第5話 その5 「悔しい夜にはスイーツを」
お嬢さまの夕食を取りに食堂に行くと、何故だかみなさま夕食時間はとうに過ぎているのに大賑わい。
「みなさま,ずいぶん賑わってますね。何かあったんですか?」
近くの席にいた麦酒片手で赤い顔した厩務員さんに訪ねてみた。
「おっ! 勝利の女神様だ!」
「いやな、今日のブックメーカーでうちの大将(厩務長)が、見事ルナリアちゃんの転んだ回数をピタリと当てて大儲けさ」
「で、『今日の酒はオレのおごりだー』ってんで、みんな大騒ぎだよ!よくあんなに転けたもんだよな。さすがだぜ!」
ようは人の失敗を肴に盛り上がってるんですね……
馬鹿騒ぎの中心で本日の主役の厩務長がジョッキ片手に自慢げに語ってる。
「だからよ、予想ってのはよ、馬とおんなじでちゃーんとそいつを見なきゃ当たんないんだよ」
「オレはな、あのメイドとお嬢さまをよーく見比べて、コイツはもうメイドの方が圧倒的に転ぶってピンときたね」
「おいおいどこ見てたんだよ。どうせあの腰にでも見惚れてたんじゃねーの!」
横で飲んでた、近衛の副隊長がチャチャを入れる。
「アハハハ! 違いねーわ。あれでギフトだってんだからほんとにもったいねーよな」
「「「そりゃそうだ」」」
数人が同時に相槌入れる。
ワッハッハー
「あいつらー!」
近くのテーブルからお盆を両手に持ちまして
《軌道計算完了 投擲シーケンス開始します》
* * * *
喧騒の食堂を後にして、お嬢さまの夕食を持ってお部屋に戻ってくると、ちょうどお嬢さまも目お覚ましところみたい。
手を口にあて小さくアクビをしながら音に気付きこちらに目を向ける。少し瞼の下がむくんでる。口角も下がってる。
あー、気分はまだ落ち込んだままなのですね。
「お食事をお持ちいたしました。こちらにどうぞ」
部屋のティータイム用のテーブルに夕食の盆を置いてお嬢さまを座らせる。
「であの後はどうだったのです? まああれでしょうけど」
「はい、結局触れることもできず本日も完敗でした。申し訳ございません」
グラスに食事用の水がわりの林檎酒を注ぎながら、お答えする。
「もういいのよ。向こうは知恵の獣なんて呼ばれる魔獣様ですもの」
お嬢さまが前菜に手を伸ばしながら答える。
「所詮、決闘自体最初から無理だったということですわね」
「そうかもしれませんね」
お嬢さまがフォークを止めて上目で私を見上げる。
「ずいぶんとあっさりしてらっしゃるのね」
前菜の皿を下げて、スープをテーブルにお出ししながら
「そんなことありませんよ。とか言って欲しかったですか?」
「ルナリア、あなたね!」
キッと睨むような目線をこちらに向ける。わたしは、お嬢さまの鼻先に人差し指をチョンと触れてから左右に振る。
「チッチッチです。ルナリアは、お嬢さまの賢いメイドなのでそんな無意味な励ましはいたしません」
「セバス様曰く、ヤギとわたし達の間には5年と5倍の人数を必要とするような圧倒的な実力差があるのです」
「それをちょっと励まして、やる気出させたくらいでその実力差が埋まりますか?」
我ながら14歳の少女に対して酷なこと言ってるな。お嬢さま泣いちゃわないよね。
「だから逃げるのも全然ありだとも思ってますよ」
「お嬢さまもわたしも、決して負けが許されない正義のヒーローでもあるまいし、どうしたって勝てない相手なら逃げちゃうのも全然ありですよ」
「それで、反省会や残念会開いて一緒に泣いたり悔しがったりしてまた次を目指せばいいのです。何回だってやり直しは聞くのですから」
お嬢さまがポカーンと口を開けてこちらを見てる。そんなおかしなこと言ってませんがお嬢さまにはそんな考え自体ないのでしょうね。
「そんな考え方もあるのですね……」
ちょっと口元を緩めて俯く、でもすぐにこちらをまっすぐな目で見つめる。
「それでも、わたくしはセシリア・フォン・アーネストは勝ちたいのです! 家の権威やプライドなんか別にしても、ただただ、勝ちたいのですわ。ただ負けることが悔しいの……」
お嬢さまの言葉が霞んで消えていく、消えた言葉が瞳に潤んでこぼれ落ちそうにこちらを見つめてくる。
この気性がゲームでは破滅をもたらした原因なのに、今のわたしには美しく気高い宝石のように見えちゃうのよね。
「ちゃんと言えるじゃないですか。悔しいって」
「ならまだ勝負は終わってないのです」
「まだあと1日もあるんですよ。昔の偉い人は言ってました『諦めたらそこで試合終了です』と、
最後の最後まで知恵を巡らせ勇気を振り絞って考えて動いていきましょう」
どう決まった?お嬢さま感動で涙こぼしてる?
「何当たり前のこと言ってるのかしら、先程自分で言ってましたわよね。それでも埋められ無い実力差があると、だから困っているのであって根性論で解決できるなら、今日もう勝ってますわよ」
「言ってることが矛盾してますわよ。反省なさい、ルナリア」
もう涙も引っ込んで呆れ顔の傲岸不遜ないつものお嬢さまがいらっしゃいました。
「申し訳ございません。反省いたします。生意気な口聞いてごめんなさい」
あれなんでわたしが言い負かされてるのでしょう?自分で思っている以上にわたしアホの子なのかも。
「でもなんか少しスッキリしましたわ。感謝いたしますわ、ルナリア」
お嬢さまは中断していたスープを掬い飲み込んだ。
「それにしてもあの攻撃予知というのは厄介ですわね」
「今日もみている限りだと捕まえようと直接手を伸ばしたときには、知ってたみたいにヒョイと避けられますのよね」
「そのとおりですね」
「でもね、落とし穴とかは一瞬足を掛けてから気づいて避けるんですのよ。それで、その予知っていうのは相手の攻撃を先読みはできるけど、落とし穴みたいな気配のないものは予知できないんじゃないかしら?」
お嬢さまよくみてるのね。
多分、それは正しいんだと思うんだけど、あれだけ巧妙にお嬢さまが隠しても見破られるのよね。こっちの方は予知じゃなくて戦闘経験なんだろうけどね。
「まあ,そうだとしても半端な罠ではあっさり見破らるのだからこちらもダメそうですのよね」
そう言いながらお肉をパクリと口にはこんだ。
「もう間違ってピョンと飛び込んでこないかしらね」
「それなら楽なんですけどね」
メインデッシュを下げデザートをお出しする。
ほろ苦そうなショコラ。上に1枚ミントの葉、皿の脇に絞り出されたクリームと苺が添えられてる
んーおいしそう。
「はい」
お嬢さまがショコラを一切れフォークで刺してわたしに向けてきた。
「そんなおあずけ中の犬みたいな顔で見られたら、落ち着いて食べられませんわ」
はっ!ヨダレでもでてましたか? でもせっかくお嬢さまがくださるのですから喜んでご相伴させていただきます。
「でわ、お言葉に甘えて。アーン」
パクリ。
「んーおいしい! ありがとうございます」
甘いもの食べて脳が働き出したのかちょっといいこと思いついたかも。さすがお嬢さまのケーキ、こうかテキメンね。
さっきのお嬢さまが言った「ピョンと飛び込んでこないかしら」
厩務長の「ちゃーんとそいつを見なきゃ当たんないんだよ」
セバス様の話,食堂での罠の話。いろんな話があたまの中でぐるぐる回ってそれがピタリと噛み合い、ひとつのアイデアが浮かんだ。
(プラム、白択が逃げる時に、回避方向に癖とかパターンがないかチェックして)
《解析開始します…………完了》
(何か見つかった?)
《パターン化に当てはまりそうな事例がひとつ見つかりました》
(そのひとつって?)
なるほど、なるほど。
もしかしてこれいけるかも、どうせ八方塞がりならベットしてみる価値あるかも!
「お嬢さま、わたしちょっといい案、浮かんだかもです!」
食後の林檎酒に口をつけてたお嬢さまがちょっとだけこちらを見て
「ルナリア、あなたのいい案とか悪い予感しかしないのは何故かしらね。まあ怒らないから言ってごらんなさい」
お嬢さまわたしもよくそんな気持ちになります。気が合いますね。そんな言葉は飲み込んでっと。
「では、お嬢さまお耳を」
お嬢さまの耳に顔を近づける。
やだ、かわいいお耳
フー。
「ヒキャン!」
いいお声。
ゴチン!
「余計なことはしないで、話を始めなさい!もう」
次回に続く。




