第5話 その4 「上手くいかないことのほうが、多いよね」
DAY 2
「お嬢さま、これくらいでいいですかー」
「もっと落ちたら、上がれないぐらい掘れないのかしら?」
「無理です。わたし、モグラじゃないんです。それにさっきも同じやりとりしましたよ」
「そうだったかしら、それならもうモグラになってもいい頃じゃありません。フフフ」
ちょうど10ヶ所目の落とし穴を掘り終わりました。腰につけてる革製の水囊を手に取り、口をつけお水をゴクリ。フー、生き返ります。
お嬢さまは、掘りあがった落とし穴に木の枝を井桁に組んだ蓋をして、掘った時に分けておいた芝の部分を蓋の上に置いて落とし穴を隠しています。
「うん上出来ね。落とし穴があるなんてわからないでしょ」
「はい。お嬢さま、本当にお上手に隠されますね」
今日は午後まで時間も少ないので普段は指示だけのお嬢さまも、自ら手も動かしています。お嬢さまの隠した落とし穴は綺麗にカモフラージュされ、本当にどこにあるかわからない出来です。
本当に、お嬢さまって器用だよなー几帳面だし。でもこれ絶対自分が落ちるパターンだよね。
昨日お屋敷中からアドバイスを貰って、お嬢さまが書き上げた『召喚獣捕縛計画 ヤギもギャフン!作戦』
そのノートに従って現在、お庭に罠を仕込み中です。落とし穴以外にも立ち木の枝をバネがわりにしならせたくくり罠。絶対鬼ごっこ中には入らないと思うけど、昨日白択に好評だったとうもろこしの芯をぶら下げた箱罠。投網に投げ縄や槍がわりのさすまた状の、木の棒なども用意。
お嬢さまのノートには他にもトラバサミや牧草に眠り薬とかお庭に痺れ薬散布、唐辛子パウダーの入った投擲用のボール。などなど色々書いてましたが危なそうなのは却下です。
「眠り薬や毒物を盛るのも、立派な戦略ですわ。気づかない方が愚かなのよ」
自信たっぷりに言い切ってたお嬢さまに一瞬納得しかけましたが、決闘で騙し討ちは卑怯なので却下です。
なんだかんだで準備を終えたのがもう昼近く。そこから午後に向けて動きやすい服装にお嬢さまを着替えさせ髪も合わせてまとめて差し上げ「あら、かわいい」とかひととおりニヤついてからテラスでランチに向かいます。
「メェェェ!」
テラスに着くと、本日の宿敵のお客様がすでに牧草をまったりハミハミしてらっしゃる。
「本日もお越しくださり光栄です。まずは、ランチをご一緒に楽しみましょう」
お嬢さまが軽くカーテシーして、ご挨拶。
「メェェェ!」
お客様の白択に昨日料理長にとっておいて貰った『スペシャル野菜クズ』と岩塩を給餌してボウルに水を注いでペコリと頭を下げて下がります。
それからテラスに用意されたランチのテーブルへと向かい、お嬢さまの椅子を引いてお席に座らせてランチタイムスタートです。
「どうですか? 昨日、当家のシェフに申しつけて取り置きさせたスペシャル野菜クズですのよ。お口に合いました?」
「メェェェ」
「お褒めいただきありがとうございます。当家のシェフもきっと喜びますわ」
「メェェ」
なぜお嬢さまは山羊とスムーズに会話できるのでしょうか?
とお二人、いえ1人と1匹の楽し気な会話に耳を傾けながら後ろでわたしもサンドウィッチをパクリ。
うーん、美味しい!
ランチの後にお嬢さまは優雅に紅茶を飲みながら、白択山羊はモグモグ、ゲップと反芻しながら午後の『鬼ごっこ』の開始を待っていた。
そうそう、本来ならお祭り好きのアーネスト家の人たちなら、こぞってギャラリーに来るとこなんですが今回はセバス様の配慮で覗き見禁止です。
それでも夕食時のブックメーカーはやっぱり行われていて、それも白択を捕まえれるかは誰も成功に賭けないので不成立。賭けはお嬢さまとわたしがころんだ数をルーレットのようにベットするゲームになってるらしいです。
転倒回数はお嬢さまの護衛の隠密が密かにブックメーカーに報告してるらしい……
みなさまの熱い期待に応えるべく、2日めの勝負の開始です。
* * * *
まあ予想通り2日目も現在のところさんざんな結果です。お嬢さまが期待どおり落とし穴に落ちまして。
「お嬢さま、深く掘らなくてよかったですね」
と笑いかけてお嬢さまがぐぬぬしたと思ったら、今度はわたしがくくり罠にハマって逆さ吊りで樹上にぶら下げられ咄嗟にスカート押さえていると
「無様ね、ルナリア。今助けてあげますわ」
とか言いながら捕獲用に用意していた「さすまた」を手にするとニヤニヤしながらわたしの手をスカートから引き剥がしにかかってる。お嬢さまそれ、セクハラ&パワハラです! アウトですー
そのほかに用意した投網・投げ縄もメェメェと避けられて、唯一成功した箱罠も焦った白択の頭突き一発で見事に粉砕されました。そしてつい先ほどお嬢さまが10個目の最後の落とし穴に落ちまして半べそ状態です。
これは、打つ手なしですね。
(ねえプラム、こっちも予知とかあったよね。それで対抗とかできないの?)
《戦闘時1秒以内での予想演算機能は許可されています》
《ですが現在戦闘状態とはシステムが判断しておりません》
『ねえ、ハクタクくん逃げてるだけだし、透香も練習する? 意外と楽しい』
ネコ耳ルナリアがこちらにgoodの親指立ててみせた。
《良い提案ですね。早速始めましょう》
《躯体制御 透香プロセスに変更》
《擬似戦闘モード移行 擬似敵対対象固定》
白択の輪郭が赤く縁取られ中央に〈LOCK ON〉の文字。と同時に色々なインジゲーターが表示された。これって変態ユニコーン戦の時にも出てたな、戦闘モードだったんだ。
敵の位置、距離、障害物、自分の状態まで、全部“見える”。
さながら、FPSのゲーム画面だね。ヘッドセットもゴーグルもいらない便利なわたし。
プラムによると自立型のわたしみたいなギフトは、ある程度仕様が統一されているらしい。その為、非戦闘用のわたしみたいなのにも戦闘モードは搭載されてるんだって。
《透香、左上に『AUTO P』のインジゲーターがわかりますか》
(見えるよ。赤くなってるマークだね。オート パイロット?)
《いいえ auto prediction(自動予知)です》
(へっ、予知って自動なの?)
《今回はマニュアルでの対応を練習します》
《prediction(予知)関係のマニュアルをインプット開始します》
《コネクト 透香プロセス データ転送》
頭の中に知識が湧き出して、知らないが知ってたに書き換わる
《データ転送 コンプリート》
相変わらず便利だな、わたし。前世に持って帰りたい。
ふーん。通常モードに『ラプラスの悪魔』使用時限定モードなんかもあるのね。
でも簡単にいえばいっぱい表示される未来から、1番いい未来を選んで行動するってことよね。
なんか楽勝ぽいわ。
《マニュアルモード開始してください》
まあスイッチがあるわけでなく切り替えると考えるだけで、マニュアルモードに移行した。
これは、なんとも、えっ!ちょっと待って、待って待ってストップ、STOP !
左上に見える『AUTO P』マークが赤く点灯してわたしは解放された。
(もうなにこれ!)
そうやることはさっき言ったとおりなんだけど、とにかくその未来がとてつもない物量で連続して襲ってくるのよ。
多分わたしの思考も加速されて理解も判断も尋常じゃない速度で働いてはいるんだけどこれなんか酔う。
船酔いじゃなくて予知酔いとでもいうのかな。これあんまりやりたくないわ。
《マニュアルモード稼働時間35秒》
《予知解像度秒間24,000フレーム》
《予知解析数 1,200,000,000パターン/フレーム》
《最適予知取得率 100%》
《透香、予想以上というよりも異常な成績です》
(ごめんなに言ってるのかわかんない。なにそれ美味しいの?)
《通常の自動予知が秒間24回1000パターンの中から最適な予知を取得しています》
《透香の予知はそれを大きく上回り現在稼働システムでの理論限界値と言って差し支えのないスペックです》
『透香、すごい わたしすごい ルナリアえらいだね』
ネコミミルナリアが「わたしすごい」のタスキをつけてクラッカー鳴らしてお祝いです。
《当躯体は非戦闘用の為、オーバースペックです。メリット0 躯体負担増によるデメリットのみと判断、透香プロセスによる予知関連のマニュア稼働原則禁止の制限を追加》
やれと言ったり禁止になったり大変です。
これはうーん、「てへ、僕またなんかやっちゃいました」だね。
「メェェェ」
なんか山羊からの熱い視線を感じる。
(てへ、わたしまたなんかやっちゃいました)なんてね。
お嬢さまが落とし穴からやっと這い出してきました。
「なかなかやりますわね。それでこそわたくしの召喚獣にふさわしくてよ。今日のところは引き分けですわ。でも勝負はまだここからよ」
「明日こそギャフンと言わせてみせますから、覚悟なさい」
負け惜しみの口上を大上段で並べているけど握った手が少し震えていた。
そう言って今日はお嬢さまが先にお屋敷に消えてった。万策尽きたのね まだ5分ありますよー
のこり5分お嬢さまの分まで頑張ります。
「いくわよヤギさん!」
――「メェェェ!」
と鳴いて白択も4時には帰って行きました。
結局本日もワンサイドゲームで触れることもできません。
本日はいろいろお庭を荒らしたので、隠れてる隠密さんにも声をおかけして協力してもらってお片付け。
ちなみに本日のブックメーカーはセシリア様34回転倒 わたしが56回転倒の結果。厩舎長が野生の勘でズバリ回数を的中させて大儲けされたそうです。
疲れた体を引きずってお嬢さまのお部屋にたどりつき、トントンとノックしても返事がない。
そーっとドアを開けて中に入ると、ベッドで寝ているお嬢さまを発見。庭から帰ってきたままの格好で寝ている、枕には濡れた染みが広がっていた。
泣き疲れて寝てしまわれたのですね。
昨日から白択に勝つためにみんなに聞いて回り作戦ノート作って準備して、頑張ったけれども、ひとつもうまくいかなかったんだもんね。
「悔しかったですよね。お嬢さま」
お嬢さまにガウンをかけてあげて、夕食は後で食堂から部屋に運んでもらいますね。
今はもう少しだけ寝かせてあげましょう。
わたしは隣に腰を下ろしてお嬢さまの頬に少し残ってた涙を優しく拭った。




