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第6話 その6 「演説アジテーション①」

パレードがアーネスト軍本部前に到着です。本部前にも軍の楽団が出迎えに出ていました。重厚な演奏の流れるなかお嬢さまが側にいる近衛に槍を戻して本部前の階段へと向かう。


ふう、これでいきなり槍で突かれることは無いから戻れますね。お嬢さま、パレードの演出なのにその後もずっと槍を手放さないで悪魔狩モードで危なくて近づけないんだもん。


軍本部の建物は古代の神殿を思わせるような石造りで正面全面に十段程度の階段が続き入口前のエントランスは重厚な柱で装飾された庇が支えられている。軍の式典等で演説や各種の授与式ができる舞台にもなってます。


お嬢さまも今、パレードに付いて来た群衆の見守る中その壇上へと階段を歩んで行くと……思いきやゴートマンのジャンプ一発で壇上に飛び乗って咆哮一閃


「メェェェ!!」


群衆のドヨメキも楽隊の音楽も全て黙らせてお嬢さまが語りかけます。


「我が愛するアーネストの領民の皆様、本日はサプライズのパレードを共に盛り上げていただいたこと感謝いたします」


お嬢さまの言葉が響き渡る。


お嬢さまの周りに浮いてる羽毛ボールみたいなのが声を拾い、聴衆の頭の上をふよふよと浮いてる風船付きラッパが声を拡声しています。誰かのギフトなんだろうけどなかなかニッチな性能だなあ。


「楽しかったわー!」「すごかったよー!」そんな言葉と拍手が群衆から湧き上がる。お嬢さまが、それに応えるように胸元で小さく手を振る。


「ここでご紹介いたします。今、騎乗しておりますのは、わたくしの新しき力! 知恵の獣、『召喚獣ゴートマン』ですわ!

「メェェェ!!」


咆哮と共に前脚を高々とあげ後肢で立ち上がる山羊特有の『リアークラッシュ(頭突き)』直前の構えを決める。騎乗するお嬢さまも高々と右の拳を天に突き上げた。


その勇猛なる獣の姿に突き動かされるが如く、「「「「うおぉぉぉ!」」」」と群衆から声が上がる。


「わたくしは、明日この新しき力を従えて、『王立サピエンティア・プラム学園』入学のためにこの地を離れます。みなさまも知ってのとおり、学園は高位の貴族や豪商の子息そして才能を認められたものたち、いわばこの世界の将来を担う者たちが集う場所です。先に入学した我が兄『クエルク』は、2年間首席たる学年代表を務め2年次には早くも生徒会長へと推挙される学園の不動のトップ。我がアーネストの優秀さを学園でも広く知らしめております」


「さすがクエルク様だな」「完璧超人の異名は伊達じゃないな」なんて声が上がってますね。


わたくしルナリアもそんな群衆の中をなんとか、お嬢さまのもとにたどり着こうと……


無理です!


人多すぎて前に行けません! おまけにみんな興奮してるから無理矢理前に出ようとしたら殴られそうです。怖いです。


「そして、わたくしセシリア・フォン・アーネストも、まずは学園入学前の筆記試験で、全科目満点にて学年代表の任を獲得したことをここにご報告いたします」


「クエルク様に劣らずセシリア様も有能なのね」「さすがアーネストだな」なんて称賛の声が上がってます。それにしても群衆の波に飲まれて離れることもできません。苦しー。


「ですが、みなさまお忘れにならないでください、わたくしが、こうして頑張れるのもこの肥沃な大地と豊かな資源、この美しいアーネストの地がわたくしを育んでくれたからであることを!」


 壇上のお嬢さまは声のトーンや抑揚まで加減調整して聴衆を惹きつける。実はコレ、ちゃーんと演説のレッスンも受けてるんですよね。さすが、為政者たるアーネスト家です。


 お嬢さまの演説はレッスンの弁士の先生が絶賛するほど上手いんです。だからこそ心配なのです。だって、お嬢さまの演説はいつも脱線していって最後は…… とにかくはやくお嬢さまのもとにたどり着いて演説を止めないとなりません。


「しかし、この豊かなアーネストそれは神に与えられた約束の地であったでしょうか? いいえ、この豊かな地を求め掠め取ろうとする愚かものたちが、絶えたことはありません。その度に我らの先達たちの血によって、守られ続けてきた、いわば、まさに血の結晶なのです! そして今もその脅威が消えたわけではありません。北には統一を果たしさらに脅威を増すノクスリア魔族帝国、そしてその帝国に飲み込まれた西と東の国々は今も内乱が絶えない無法地帯と化し軍隊でさえもはや暴徒化し略奪を繰り返す始末。争いの種は今もあらゆるところにあるのです。


群衆に少し停滞した空気が澱んでいる。これはいけません。最初に不安を募らせるのはアジテーションのテクニックです。お嬢さまの暴走が始まり出しました。


「だけども本日、わたくしはしっかりと感じました。このパレードに参加したみなさまの陽気な声、あふれる笑顔、この街に溢れる活気、そして平和! これが皆で守り続けてきた、アーネストなのだと!」


お嬢さまが、ゴートマンから壇上にフワリと降りて大きく手を広げる。


「見てごらんなさい、この輝かしい街を! そしてこの平和と安寧こそが、わたくしたちが守るべき至宝であると!」


大きく開いた手を優しく抱きしめるように胸元へと引き寄せ目を伏せる。その姿が地母神の慈しみのように聴衆を魅了する。そして聴衆の視線がセシリアに極限まで集中する。胸元の手を強く握り締めその目に強き意思を持って聴衆に語りかける。


わたくしは確信いたしました! この平和を乱す不届き者は、それが悪魔であろうと、帝国の軍勢であろうと、あるいは運命そのものであろうと——わたくしとアーネストの軍、……いいえ! ここに集う愛すべき我が民が、その誇りにおいて全てに鉄槌を下すのだと!!」


「「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」」


居並ぶ兵士がいっせいに槍や刀など持っている武器をガチガチと鳴らし応える。軍本部前に集まった群衆が、地響きのような雄叫びを上げました。

それはもう、感謝や喜びの声ではありません。全てを屠る、血気盛んな戦士たちの咆哮です。


なにしてるのお嬢さまー

(そうだ! プラム 鳩よ! 鳩のホログラムよ 平和の象徴の鳩を飛ばして!)

《ホログラム "飛び立つ鳩の群れ"投影を開始します》


「我が、アーネストに栄光あれ!」


お嬢さまの決め台詞! 背後から飛び立つ鳩の群れ!


完全に逆効果です。お嬢さまを偶像化する役にしか立っていません。今ここに次代の覇王の誕生です。


「アーネストに栄光あれ!」「セシリア様に栄光あれ!」「我らに栄光あれ!」


小さな少女までも足を踏み鳴らし力の限り唱和しています。


アジテーションです。プロパガンダです。狂える戦闘民族はこうして作られていくのですね。

平和は何処に……


なんて嘆いてたら、壇上でとんでもないハプニングが発生です。


「お前まで、ノクスリアを敵視するんだな」

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