87.エリュナ・サンクティア旅行一日目―夜
エリュナ・サンクティアでの宿は、ユリウス様の実家であるセレスタール家が所有する小さな屋敷だ。ユリウス様が特別に手配してくれたのだそう。
「ん〜!美味しい!私これ好きです!」
パフルはトゲトゲしい見た目に反して果肉は宝石のように透き通っていた。プルプルとしていてまるでゼリーのようだ。そして何より口の中に入れるとシュワシュワと炭酸飲料を飲んでいるような感覚になるのだ!
「お口にあったようで何よりです。まだありますよ。いかがですか?」
「ありがとうございます。でも、もうお腹いっぱいです」
ユリウス様は他にもあれやこれやと特産品を紹介してくれた。どれも美味しくてパクパク食べてしまったが、さすがにお腹が苦しくなってきた……。
「こうしてカノンお嬢様にエリュナ・サンクティアをご紹介することができて私は感無量です。良いところでしょう?エリュナ・サンクティアは」
ユリウス様はにこにこと笑いながらパフルの実を口に運んだ。
「飲み物に混ぜても美味しいのですよパフルは。お酒にもあいます」
「わぁ!確かにこれは合いそうですね」
「ふふ。明日は果実酒を用意させましょう」
夕食の時間は和やかに過ぎていった。
―――夜。
「それではお嬢様、おやすみなさいませ」
「おやすみアズール」
明日の予定の確認に来てくれたアズールと別れ、一人ベッドに潜り込む。今日は移動やら観光やらで疲れてしまった。でも、楽し かった!特に聖樹の麓でお祈りができたのは一生に一度の良い思い出になった。女神様に普段はしないようなお願い事をいっぱいしてしまった。
明日はどこに連れて行って貰えるのだろうか。
今からワクワクしてしまう。
横になると、疲れからか、すぐに睡魔が訪れる。
私はそのまま、意識を微睡みの中へ沈めた。
―――
――
―
ゆさゆさと、優しく揺さぶられる。
『―――よ』
気にしないでいると、さらに揺さぶられる。
『―――起きよ』
男のような、女のような、子供のような、老人のような。そんなどんな風にも聞こえる澄んだ声が響く。
睡魔が覚醒を拒むが、身体を揺さぶられる感覚は途切れない。
うーんと、私の意識は段々と目覚めてきた。
「うー、なぁに?アズール?」
何かあったのかと仕方なく目を開けた。
だが、私をゆり起こしていたのはアズールではなかった。
「ひゃっ!!!」
私は目の前の光景を見て叫ぶ。何かが、私を覗き込んでいたのだ。
「えっ、なに!?」
とび起きて、ソレから距離を取る。いつでも撃てるように魔法陣を構えた。
『―――よく来た、今代の愛し子よ』
また、不思議な声が響く。
そこには、真っ白に輝く龍が月光に照らされ鎮座していた。




