91.ユリウス・セレスタール
カノンお嬢様が意識を失っていた一ヶ月。
世界は異常と言われるほどに穢れに覆われた。
近年の歴史上最悪と言っていい。祈り子は通常は教育段階の幼子まで実務にあたる大惨事となった。
東西南北、あらゆる国で穢れは確認された。長く穢れに触れればそれだけ体調不良者や、大地の不浄も増えてくる。中には取り返しのつかなくなった土地や、帰らぬ人となったものもいた。
やはり世界に聖女は必要なものなのだ。
昔、カノンお嬢様に祈りの内容について説いた日から、世界の穢れは目に見えて減った。
今は、その逆。カノンお嬢様が祈っていないから世界に穢れが溢れ出しているのだろう。
聖女が意図的に姿を現していない仮説がどんどん濃厚になっている。
今まで世界がこの程度ですんでいたのは、歴代の聖女が世界のどこかで静かに祈りを捧げていたから。その事実が証明されてしまった。
世界から穢れを消滅出来る唯一の存在。―――聖女。
彼女達は本当は世界を救えるのに救ってこなかったのではないか。そんな結論にたどり着いてしまう。
理由は分からないけれど、もしかすると、聖女を磔にした人間を恐れているのかもしれない。
やはり、カノンお嬢様と一度、今後について話し合うべきなのかもしれない。
だけど、どうしても、私の本能がその話題を、拒絶する。
その理由はただ一つ。
―――聖女は祈り子の存在を否定するから。
彼女が世界から穢れを消してしまえば、私達祈り子に存在する意味などない。
それは、産まれた時から世界を救う者として教育され、真実を隠しながら民を導き、自由もなく穢れに身を投じ、愛のない夜に耐えてきた祈り子にとっては、本当に、本当に、死にたくなるほどの―――絶望だろう。
穢れは、何とかしなくてはならない。
でも、穢れが、無くなっては生きる意味を失ってしまう。
無邪気で可愛くて純粋なカノンお嬢様。
愛おしくて、守りたくて、時折無性に―――殺したくなる。




