第6話 その5 「パレード④」
花びら舞う最高潮に盛り上がってる妖精達の舞踏会場。
よし、最後はわたしも! 花の妖精に変身して、この盛り上がりを最高潮に持っていくわよ!
私はパレードのど真ん中、一番目立つポジションに躍り出ました。頭の中でお姫様のような可憐な妖精の姿をイメージし、プラムに命令を送ります。
(プラム、私にも最高に可愛い妖精のテクスチャを上書きして! 行くわよ、変身!)
《……リクエストを確認。ですが、個体識別コード:ルナリアには『妖精属性』の適合データが存在しません。代替案として、既存のパーソナル・イメージを最適化して展開します》
(えっ、ちょっと待っ——)
「はあああっ!!」
気合の声と共に、私の体がひときわ強い光に包まれました。
観客が息を呑み、花の妖精(踊り子)たちが「次はどんな可愛い妖精が?」と期待の眼差しを向けます。
光が弾け、そこに現れたのは——。
編み上げのハードなロングブーツ。黒いチュールとオーガンジーをこれでもかと重ねたボリューミーなゴシック・スカート。腰にはギュッと締め上げられた黒革のコルセット。
そして、頭には禍々しくもキュートな赤いツノと、お尻からは矢印型の悪魔の尻尾。
「……は? 悪魔?」
《報告。ルナリアの性格および日頃の言動からの演算結果とデモンドラプラスシステムからの拒否権発動により妖精はシステム上無理と判断されました。こちらの『小悪魔モード』が現在の最適解です》
(プラム! あんた、私をなんだと思ってるのよ!?それにラプラスの悪魔の拒否権ってなに!?」
「まあ! 悪魔が出たわ!」「演出……よね?」
ザワつく観客。踊り子たちの引きつった笑顔。
今更「間違えました」なんて引っ込むわけにはいきません。トラブルを味方に臨機応変です。
(……こうなったら、悪役を演じきってやるわよ!)
私は不敵な笑みを浮かべ、ナノマシンをフル稼働させます。
「おっほっほ! 綺麗な花園なんて、この私が焼き尽くしてあげますわ!」
《ホログラム:エフェクト変更——『虚像の黒炎』展開》
バサっと背中に炎をまとう悪魔の羽を展開。
私が手を振り上げると、妖精たちが舞わせた花びらが次々と黒い炎に包まれ、燃え尽きていくような演出が始まりました。
「きゃあ!」「助けて!」
踊り子たちに目配せすると、彼女たちもプロ。すぐに「怯える妖精」を演じてくれます。一気にパレードが『正義vs悪』の寸劇会場へと早変わりです!
さあ、ここでお嬢さまの出番!
私はゴートマンに跨るセシリアお嬢さまをビシッと指さしました。
「さあ、勇者セシリア! この悪魔ルナリアを止めてごらんなさい!」
私が渾身の悪役スマイルで挑発した、その時でした。
お嬢さまの目が、スッと据わったのを私は見逃しません。
「……よく分からなくてよ、ルナリア! でも、挑戦されて逃げる選択は我がアーネスト家には存在しないのよ! よろこんで受けて立ちますわ!」
お嬢さまは隣の近衛の騎馬兵の肩を叩くと、有無を言わせぬ手つきでその手に握られた長槍をひったくりました。素早すぎて近衛兵が空の手を見て"?"を浮かべてます。
……えっ、お嬢さま? それ、演出用の小道具じゃなくて、本物の、しかも研ぎ澄まされた軍用槍ですよね?
「覚悟なさい、不届きな悪魔! そのツノ、私がへし折って差し上げますわ!」
「ちょ、お嬢さま!? 目がマジ! 殺る気満々じゃないですか!?」
お嬢さまは槍を構え、ゴートマンの脇腹を強く蹴りました。
「行け、ゴートマン! 突撃ですわ!」
「メェェェ!」
猛然と突進してくる巨大な影。穂先がキラリと太陽を反射し、私の喉元を狙っています。
死ぬ! これ、演出じゃなくて物理的に消滅させられるやつだわ!
私の計算回路が真っ赤な警告を発したその瞬間。
主人の暴走を察したのか、あるいは私の哀れな姿に見るに見かねたのか——賢明なゴートマンが、槍が届く直前でその巨大な頭をグイッと下げました。
「なっ……!?」
「あ、ごふっ!」
お嬢さまが槍を突き出すより一瞬早く、ゴートマンの硬い額が私の下っ腹にクリーンヒット。そのままの勢いで、私はラグビーボールのように空高くと跳ね上げられました。
(ひぃぃ、ゴートマン、ナイス判断! 命拾いしたわ……! きっちりレバーブロー決まってるけど)
ほっとするのも束の間、
「逃がしませんわよ、ルナリアーーーッ!!」
地上から響く、獲物を逃したハンターのようなお嬢さまの絶叫。そして投擲される長槍!
(きゃああー ガチ討伐ですかお嬢さま!!)
なんとか空中で身体を捻って長槍をかわしたけどスカートのレースちょっと裂けてます。
危なかった! 間一髪です! どういう思考回路でかわいいメイドを討伐できるのあのお嬢さま! ってお嬢さまがゴートマンの上に立ち乗りで2投目の槍を構えてらっしゃる!
《……ターゲットの空中射出を確認。最終シークエンス:『花の龍』、緊急展開》
お嬢さまの「本気すぎる追撃」が来る前に、上空で私の体は無数の花びらに飲み込まれました。
直後、空を割るような咆哮とともに巨大な花のドラゴンが顕現。私をパクリと咥えて空の彼方へ消え去り、最後はまばゆい光の花火となって霧散しました。
「「「おおおおおっ!! さすがセシリア様だ!!」」」
「悪魔を、一撃で追い払ったぞーーー!!」
沿道は、文字通り割れんばかりの大喝采。
……槍を握ったまま、獲物を見失ってキョロキョロしている「最強の勇者」セシリア様は、期せずして街の英雄として称えられることになったのでした。
……ふぅ。着地は屋根裏にでも滑り込もう。……あのお嬢さま、あとで絶対に『なんで消えたのよ!』って追いかけてくるわよね。怖い、狩られかけた惨めな悪魔は震えが止まらないです。




