第6話 その2 「パレード①」
ついに、お嬢さまの出発の日が明日に迫りました。
出発の準備なんかはこのメイド検定……そうそう、メイド検定特級のスーパー有能メイドルナリアちゃんにかかれば準備万端モーマンタイでございます。そんなわけで今日は午後ちょっとした用事がある程度でレッスンなんかもありません。屋敷のみなさまに旅立ちのご挨拶にまわりませんかとおすすめしたのです。
「わかったわ。そうね、良い提案ね。これは、盛り上げないとですわね」
何をおわかりになられたら、どうして盛り上げるという発想になるのでしょう? メイドごときには理解できないアンポンタンな深い考えがあるのでしょう。
その仕込みにと、お嬢さまがゴートマンを呼び出して、前々から密かに作っていた背中のツノに装備する『ゴートマン騎乗セット』の試乗を希望したのが始まりでした。
「なんで、俺がそんなものつけられて、おまえをって痛っ」
「おまえじゃないでしょう!セシリア様か、お嬢さま!」
お嬢さまがゴートマンの顎髭をひっぱる。人面山羊が不満たっぷりに口を斜めに尖らせ。
「はい、はい。なんで俺がセシリアお嬢さまを背中に乗せなきゃいけないんでございますです?」
「はいは、一回でイイですわ。覚えておきなさい」
意にも介さないとばかりに、お嬢さまがゴートマンの目の前に、試乗セットを広げて見せる。
後ろのふたつのツノの間を渡すように張る革製の背もたれ。お嬢さまが、100枚近くイメージを重ねた、山羊を、モチーフにしたアラベスク柄が、革職人の丁寧な革彫刻で全面に施されてる。
そして同じく細工の施された前側のツノにかける手綱、こちらも芸術的工芸品の逸品。これを目の前に掲げて、上目遣いの無邪気な笑顔。見事に天然のアザトカワイイです、お嬢さま。
「見てちょうだい、ゴートマン! あなたの為に作りましたのよ。素敵でしょ! ねっ!」
あーあ。人面山羊が赤くなっちゃった。この笑顔守りたいだね。ゴートマンの中のシャムロック青年じゃ、これ断るのは無理ですね。
「し、しかたねーな。作っちまったもんは、使わないと、まあ勿体無いしな」
ほらね。ちょろいなゴートマン。もうちょっとからかって、あげようかしら。ムフフ。
カニ歩きでゴートマンの横にそそそと近づいて、山羊のお耳にモニョモニョっとね。
「お嬢さまをお乗せして、あの可愛らしいオシリの感触とか楽しんだら、ぶっ飛ばしますよ」
言われると、ゴートマンは、ついお嬢さまのオシリをチラ見して、のどをゴクリと鳴らした。真っ赤になっちゃった。かわいい思春期男子ですね。見た目は妖怪人面山羊ですけど。
ゴートマンが足を折って体を低くすると、お嬢さまが騎乗セットを取り付けてご自分もヒョイと跨ります。今日はドレスじゃなくて軍服です。近衛の人の白色と違いアーネスト家の正規軍のオリーブグリーンの軍服。
なんでお嬢さまが軍服なのかと言うと昨日の夜にセバス様から、明日軍司令から呼び出しがあるので着るように言われたからなんだけどね。
アーネスト家の方針なのか、お嬢さまの趣味かはわからないけど、軍籍もちゃんと持ってるんですって。
話は、さておきお嬢さまもう満面の笑顔です。
「さー行くわよ! ゴートマン! お屋敷の皆様にお披露目よ!」
「メェェェ!」
ゴートマンに乗って颯爽とお嬢さまが進み出す。
背もたれもついてて確かに乗りやすそうではありますね。
パカパカ進む……山羊だからパカパカじゃなくてメェメェ進んでいくと庭師のおじさんが声を掛けてきました。
「あっ、お嬢さま。すごいの乗ってるね」
「わたくしの召喚獣、ゴートマンですわ」
「ヘー大したもんだね。そういやお嬢さま、明日には出発なんだろ。寂しくなるな」
「ええ、明日出発ですわ。みなさまにはしばらく会えなくなりますが、くれぐれもお身体には気をつけてくださいね」
「そんな気遣ってもらってありがたいな。そういやちょっと待ててくださいな」
そう言って庭師用の納屋に入って行って戻ってくると、その手にはカラフルな花のリースをふたつ抱えてた。
「もう花の時期も終わりますんで、ドライフラワーにしようと編んでたやつです」
小さめの花の冠をお嬢さまに手渡し、大きなリースをゴートマンの首にかけようとすると、食べようと口を近づけてお嬢さまに怒られてる。
相変わらず人とは思えない山羊ムーブです。
「とっても、素敵ね」
お嬢さまが、花の冠を頭に乗せ、ゴートマンも花の首輪でおめかししてお屋敷ツアー再開です。
続いて向かうは厩舎ですが、もう着く前から馬がゴートマンの気配を察知して大パニック状態です。厩務長含め厩務員から馬に乗りに来てた近衛の兵まで含めて、魔獣でも侵入したのかと警戒アンド臨戦体制でお出迎えいただきました。
厩舎が見えた途端、いきなり矢の雨です。自動予知が無かったら、矢だらけメイドになるとこです。危ないな。
ゴートマンの方もさすが予知持ち、こともな気にピョンピョンと矢を避けて厩舎前の迎撃部隊まで跳ねてって後ろ足で立ち上がり轟音一発。
「メェェェー!!」
その場に居た人も馬も魔獣の咆哮に金縛り状態、そこからさらなる悲劇が彼らを襲う。
「何をするのです! このわたくしに、矢を向けるなどいい度胸ですわね」
その手には、どこで掴んだのか射られた矢が1本握られてた。その矢を両手に持ち直して、ポキンと折ってニッコリ
「弓矢の訓練ご苦労様ですわ。続いては、魔獣相手の白兵戦訓練ですわよ。準備よろしくて!」
その場に居た厩務員や近衛の心もポキンと折りまして。
「やっておしまい! ゴートマン!」
「メェェェ!」
逃げ惑う人々が、次々とゴートマンの頭で空中に放り上げられる様は、まさに阿鼻叫喚地獄絵図です。
お嬢さま、白兵戦じゃなくて一方的な蹂躙ですそれ……
ほぼ全員をゴートマンが放り投げてお嬢さま、満面の笑顔です。
「ふう、みなさま訓練ご苦労様でした。旅立つ前のいい思い出になりましたわ。ありがとう」
「あーそういえば明日でしたな。本当に寂しくなりますな」
厩務長がそう言って、皆様しみじみとよい雰囲気を醸し出してますが、さっきまで槍持ってこいとか、いい機会だスキル打ち込めとか割と本気でしたよね。わたしなんてとばっちり食うの嫌で馬房で小馬と一緒に震えてましたもの。




