第5話 その3 「山羊の捕まえ方って知ってる?」
DAY 1
「メェェェー」
白択がこちらを向いてペコリと頭を下げた。
そしてピョンピョンと軽やかな山羊ステップでこちらから離れて行ったと思ったら、そのまま、お屋敷の3メートル近くもある塀を軽々と飛び越えて頂点でパッと姿を消した。
(プラム,今何時?)
《現在、午後4時0分38秒です》
「お嬢さま、今日はもう終わりみたいですね。わたしもう足がピクピクいってます」
午後から約3時間。ちょうどいい頃合いを見計らってるのかな?これ以上続けられても体力が、もう持たないもんね。
横を見れば本日最後のダイビングキャッチを白択にあっさりとかわされ、顔から芝に突っ伏してるお嬢さまの残骸がひとつ転がってた。
かくいうわたしも満身創痍で芝に仰向けのモキュー状態。結局1回たりとも白択に触れることさえできず初日はワンサイドゲームの完全敗北です。
「ムキー!あの山羊めー 明日こそはわたくしの前に平伏せてやりますわよ」
「いや平伏せるだけじゃ生ぬるいわね。その上でわたくしの靴にキスでもさせようかしら。ああ、それいいわね」
いや相手、山羊だから多分、靴どころか足中舐め回してくれますよ。
「どちらにせよ、お嬢さまそんな埃まみれの汗だくでは夕食にも出れませんよ。まずはお風呂で汚れ流しましょう」
「ルナリア、わたくし疲れて動けませんわ。お風呂まで連れて行ってくださいな」
「お安いご用ですお嬢さま」
お嬢さまの襟首掴んで背中から引きずって行ってお風呂に投げ込み洗ってあげました。
夕食を利用して、お嬢さまは山羊の捕獲方法をお屋敷の皆様にノート持参でリサーチです。本当にこういうところは勉強熱心というか几帳面というか真面目なんですけどね。
「投げ縄で首にパッとかけるんだよ。でもなヤギってなすばしっこいからぴょんと飛んで逃げるだろ」
「だからもう1人があらかじめ縄を仕掛けておいて飛んできたとこの足をすくい上げて転ばしてすぐにもう1人が首筋にこうだ」
近衛の1人が自分の首筋に手刀を当てて横に引いて見せた。
「殺しちゃダメだけど2段構えの罠ね。ありがとう参考になりましたわ」
「やっぱり落とし穴だろ。オーソドックスだけど気配とか出ないから勘のいいやつでも落ちるんだよ」
「なるほどね。そうね向こうが勝手に落ちるんだから気取られづらいかもね」
「投網だろう軽いやつなら広がる範囲でかいから気づいても逃げきれないぞ」
「軽い投網ね。ありがとう」
「弓矢で遠くからシュッとな」
「んなこと言っておまえ練習でさえ当たらねーじゃねか」
隣で飲んでた近衛がツッコむ。
「じゃあさ、槍で左右からは?」
「いやいや、牧草に毒混ぜとくとかいけるんじゃね」
「それなら庭中に痺れ薬撒いとく方がいいんじゃないか」
「いっそ火薬でドカンは?」
「おお、それならスペシャリストいるじゃん」
「ああ、『魔法少女ドッカーン・ルナリアちゃん』な」
ワッハッハハ――!
この酔っぱらいども、顔覚えましたよ。もし何かの間違いであの衣装着ることがあったら、真っ先に手榴弾プレゼントいたしますね。
そんな喧騒の中でもお嬢さまは黙々とノートを取り続けていました。
食事の後はやっぱり知略とテクニックのセバス様にご教示いただきに伺います。
執事長室に入ると、机に向かって書き物中でした。お嬢さまはお構いなしで、山羊の捕まえ方をせがみます
「あの山羊の能力は相手の次の攻撃を先読みする予知系のタイプと思われますな」
セバスは書き物の手を止めず、そう話出した。
「封じる手はむろんありますが、お二人だけでは、数も技術も足りない」
「どの様な手なのです?」
「セシリア様の剣の才なら5年訓練を続けて同程度のレベルのもの10人揃れば達成可能と存じます。だが明日ではどうにも無理ですな」
「じゃあ、隠密忍ばせておいて彼らで一気にというのはどうですの」
セバス様が書き物からツイっと目を上げて、お嬢さまを見る。
「たんなる捕獲ならそれも手ですが、セシリア様は、かの者に決闘を申し込まれたのであろう。ならば手を貸すわけにいきませんな、アーネストの者として」
有無を言わせぬ圧にお嬢さまびびってらっしゃる。
「いやですわ、セバスもちろん冗談ですわ。ええ、もちろんそうですわ」
「左様でございますか。まあ、まずやれることを考え実践すること。その先にしか答えはございません」
「……わかりましたわ、セバス。時間を取らせました」
お嬢さまがそそくさと逃げるように部屋お出て行きました。わたしも続いて部屋を出て軽く会釈してドアを閉めようとした時
「セシリア様は楽しそうだったな。ルナリア、おまえも楽しんでいるか?」
不意の問いかけにわたしは、少し顎に指を当て考える。
「もちろん楽しんでます。今度はぜひ、セバス様もご一緒にいかがですか」
少し驚いた表情を浮かべてから、ふっと口角を上げ誰にいうでもなく……呟いた。
「そうだな」
それを聞いてわたしはニコリと微笑んでからもう一度会釈して、今度こそ静かにドアを閉めた。
閉めた。ドアに背中で軽くもたれて
(ほんと、オジサマルートも作っておけばよかったな)
なんてメタなこと考えながら、お嬢さまの後を追いかける。




