第5話 その7 「最終日の作戦会議です」
FINAL DAY
最終日の朝です。お嬢さまもさすがに、気合いが入っているのかだいぶ早くお目覚めになってたみたいです。
いつもと違って一人で着替え終えて、部屋でシャドーボクシングしてらしたもの。それもキック入りです。お部屋に入った時は、ちょうど相手の頭を抱え込んで飛び膝蹴りの態勢でした。
キレがいいです。絶好調ですねお嬢さま。
そのあと朝食をサッサとすませて、お嬢さまとダンスのレッスンルームに来ています。
「お嬢さま、鬼さんこちら手のなる方へ。Catch Me If You Canですよー」
捕まえようとお嬢さまが手を伸ばす。わたしはその手を右に体を開いていなす。さらに伸ばしてくる手をもう一度右にいなす。次は左にいなしてちょっと前に出て誘います。
それから後ろに下がって最後が右。
「お嬢さま、覚えられました?」
「覚えましたわ、次はわたくしが逃げてみますわ。」
そう言って攻守を逆にしてもう一回鬼ごっこ
「どうです、完璧でしょう」
おーすごい、もう覚えちゃった。何やらせても卒がないな。これで性格が残念じゃなきゃ完璧令嬢なのにね。残念が残念です。
「さすがです、お嬢さま。先程話したとおり、この動きが多分あの山羊の癖です」
何をやっているかというと、昨日プラムに解析してもらった白択の戦闘パターンを覚え中なのです。
わたしの前世での剣道の師匠であるお祖父様。実際にいくつ目かの大戦時代を経験されたマジ武士みたいなおじいちゃんだったのね。
「道場でしか練習してないと強いやつほどダメな癖がつくんだよ。研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど体がパターンを覚えてしまうんだ」
そんなことをよく言っていた。
魔族との戦争はもう7年近く休戦状態だと、前にお嬢さまの地政学の先生がおっしゃってました。
ならお嬢さまと同い年の設定だった白択は人との戦いはさほど経験してないはず。その強さの根底は実戦よりも訓練によって培われたものだろう。
変な癖がついてる可能性が高い。
要は、何度も繰り返しの練習で体が覚えた攻撃はコマンドひとつで繰り出せるスキルだけどパターン化されてて同じ動きをいつもしてしまう。
攻撃を先読みできても、どうそれを避けるかは白択が決めること。素早い連続攻撃にあったとき、ついパターン化された癖が出る。
そこが今回の狙い目。
『わたしわかってもパーンってやられるよ』
ネコ耳ルナリアがVR空間で頭を押さえてる。うんそうだね。でもわたしたち戦闘用じゃなくてメイド家電ギフトだからそれでいいのよ。
「で作戦はどうなるのかしら?」
タオルで汗を拭きながら近くの椅子に腰掛けた、お嬢さまが尋ねてきた。
「基本的には、わたしが山羊を追いかけて先ほどのパターンを誘発させます」
「その最後のステップの位置にお嬢さまが先回りしておけば、山羊がピョーンと自分から飛んできてくれるって算段です」
手をピョーンって感じで動かしてご説明
「攻撃をしないお嬢さまの位置は、山羊は先読みできないはずです。待ち伏せ可能です」
「それでうまく捕まえられるのかしら?」
お嬢さまが不安気な瞳を向けてくる。
お嬢さまの懸念を払拭しようと、胸元で人差し指をピンと立てて、数えるように順を追って説明を始めた。
「まずひとつ、捕まえなくてもいいんです。一瞬だけでも白択に触れればわたしたちの勝ちを声高々と主張しましょう」
お嬢さまが、「えっ?」て顔でこちらを見る。
「幸いというか情け無いことですがここまでの2日間、あの山羊には一回も触れることができてません」
「えっ?」 から、「ムッ」に表情が変わりました。
「それに鬼ごっこってそういうものです。だからタッチさえすれば言いくるめられる筈です」
「特にお嬢さまなら絶対大丈夫ですよ」
お嬢さまの表情が、「オー」に変わりました。
「それもそうですわね。なんかいけそうな気がしてきましたわ」
ちょろいなお嬢さま。
「そのために重要なのがまず山羊に作戦を悟られないように、今までのように不特定な罠を置いたり色々とやって注意を逸らします」
お嬢さまがノートをとり出した。相変わらず変に真面目です。
「前半はとにかく山羊の動きをじっくり観察です。ワンステップでどれだけ飛ぶかとか把握が大事です。決行は後半の1時間切ったあたりで始めます」
ノートをとってるお嬢さまが顔を上げるのを待って目をみて話し始める。
「ここからが重要です。この作戦の要であり賭けでもあります」
「もったいぶってないで、早くお話しなさい。わたくし待たされるのは嫌いよ」
すこしタメをつけてから盛り上げるのが演出なのに、このせっかちお嬢さまめ。
「最後のひとつ前の後ろに下がった動作のあと、パターンどおりならば右に避けます、当然、お嬢さまはその位置に居ればいいのですが、右か左かどちらに入るかはお嬢さまにおまかせします」
お嬢さまがペンをクルクル手で回しながらちょっと思案中。いいなあれ、わたしできないんだよね今度教えてもらおうっと。
「それは気取られてパターンを変えるってことかしら?」
「そうです癖はあくまで癖ですから。多分、向こうも自分の癖は把握してるんじゃないかな。だから、こちらの作戦を見抜く可能性も半分くらいはあるはずです」
「でもそんな時は見えない後ろに避ける危険は冒さないはず、前や上に逃げるんならわたしが死ぬ気でタッチします。だから右と左はお嬢さまにおまかせいたします」
「最後の一手はお嬢さまもわたしも自由に選ぶんです」
「それが最後の攻略ピースです。うまく欺いてカチリとハマるかズレて合わないかは、賭けですけどね」
お嬢さまを見ると腕を頭の後ろで組んでペンを鼻の下に挟んでいた。
何してらしゃるの顔、顔が台無しですよー
「本当に大丈夫なのかしら?でも最後の選択はわたくしがサイコロを振っていいのね」
「ダメだったら仕方ありませんよ。昨日の話どおり『残念会』開いて一緒に悔しがって泣いて、次切り替えていきましょうー! ね、お嬢さま」
わたしはワザとイタズラな表情を浮かべて嬢さまに答えるそれを聞いて、同じくイタズラな表情を返しながらお嬢さまが答える。
「そうね。それでもいいかしら」
わたしとお嬢さまはそのあと打ち合わせどおり庭に罠を仕掛けにきました。
今回は地味な嫌がらせトリック。
「草を結んで足を引っ掛ける罠」をお嬢さまとふたりで昼まで黙々、結結と草を結び続けました。
ランチの前に庭弄りで汚れたお嬢さまのお着替え。
深い緑の軍服風ドレス。ダブルブレストの銀ボタンと高襟に黒い大リボンと赤い魔石。スカートは黒いフリルとレースを重ねてボリュームある裾広がり。
動きやすさと周りの緑に溶け込むカモフラージュ効果にさらに今日の本気度アピールの渾身のチョイス!
「お嬢さま、ゴスロリかわいいですよー 悶絶してもいいですか」
「ゴスロリ? よくわからないけど悶絶はおやめなさい。怖いから禁止です!」
「はーい」
お嬢さまに付き従ってテラスのランチに向かいます。
白択め、お嬢さまの可愛さに見惚れるなよ!
ランチ会場のテラスにはもう山羊さんがいらしていつものように牧草を喰み喰みしてました。
「本日もお越しくださり、光栄ですわ。今日で最終日ですがこれから先もよろしくお願いいたしますね」
暗にこの勝負に勝って召喚獣にする宣言で挑発してらっしゃいます。ほんと、負けん気強いんだから
対する白択はあれ、草食べてた口を止めてボーっとお嬢さま見つめてる。
本当に見惚れてるじゃない。ダメです。あげません。お嬢さまはわたしのですー
ランチを食べながらしばし談笑。
「メェェェ!」
「いやですわ、そんなお褒めにならないで恥ずかしいですわ」
「メェェェ!」
相変わらずなんで言葉通じてるのでしょう?……
けど今日は二人ともぎこちない。 緊張なのか、お互いを探りあってるのか、昨日までは無かったぴーんとした糸が張ってる。
そしてほどなくして午後の最終日の鬼ごっこの火蓋が切りおろされました。
エイエイオー!です。




