第5話 その8 「水玉と迷彩服」
最後の鬼ごっこが始まりました。
初っ端からお嬢さまがいきなり攻める、攻める。
お嬢さま、最初は相手をじっくり観察するって作戦忘れてませんよね?
よく軍事教練に混ざって体動かしてるから体の動きは本当にいいのよね。あとすばしっこいのよね。自分の体格だとか何ができて何が不得意かっていうのがきちんとわかってるんだろうな。
「また逃しましたわ。ヒラヒラ、ヒラヒラと目障りですわ」
「メェェェ!」
「このお!お待ちなさい!」
「メェェェ!」
お嬢さまもピョンピョンよく動くな。
右に左にフェェイント入れたり誘ってみたりと千差万別縦横無尽、鬼ごっこ大会があればトップランカー狙えると思いますよ。わりと本気で。
でも王家主催の鬼ごっこ大会とかないからね。残念。
ただあの山羊相手だとやっぱり手も足も出ないのよね。手を伸ばした瞬間にはもう回避モーションに入ってるし、フェイントなんかは完全スルーされちゃうものね。
相手の攻撃が読めて避けれるだけの技能があれば無敵のチート能力だよね。
ちなみにわたしの予知は単純に1秒後の未来の可能性を予測演算するだけなの。だから今回みたいに実力差がある相手となら、1秒前に敗北を味わえる愉快な能力になっちゃう。
「そろそろかしら。」
わたしの長考中も全力鬼ごっこを楽しんでたお嬢さまが小さく呟いた。
次の瞬間
パシュ!パシュ!パシュ!って無数の音が耳に入り直後近くでパン!って破裂音がした。
ビチャビチャビチャ!
ウェッ!何か顔にかかった。すぐに手で拭って見ると黒い液体がついていた。鼻先に近づけて嗅いでみる。
「絵の具?」
お嬢さまが絵を描いてる時に鼻にした絵の具の匂いがする。顔を上げれば庭中がお嬢さまご自慢の24色絵の具セットのカラフルな世界に染まってました。
その真ん中でお嬢さまが満面のドヤ顔で腕を組んで仁王立ちしてる。
黄色と黒の無数の飛沫を浴びた跡が服にも顔にもつていた。お嬢さまの視線の先には、青と白の水玉模様をつけたヤギがいた。
「メェェェ!」
「あら、やっぱり何でも避けれるわけではないのね。ざーんねん」
「メェェェ!」
「お気に召しました?わたくし特製の時限式の色水爆弾は、水玉模様でキュートになられましてよ」
「メェェェ!」
白択が、地団駄踏んでる。
「あらやだ、そんなに怒らないでくださいまし、これでも朝から早起きして心を込めてあなたのために作りましたのよ」
「メェェ!メェェ!」
あれ、めっちゃ文句言ってるよね。
「あらわたくしも、汚れちゃいましたわ。すこし身なりを整えてきますのでちょっと休憩といたしましょう。しばし草でも喰みながらお待ち願いますわ」
「いきますわよ。ルナリア」
めっちゃ笑顔でお嬢さまがテラスに戻っていく。
わたしもハッとして後を追いかける。
「すこしスッキリしたわ。気持ちイイ!」
本当にいい笑顔でドヤってらっしゃる。
「お嬢さま早起きしてるかと思えば何をなさってたのですか」
テラスについて手近にあったフィンガーボールに水差しの水を注いで濡れタオルをを作る。
それをお嬢さまに手渡す。
「色水入りの水袋をしならせた枝に仕込んでたのよ。あとは線香を使って時がくれば一斉にピューンといってバチャ!ってね」
「どう、なかなか良かったでしょう」
お嬢さまが、してやったりって得意げに口角をあげた。
「枝を引いてる糸をどう切ろうかとかどう気付かれないようにとか色々工夫しましたわ。おかげで大成功よ」
あーよっぽどストレス溜まってたのですね。とにかく相手の下にいるのが我慢できない子なのね。努力を惜しまないイタズラっ子がここに誕生してしまわれました。
「けどほんとに罠とかは技量だけで避けてたのですね。たいしたものね」
かと思えば、冷静に感心したりとか忙しいですね
顔と髪についた絵の具を落として、お嬢さまのお色直しまあ服は着替えなくてもいいかな。緑の下地に黄色と黒の飛沫模様で完全に迷彩柄で野戦仕様でなんかかっこいい。
わたしも顔と髪を拭いてっと、服はエプロンに黒の染みが点々、特にカッコよくないただのばっちいメイドでした。
「あとすこし観覧いたしますわ。観察が必要なんでしょう。しばらくあなたひとりでお相手してあげて」
フリーダムです。
まあ、全力であれだけ動いたから体力回復したいのもあるんでしょうけどね。
お嬢さまは目で見て覚えるタイプだし大丈夫かな。
わたしはどちらかというと身体で覚えるタイプなのでラストの作戦までしばし山羊さんと実戦練習です。
「お嬢さまは、しばし観覧されますので、ここからはわたくしがお相手いたしますわ。いきますよー水玉山羊さん」
「メェェェェェ!!」
あっ怒った!
* * * *
「ゼーハーゼーハー、もうダメ足プルプルです。ごめんなさいわたしもちょっと休憩」
もう嫌ってくらい体で覚えました。もうじゅうぶんっていうかこれ以上いりません。
「メェェェ!」
ピョンピョンとバカにしたように飛び跳ねおって。ぐぬぬ。全然衰えないな、体力無限大ですか、そうですか。
ゼーハー言いながら、お嬢さまの座ってる席まで辿り着く。
「はい、お疲れ様」
お嬢さまがコップにレモンジュース注いで出してくれた。
「注いでいただき、ありがとございますー」
ゴクゴクゴク
「おいしー生き返ります。お嬢さまに入れていただけるなんて天にも登れそうです」
お嬢さまのジュースは浸透率が違います。メンヘラ思考です。気持ち悪いですか?
「で、いけそうですの?」
「はっはい逝きそうです」
パシ!頭叩かれて睨まれました。すいません浮かれてました。気お取り直してっと
「コホン。お嬢さまの奇襲で動揺もしてますからいけると思いますよ」
「それはどうかしららね。あれは単なる小手先の意趣返しですもの、案外冷静なんじゃないかしら」
「どちらにしても時間もないので次で仕掛けます。相手がパターンに入ったらよろしくお願いいたします」
「そうね、どちらにしろこれで最後ですものね」
お嬢さまが席から立ち上がって、決戦の場へと歩みを進める。
ちょっと緊張してます?
「お嬢さま、少し固くなってますよ。」
お嬢さまのお尻をポーンとね。あらカワイイ!
「キャッ!」
慌ててお尻押さえてこちらを睨み返してくる。
「お嬢さま、リラックス。リラックスです」
パシーン! パシーン!
「痛っ! 痛いー!」
2回もオシリ蹴り返されました。
「痛いですーお嬢さま」
「あら、アーネスト家は倍返しが家訓ですのよ。それに大きいから蹴りやすいわね」
「お嬢さま、ひどいてす。気にしてるのに!」
お嬢さまがこちらを見てニコリと舌を出して見せた。そして、再び前を向いて
「さあ、いきましょう。あんまり殿方を待たせるものじゃなくってよ」
「はい、お嬢さま!」
わたしは、ニッコリ微笑んで答えます。




