度か笑顔でペコペコとご挨拶。


「あれがルナリアかAAA+++とかの最上位ギフトだよな」

「本当、人間そっくりね」


 そんな感想が耳に入ってきます。さあ、始めますよ。

《Start Transfer of Demonic Form(魔転移開始)》


 会場に現れたギフトを名乗るメイドを見つめる群衆や兵士がとある異変に気づき始める。


「おい、空が変だぞ」「なんだ暗くなったのか? 紫色?」

空というより彼らを取り巻く空気がパープルブラックに染まり出していた。


 そして群衆がもう一つの変化に気づき出す。


 壇上でニコニコと挨拶していたセシリア様のメイド。その銀糸の髪がパープルブラックに染め上げられ淀んだ空気を切り裂くように輝き出した。そこから2本の角がゆっくりと姿を現す。その角は生物が決して持たない鋼の輝き(やいば)の鱗で形作られていた。


 伸び出づる角が複雑に湾曲し生え揃った時には、そこにいたはずのメイドはすでに一匹の魔と成って佇んでいた……


 悪魔というよりも天使のそれに近い形の翼。しかし、その羽の一枚一枚がギラギラと白銀に輝く刃、それは。天に仇なす禍々しい凶刃の翼。その後ろに見える(なまめ)かしく動く刃の鱗で造られた尾。妖艶な肢体はドレスなのか体から生えているか判別もつかないキラキラと輝く刃が幾重にも折り重なりその悪魔を美しく装飾していた。


(やいば)の悪魔……」


 そんな言葉が何処からともなく上がる……その姿は美しく静かに佇んでいるだけなのに、居合わせた群衆は本能的に、自分が決して逃げられない悪魔に遭遇していることを理解し恐怖する。人々がその恐怖に耐えきれず叫びパニックする直前。


「初めまして、セシリア様のギフト『ラプラスの悪魔』ルナリアでーす!」


 恐怖の象徴の悪魔が間の抜けたメイドの声を発した。呪縛が解けたように人々がホッと息をつく。


「今日はみなさんパレードに参加ありがとうございます。お嬢さまになり代わり再度お礼申し上げまーす!」


 群衆がその容姿と間の抜けた声と態度に困惑し、やがて苦笑が起き出した。


「お集まりのみなさま、兵士のみなさま、一つ誤解を解きにこの姿になりました。誤解というのは、ここで暴れてみなさまにご迷惑かけた『ゴートマン』は魔族なんかじゃありません。ゴートマンはね……」


その瞬間ゴートマンの体がシュルシュルと変化して山羊から人のシルエットに変わる。


だが、顕現した姿は決して人ではなかった。手や足は山羊のまま褐色の毛で覆われて頭には巨大な雄山羊のツノ、背中から腰に沿って背骨の節の数だけあるのかと思うほどの対の角が生えていた。


恐ろしげな様相とは裏腹に小麦色の肌に涼烈なまでに整った美しい顔、肩からかかる金色の馬具以外は幾重か巻いた白色の腰巻きのみの姿が鍛え抜かれた彫像のような肉体美を一際引き立たせた。


群衆から……特に女性たちからの黄色い歓声が湧き上がっています。プランプラン大丈夫かな?

《問題ありません。拡大し確認しますか》

(絶対にやめて!)


「わたくしの眷属、悪魔です。魔族と一緒にしないでね!」


突然現れた、2体の悪魔に観衆が動揺を隠せていませんね。それ以上に動揺してるのが、ゴートマンことシャムロックです。


「おわっ! なんだこれ? どうなってる? でもなんか力が漲るぞ! おい白択、こんなすげーのなんで隠してた?」

《隠してたんじゃないメェー。アカシックからの許可が無かったメェー。あと、管理者様に話を合わせるように言われてるメェー》

「すげー!メチャクチャ力入るな、コレ気に入った」


シャムロックが力こぶ作ってポージング。再び女の子たちから黄色い歓声が上がってます。あんまり動くと見えちゃいますよ。

《拡大し……》(お黙り!)


(ナイスポーズでーす!)心の中で声援してあげるね。さてそろそろ締めましょう。スースーしてわたしも恥ずかしいからね。シャムロックを促して二人でお嬢さまの前で膝をつく。


「我が眷属が大変な無礼を申し上げ申し訳ありません。我ら神にも抗える力を持つもの。我らには人も魔族も同じ、等しく愛おしく思っています。この者は魔族に近いこともあり、ゆえについ口が過ぎました。どうかお許しを」


面食らったお嬢さまもようやく理解されたらしく、ニッコリと外向けの令嬢スマイルを作る。


「大丈夫ですよ。もとからお見通しですわ。ただわたくしも少しみなさまを焚き付け過ぎてしまって、魔族に向けた悪感情が高まることを恐れましてゴートマンと一芝居打っただけですわ」


さすがお嬢さま、息を吐くように嘘を吐きますね。お嬢さまが今度は群衆の方に向き直る。


「見ていてみなさまは、どう思われました? 魔族に対する悪感情。それは決して正しいものではない。そう思われたのではないでしょうか。そのとおりです。憎悪を向けられることそれ自体が争いを生む原因なのです」


少し下を向き、もの悲しげな目線を群衆に向ける。


さっきまで憎悪剥き出しだったのはだれですか―悪魔変化以上の変わり身の速さです。


「確かに我々は7年前に魔族と戦争を行いました。今でもその傷が癒えない人々も多くいるでしょう。それでも再び争いを繰り返さぬために、今一度みなさままには考えていただきたいのです。永久に憎むべき隣人のままなのか、それともいつか共に歩み寄れる道が本当にないのかを!」


お嬢さまがまともなことをおっしゃってます。聴衆の間にも、今までの殺気が消えゆっくりと沈黙が広がっていきます。


「その答えは、今のわたくしには、わかりません。でもそれが絵空事の理想だったとしても、いつか皆が分け隔てなくそうなれることを切望してやまぬこと、それだけは、今ここにお伝えして本日は終わりといたします」


お嬢さまが聴衆に向かい深々と頭を下げました。


やがてあたりから小さな拍手が聞こえ出しました、それは決して大きくなることはないけれど長く鳴り止まぬものとなりました。


なんか、感動です。お嬢さまがこんなに心に響くまともなことをおっしゃるなんて。今まで人でなしとかド畜生とか言ってごめんなさい。


「ルナリア、ルナリア。逃げるわよ」

「えっ!」

「バカ!静かにして。いいからこの場から逃げるわよ」


 お嬢さまが頭を下げたまま小声で囁いてます。それになんか目線が上のほうをしきりに気にしていらっしゃる。


 その目線を追うようにわたしも上を眺めると石造りの軍本部、その三階の窓から一瞬オークと間違えるくらいすごい体躯の偉そうな軍人さんと見知った顔がこちらを見下ろしてます。咄嗟に下向いたけどダメ、目が合っちゃった。


「お嬢さま、ごめんなさい。セバス様と目が合っちゃいました。」

「バカ! 何やってるのよ。もういいわ、わたしが逃げる時間をゴートマンとふたり仲良く悪魔コンビで稼いでちょうだい、期待してますわよ。ルナリア」


お嬢さま、多分もう無理です。軍本部から明らかに顔つきが違う精鋭部隊みたいな兵隊さんがゾロゾロ出てきてます。あといつもの隠密の方々も絶対逃さんぞって気配をあからさまにこちらにぶつけてます。


わたしとシャムロックはあきらめて、おとなしく手を上げて投降です。逃亡を企てたお嬢さまは2分36秒で投網に絡め取られて、動けなくなったところを網ごとぶら下げられて連行されてます。


「セシリア様ー学園でも頑張ってくださいねー」

「お体に気をつけてー」


群衆からあたたかい声援が飛んでいます。そして声援を送る群衆はみなさま「これが見たかった」と言わんばかりの満足した表情をうかべております。


愛されてますね、お嬢さま。


ちなみにお嬢さまは網の中で現在、シャー! って威嚇態勢でございます。


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