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第5話  その2 「お願い上手って、むずかしいよね」

「はあ、はあ、はあ……また逃げられましたわ」

「お嬢さま、ゼーゼー、無理です! もう足がつりそうです」

「メェェェ!」

「まあ、ぴょんぴょんと憎らしい」


  ただいま、なにをしているかというと「白択(はくたく)」山羊さんとお庭で楽しく鬼ごっこ中です。なんで、そんな遊びしてるの? というと、理由は簡単。向こうが決めた勝負だからです。


 まったく、なんの意図があるんだろうね?


 話は小一時間前、白択山羊をランチに、ご招待しているときに戻ります。

 

* * * *

 

「メェェェ!」

 ……?

 

「ウワッ!びっくりした」

 

 お嬢さまとテラスで昼食。


 その食事中に、どうやって白択を捕縛しようかとお嬢さまが、あーだこーだと悪知恵を巡らされておりました。そこに突然――

 

 テラス横に積んでおいた牧草の前に本日のメインゲストの褐色の大ヤギ、瑞獣「白択」が現れました。現れたというより、しばらく前からそこで姿消して居たのね。乙女の会話を盗み聞きとか人としてはどうかと思いますが、ヤギとしてはどうなんだでしょう?

 

 即座に、お嬢さまが立ち上がり白択の前に出て、スカートをチョイとつまんで軽いカーテシーでご挨拶。

 

「昨日は、我が身の危難を救っていただき、誠にありがとうございました。改めましてわたくし、アーネスト公爵家が令嬢、セシリア・フォン・アーネストと申します」


「我が家にお迎えできましたこと、心より光栄に存じますわ」

 

 お嬢さま、見事なご挨拶です。この調子でまいりましょう!

 

「ささやかながら食事も用意してあります。どうぞそちらの干し草の上にでも、お寛ぎになってくださいませ」

 

 言われたとおりに、白択が干し草の上に足を曲げ伏せた。


「メェェェー」

 モグモグと牧草を喰みだした。

 

 お嬢さまがわたしに目配せで合図。


 用意していた、りんごの皮とキャベツの外葉にとうもろこしの芯、それと四角い岩塩。それらを白択の前に給仕?給餌?して大きめのボウルにお水を注まして、ペコリとあたまを下げるついでに顔を近づけ、小声で聞いてみた――

 

「人の食事の方がイイ?」

 

  白択は首を横に振って「メェェェ」と鳴き、とうもろこしの芯をバリバリ美味しそうに頬張りだした。


 それでいいんだ……


なんか複雑な気持ちで、目の前の異世界グルメをしばし観覧。


 ひとしきり食べ終わると、なんかしばしばと目を細めだした。


 何しに来たのあなた? 本当にコイツただの山羊なんじゃないかと疑いだしかけたところで、お嬢さまが話を切り出した。

 

「お食事は、お気に召していただけましたでしょうか?」

「メェェェー」

「それはよかったですわ。お褒めいただき、ありがとうございます」

「ゲップー」

 モグモグ……


「……⁉︎」


  お嬢さまがわたしの袖を引っ張って、白択に背を向けかがみこみ。小声で

 

「ねえ、ルナリアあれが本当に知恵の獣なの? 話は通じている気もするけども、あまりにも山羊すぎますわ」

「たしかに山羊すぎるほど山羊ですね。反芻までしてましたからね。ヒソヒソ」


「でもまあ、ここまできてるのですし、当初の予定どおりまずは正直にお願いなされてわ。ヒソヒソ」

「わざわざヒソヒソは、つけなくてイイですわよ」

 

 ごめんなさい、その娘はオノマトペの妖精なんです。

 

「でもそうですわね。正直にお願いですわよね。うん!」


 モグモグモグモグ


 お嬢さまは、反芻を続ける山羊に向き直して

 

「いいですか、白択!あなたにはわたくしの召喚獣になる名誉を与えましてよ!」

「メェ?」


「そしてこのスキルもろくに使えない、ポンコツメイドの代わりにわたくしのために存分に力を発揮なさい」

「またポンコツって言った! ひどいです。ポンコツはお嬢さまの方ですと何度も申し上げておりますっ!」


「話の腰を折らないの。お黙りなさい、駄メイド!」

「×△……!」

 

「とにかく話は簡単でしてよ、わたくしの学園での魔法実習やスキルお披露目の際に召喚されて暴れていただく、それだけで、3食昼寝付きで立派な厩舎が手に入る破格の条件ですわ」


「こんな良いお話、他になくってよ。さあ今すぐ召喚契約をいたしましょう」

 

 お嬢さま、素直なお願いじゃなくて怪しい勧誘になってますよー


 モグモグモグモグ


「ねえ、悪い条件ではないでしょう?」


 白択はちらっとお嬢さまには目を向けたが、すぐにそっぽむいて


「ヨーン!」


 興味無しとばかりに大きくあくびをした。


 お嬢さまのほっぺに「イラッ!」て書いてあるのが見える! 堪えてーお嬢さま!


 お嬢さまが大きく息を吸い込んでから静かに吐いた。お嬢さまえらい! よく我慢なさりました。


「そ、そうですわね。わたくしも先ほどは少し態度が横柄でしたわね。ここは、ひとつお互いに納得できる条件を探すべきですわね」

「メェェェ~」


 反芻しながらモグモグしてるし……


「先ほど申しましたように、ぜひわたくしの召喚獣として学園生活でのサポートをしていただきたいのです。無茶なお願いとは、当然存じておりますがわたくしも大変困っておりまして、ぜひお力をお貸しいただきたいのです。先程の条件だけでは足りなかったでしょうか?」


お嬢さまが、白択の前にしゃがみ込んで目線をあわせて問いかける。


「うーん、あとはなんでしょうね? お散歩やブラッシング? そうだわ知恵の獣と言われるくらいですから寝るときに絵本の読み聞かせとかどうでしょう?」


 お嬢さま、斜め上の説得になってきてますよー

 でも、お嬢さまにとってお願いってあくまで交渉なんですね。こちらと相手の条件をすり合わせて契約


 ――上に立つものとしての教育のせいなのか、どこか人を信じられないのか……


 相変わらず白択はこちらの話は聞いてはいるみたいだけど、どっちつかずな横柄な態度です。


 わたしも、チョットイラっときてるかも……


 まあ、わたしでこれだから、お嬢さまなんておててプルプルしてますよ。

 

「先ほどの条件が気に入らないとおっしゃるのでしたら、わたくしにできることならなんでもいたしますわ!」


「ちょっと待ったー!」

 プルプル震えて懇願してるお嬢さま引き戻してかばうように抱きしめる。

 

「ちょっと待ってください! 今のは無しです! ノーカンです! なんでもはいたしません。いいですね、白択!」

「メェメェメェ」

 

 白択もなんか動揺して何度も首を縦に振ってる。

 抱きしめたお嬢さまの肩に手を当て直し向き合って

 

「いいですか、お嬢さま。女の子の『なんでもします』は、本当に信頼がおけて心からお慕いする殿方にのみ使う言葉です!」

「簡単に使っていい言葉ではございません。ましてや山羊に使うなど以ての外です。いいですね!」

「は,はい!」

「わかればよろしいのです、お嬢さま」

 

 危うくわたしのカワイイお嬢さまを山羊にくれてやるところだったわ。アブナイ、アブナイ。

 

「それと白択!あなたもどういうつもりか知りませんがあまりにも態度がよろしくありません。お嬢さまはたしかにわがままで高慢な態度しか取れないポンコツ令嬢です」

「ルナリア、いま誰に向かってポンコツと言いましたのかしら?」


 あ,怒ってる? まあ、いいやここは話進まなくなりそうだから聞こえないふりっと。

 

「とにかく、あなたほどの人がその真意も汲み取れないはず無いでしょう。それではまるで拗ねたただの子供です! 自分がどうしたいのかすらご自分で決められないのですか!」


「メェェェ!」


 白択が立ち上がって怒ってる? もしやわたし地雷踏んだ?

 

「メェェェ!メェェェ!メェェェ!」

と鳴きながらわたしにぐいぐい頭押し付けてくる。


 普通の山羊ならいいけど相手は馬ほどもある大山羊だもの転びそうです。


 (……そうか忘れてたこの子まだ若いんだ。知恵はあっても感情の扱い方までは、まだ大人じゃないんだ)


 あっ!だめっ!


「きゃっ!」


 ドサって転ばされちゃいました。それでもまだ頭押し付けてくるんだ。もうなんでそんなに怒ってるの?

 

「おやめなさい!」

 

 お嬢さまの激昂が響いて、白択もピクリと動きを止めた。


「申し訳ありません。うちのメイドに何か失礼な点がございましたらわたくしが変わり謝罪致します。なにをお怒りになられていらっしゃるのでしょう?」


 お嬢さまが白択に(ひざまず)き謝罪を述べる。お嬢さまなにもそこまでせずとも…


「メェェェ!」


 怒ったまんまだね。なんだろ? 子供扱いされたのが気に入らない?それとも、お嬢さまの態度かな?

 

《羞恥や劣等感に近い波長が観測されてます》

『ハクタクくん、ご主人様が最近ナーバスで困るって言ってた』

 (おっ、ふたりとも突然きたな。でもそうかなんとなくわかった気がするよ。ありがとね)


 多分、お嬢さまの子供らしからぬ態度や考え方に嫌悪感と劣等感、いや嫉妬かな……


大人になりたいのになりたくない、だけどならなきゃならない。


 そういうお悩みキャラだったもんなー


 などとメタ視線で感慨に(ふけ)っていたら、感情が納まらない白択がついに一線超えちゃった。

あろうことか、跪いて頭を下げてるお嬢さまのその頭に前足乗っけやがりました!


 あんのクソ山羊!


 ヤバいです。

 怒ったわたしより濃厚な殺意が当たり一面覆い尽くしてます。隠密で隠れてる警護の方達の殺気です。白択、ヤバくない、それともわかってやってる?


 スパーン!!


 あっ、1番殺気だってるのはこの方でした。白択の足を手で払いのけ落ちた前足の(ひづめ)を立ち上がりざまについでに踏みつける!


「メェェェー!」


 白択も咄嗟に前足を引いて後ろ足で立ち上がる。


 お嬢さまの怒りのオーラが、周りに立ち込めてた殺意を圧倒する。


 さながら魔王降臨です。

 

「もうよろしくてよ。知恵の獣とかと浮かれて、わたくしもどうかしてましたわ。所詮知恵が多少あったところで獣はケモノってことですわね」


「人の願いなんてどうでもいいのでしょう!」


「でもあなたに知恵が少しでもおありなら、これを受け取りなさい!」

 

 お嬢さまが懐中から白い手袋を取り出す。

 

「決闘を申し込みますわ! 負ければわたくしにひれ伏しわたくしに協力なさい。そしてルナリアにも謝罪なさい」

「メェェェ!」

 

「あなたが勝てば……うーん、なんでもはさっきルナリアに怒られましたし……!」


「そうだわ。アーネスト家最大の屈辱である『土下座』で謝ってあげるわ。『土下座』をされると邪な欲望が充足され歓喜するそうですわ、いいでしょう!」


「勝負の方法はそちらで決めて結構。なんだって受けてあげますわよ」

  

 そして白択の正面に立ち白い手袋を振り上げる。


 お嬢さま、ついに決闘の証の手袋を投げつけてしまうのですね。


 ペチ。ペチ。ペチ。

 

 手袋、投げませんでした その代わり白択の顔を

 ペチ。ペチ。叩く。叩く。

 

 お嬢さまは、人を怒らす天賦の才をお持ちなのですね。

 

「メェェェ!」

 ほら怒った。

 

「メェ、メェ、メェー」


 下向いて小刻みに鳴いてる、怒りを飲み込もうとしてるの? やりすぎたって反省してる?


「メェェェ」

 さすが知恵の獣。挑発にホイホイは乗らないのね

 

「メッ」


 白択が落ちてる小枝を咥えて地面を何やらなぞり出した。お嬢さまと一緒に覗き込む。見慣れない文字がひとつまたひとつと刻まれていく。

 

 カリカリ

 "Catch"

 カリカリ

 "me"

 ふんふん

 "if"

 カリカリ

 "you"

 カリカリ

 "can!”

 ん?

 "limit 3days”


「Catch me if you can!(捕まえれるなら捕まえてみろ)」

「limit 3days(3日以内だ)」


「メェェェ」

 白択がピョンピョンと跳ねるような山羊ステップでこちらを挑発してくる。


「いいですわ。その勝負受けて差し上げますわ。行きますわよ、ルナリア」

「はーい!」


(プラム、何が素直にお願いが最適解よ)

《想定範囲内です。拒否は回避できました》

《後は勝つだけでいいのですからやはり最適解です》


 そして話は冒頭に戻ります

 

 プラムって性悪だー

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