97.カノンの手紙
デインへ
突然ごめんね。
きっと、どうして何も言わずに消えたのかと思っているでしょうね。
でも、私はもうイーサリオンに戻るつもりはありません。
私も、本当はもっとちゃんと話をしてから行きたかった。
でも、私は弱いから、きっと顔を見てしまったら、どこにも行けなくなってしまう。
だから、こうして手紙にしました。
デインには、たくさん迷惑をかけたと思う。
私が社交ができなくなってしまったことも。
突然、デインの部屋に行ったことも。
今思えば、随分勝手なことをしたと思う。
それでも、あなたは何も聞かずに私を受け入れてくれた。
ありがとう。
あなたと一緒にいる時間は、私にとって幸せでした。
喧嘩することもあったけど、そんな時間も愛おしいと思えるほどには。
これから先もあなたには幸せでいて欲しい。
だから、お願い。
私のことを探さないでください。
私を待たないでください。
私のために、人生を捨てないで。
あなたには、もっと相応しい人がいるから。
私はもう、あなたの隣に立つことはできません。
それでも――
あなたが私を何度も好きだと言ってくれたこと。忘れません。
―――さようなら。
デイン。どうか、幸せになってください。
愛しています。本当よ
カノン
―――
―――
―――
カノンはそういう手紙を親交のある人一人一人に宛てて書いていた。
それぞれ内容は違うようだったが、一筆一筆丁寧に書かれていた。
入念に準備をして消えていた。見れば私財も、持ち運びやすい宝石などに変えられて持ち出されていた。
……いつからだ。
いつから、こんなことを考えていた?
「ふっざけんな!!!」
―――裏切られた。
その思いだけが胸を締め付けた。
破れてしまいそうな程手紙を握りしめた。
何も言わずに、ただ消えた無責任なカノン。
でもそれでも、どうしようもなく愛していた。




