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第5話  その10 「悪魔のお誘い」

「透香、君の作品はね悪い人が出てこないんだよ。それじゃあダメだよ」


「求められてるのは悪役が報いを受けるシチュエーション。つまり"ざまぁ"だ」


 う・る・さ・い!


 そんな回想要らない!


 セシリアに悪役押し付けたのはわたし。


 ほらみろ、人に無理やり役割を押し付けるのがどんなに残酷で酷いことか、今身をもって味わってる。


 必死に考えて努力して限界まで頑張ってやっと手に入ったと思ったものがいとも容易くなかったものにされた。


 それも不条理に。


「運命の神様」「ゲームの強制力」それが必要であっても……


 でもダメだ。こんなチートなイカサマは許さない。これを仕組んだのが制作者であるわたしかもしれないと思うと、背筋がざわつき血の気が引いた。

 

 許せない。

 許せない。

 許さない!


 もう地獄に落ちたっていい、わたしこそが落ちるべき罪人じゃない。この不条理なチートを覆せるなら悪魔にだって魂売り渡すんだから!


 トントン……

 神に仇名してこの世界を……

 トントン……

 

(何? 今いいところなんだから邪魔しないで)

『でもね、透香。悪魔に魂は売れないよ』

(いや、決意の表現であってね。わたしの怒りをって……!?)

 

 何その格好?


 振り返ると二頭身ネコ耳ルナリアが黒のチュチュ付きレオタードに、赤いツノのカチューシャつけてオマケに♠️の尻尾


 か、かわいいじゃない。

 

『だって悪魔はわたしだもん』

 

 そう言って中が黒い透明なビニールの袋を投げ渡してきた。受け取った袋には「あくまセット・とうか」の文字

 

《"ラプラスの悪魔"の起動承認要請確認》

 

《システム上ありえませんがマスターセシリアの同意を要請しています》

ネコ耳悪魔が親指を立てて微笑んだ。


 ――――

 

 お嬢さまが両の手を胸の前でギュッと握って(うつむ)いている。その足は小刻みに震えてる。

 

 悔しいでしょうね。


 わたしはそっと近づき横に立つ。お嬢さまの項垂(うなだ)れた頭をゆっくりと撫でる。

 

「もう服戻したのね」


 自分でも気づかなかったけど服はいつものビクトリアンメイドに戻ってた。

 

「ルナリアももう終わったと思ってるのね」

もう、足どころか指の先まで小刻みに震えてる


「わあああああー!!」


「あったまにくる! ほんとうにもう叫ばずにいられないのよ!」


強く握りしめた両のこぶしが絶叫を絞り出す。


「どうしてですのねえどうして! あんなとこで滑ってんのこのバカ山羊!」


 ビシッと山羊を指差して地団駄を踏み鳴らす。


「メェ」

気圧されてなんかちっさくなってる


「もうタイミングも読みもバッチリでしたのに、絶対いけると思ったのに……こうなる運命なの……わたしが悪い子だから……」


 もう涙がこぼれ落ちる寸前です。


 違うんです! お嬢さまは、悪くなんかないんです! お嬢さまにこんな顔させるなんて……思わず叫んでしまう。

 

「まだです! まだおわってません! だからまだダメです!」

 

 お嬢さまが、両手をグッと握りしめて唇を噛んで、溢れそうな涙を堪える。

 

 お嬢さまの前に立ち、両手で胸に引き寄せ抱きしめる。そして、小声で静かに語りかける。

 

「運命なんてあきらめないでください。いつだって神様は気まぐれなんです」


「でもお嬢さま、神様は気まぐれでも悪魔は契約を絶対守りますよ」

「ルナリア、なんの話をしてるの?」

 

「神様をぶっ飛ばそうって話ですよ。お嬢さま」

 

「もし悪魔がいるとして、この状況を覆せるならお嬢さまはなんでもしますか?」

「当たり前じゃない!でもなんでもはダメだってわたしの大好きなメイドが言ってたから、大好きなメイドを捧げるくらいの覚悟はあるわ」

 

 わたしの胸から顔を上げて小狡い笑顔を向ける。この性悪さんめ。


《accept 承認完了 シーケンス準備開始》


「とにかく、まだ終わってませんよ。お嬢さま」


 抱きしめてた手を解いて、白択に向き合う。

 

《戦闘時1秒限定は継続中です。戦闘状態への移行を要請します》

 

 ありゃ、もう一つハードルがあったか


「ねえ、お嬢さま。あの山羊怒らせてこっちに向かって来させられません?」

「お安いご用ですわ。あんな山羊ちょろくってよ」


 お嬢さまが一歩前に出た。


「スリップして難を逃れてもわかっていますよね。あなたが負けたんだってこと」

「メェェェ!」

「だから、始める前に言いましたよね。"これでいいの?"って」


お嬢さまが腰に手を当てもう片方の手でビシッと白択を指差し弾劾する!


「人に判断を委ねて自分で何も決めないまま、これでいいのって。今のままじゃ、覚悟も勇気もないただの餓鬼のままですわよ!」

「メッメェェェ!」

 

「でも、大丈夫ですわ。わたくし慈悲深いもの。最後のチャンスをあげる」

「メェェ」

「今度はあなたが鬼よ。さあ自分で決めて見せなさい!」

「メェェェ!」


 ああ、お嬢さま。どうしてこう核心をついちゃうのです。正論は時に人をいちばん傷つけるのですよ。

 ごめんねハクタクくん、お嬢さま荒治療しかできないみたい。

 

 《戦闘モード入りました》

 山羊かこちらに向かって前足を擦り上げる

 

 お嬢さまの耳元で囁く

 

「お嬢さま、わたしに悪魔の生贄は無理でした」

「へっ?」

「だってわたしが悪魔ですもの」

 

 お嬢さまを抱えてヒョイっと上に放り投げるそのまま足を掴みなおして横旋回開始。

 

「生贄役はやっぱりお嬢さまにお譲りします」

「歯、食いしばってね」


 《"デモンズラプラス"シーケンス スタート》


「ちょっとおろしなさい。えっなんかルナリアあなた光ってますわよ。ちょっと」

 

 お嬢さまの絶叫をBGMにして、わたしを構成する全量子が歓喜し演算を始めた。


 思考が加速する――

 

 刹那を永遠に引き延ばし……無限を一にするため。わたしは虚無の泉(アカシック)の水面に立つ

 湖面に映り消える無限の記憶……

 

 ……チャプン

 《コネクテッド データベース アカシック》

 

 世界の全ての記録を(たた)え続ける虚無の泉

 その水底へと、落ちていく……

 

 《フルダイブ》

 

 ――ラプラスの悪魔、それは物理学の思想的寓話。

 世界が物理法則に従うなら、現在の全てを観測できれば過去も未来も計算で導き知ることができる

 そんな悪魔のお話――


《Passing intermediate data depth(中層深度通過)》


 ――でも時代は進み量子力学の台頭、不確定原理の量子のゆらめきが(つまび)らかになると

 神様はいつでもサイコロを振るギャンブル狂、蝶の羽は混沌(カオス)で惑わし

 箱の中の猫には後ろ足で砂をかけられ、悪魔はすっかり居場所をなくす――


 《Approaching deepest point(最深部接近)》


 ――世界の全てを記録すれば世界から溢れる。――そんなパラドックス


 《Reached deepest point(最深部到達)》


 トプン……


 《breakthrough(ブレイクスルー)


 虚無の泉その水底のさらに奥――

 水飛沫を上げ水底を抜ける。

 落下する感覚。下には底しれない無限が広がる――


 天地が入れ代わる。上は下に空は大地に

 上に落下する。


 眼下には虚無の泉(アカシック)がハニカムのごとく並ぶ世界……


 やがて落下は緩み静かに水面に立つ

 

 チャプン……

 水面に波紋が静かに広がる――


 虚無の果て、世界じゃない場所。


 その水面に虚ろに立つ、わたし……水面(みなも)に映る姿は悪魔……


「あはっ」

 小さな笑みがこぼれる。

 

 暗転の天空にひとすじ青い光が走る。それは数を増し光が幾何学模様を形造る。

 

 《デモンズラプラスシステム:スタート キャルクレーション》

 

 天空に青白い光が回路図を描き出す。巨大で微細な回路が無限に積層され全天を覆い尽くす。

 主人の帰還を歓喜する演算(サバト)

 その光が水面に投影され天と地が溶け合う

 

 やがて水面に泡のように1秒後の未来が浮かび上がる

 量子のゆらめき。可能性のカケラが水面を埋め尽くす。


 ――悪魔は悪魔なのよ


 わたしの中のラプラスの悪魔は未来なんか予知しない。

 世界の外で全てを演算し、蝶の羽は引きちぎり、猫の箱には鍵をかけ、神様のサイコロにはイカサマを

 全てを捻じ曲げて――

 

 選んだ未来のみを世界に押し付ける


「見つけた」

水面に立つ悪魔がひとつの未来をつかまえた……


《コンプリート》


 ――――


「いやーー! ルナリア、やめなさい、や、やめてー!」

 

「よっこいーしょっと!」


 ゴチン!!

「プギャア−!」「ギャフン!」


 《セシリア・白択の衝突により白択内部のナノマシーン対消滅を観測》

「ふう!」

 


 そしてわたしは、

『お嬢さまと山羊のおでこゴッツン』という、

しょーもない未来を世界に押し付けた。



「お嬢さま、すごいです!」

「わたし『ギャフン!』って本当に言う人初めて見ました。感動です」


 お嬢さまが寝たまま人差し指を立てて見せた。


 白択の件、無事解決です!

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