84-閑話-自然体
「アズールゥ!」
パタパタとエミリィがかけてくる。今日は薄青色のワンピースのようだ。そんなに慌てなくても、まだ約束の時間より前なのに。
「お待たせしましたっ」
「いえ、そんなに待ってませんよエミリィ。今日の服、マダム・リーチェットですね。とても似合っていて素敵です」
「あ、ありがとぅっ」
「それでは行きましょうか」
手を差し出せば、少し荒れた手が置かれた。
今日はエミリィとのデートの日。ハンドクリームでも買ってあげようか、などと考えながら歩き出した。
エミリィと婚約してから、休暇はできるだけ彼女と合わせるようにしていた。と言っても私もエミリィもお嬢様に仕えているのは同じだ。最近、お嬢様はルーケンフォード様とご婚約されたことにより毎週週末は泊まり込みでお城で王妃教育を受けていた。そのため、こうして二人で過ごせる時間も増えていた。
「エミリィは行きたいお店があるんでしたね」
「はいっ!最近できたお菓子屋さんですっ。いつオープンなのかなーってずっと気になってたところなんですっ!」
「へぇ。お菓子屋ですか。いいものがあればお嬢様のおやつにもなります」
「でしょう?アズールならそういうと思いましたっ!行きましょうっ!3番通りの方です」
ゆったりと、ふたりで歩き出した。
屋敷の話、お嬢様の話、話題は尽きない。お嬢様の噂を止めるための婚約だったが、今では彼女を大切に思っている。
何より、エミリィは本当に私のことを好いてくれているようなのだ。
「アズール、アズール見てください!大道芸でしょうかっ」
ぐいと手を引かれる。見れば広場で、芸を披露している集団があった。魔法を使った簡易劇のようだ。軽快な音楽に合わせて役者が踊っている。
「少し見ていきましょうか」
人だかりの後ろについてふたりで劇を眺める。どうやら誰もが知る童話がモチーフのようだ。
「ふぁぁ!」
エミリィは小さな子供のように目をキラキラさせて劇を眺めている。その姿が昔のエミリィと重なった。
エミリィは変わらないな。
彼女は昔からこのように好奇心旺盛だった。いつだったか、小さい頃にエミリィが街で迷子になった時があった。連れ出してくれた給仕のおじさんが大慌てで探し回っていたのをよく覚えている。結局、エミリィは今回のような広場で芸を披露していたおじいさんの前でしゃがみこんでいたのだ。
また勝手に何処かに行かれては困るので、ぎゅっと手を握ればエミリィは驚いたように見上げてきた。
「ど、どうしたんですかぁっ」
「いえ、また迷子になられては困ると思いまして」
「い、いったいいつの話をしているんですかっ」
どうやら彼女もあの時の事が思い当たったようだ。
「もう!エミリィはもう子供ではありません」
「ですがまだぬいぐるみがないと寝られないなどと言っているじゃないですか」
「ああぁあれは、抱き心地が良いから寝付きやすいんですぅっ」
エミリィはふくれてしまった。こんな時は頭を撫でてあげればいい。
よしよしとエミリィを撫でれば、彼女は悔しそうな顔をしながら見上げてくる。
「アズール、こうしたら私の怒りがおさまると思ってません?」
「実際おさまるじゃないですか」
ぷにと頬をつけばエミリィはわざと頬を膨らませた。
「もういいですっ」
エミリィは劇を見るのに戻ってしまった。
簡単な劇は10分かそこらで終幕を迎えた。財布から硬貨を取り出してエミリィに渡すと、彼女は芸人の帽子に放り込んだ。
「結構面白かったですねぇっ」
「そうですね。行きましょうか」
エミリィは機嫌がすぐになおる。さっき怒っていたことも忘れているのではないだろうか。
目的のお菓子屋に着けば、表でオープン記念のつかみ取りイベントをやっていた。
「アズール!つかみ取りですって」
「随分思い切ったイベントですね」
随分市井よりのイベントだ。立地も客層も高級菓子店という訳では無いらしい。だが、子供が喜びそうな可愛い造形のお菓子がずらりと並んでいた。これは見目がいい。味も問題なければお嬢様のおやつにできるだろう。
「アズールつかみ取りやってください」
「エミリィがすればいいじゃないですか。やりたいんでしょう」
「やりたい、やりたいですけど見てください」
そう言ってエミリィはぐいと繋いでいる手を持ち上げる。
「私と比べてアズールはこんなに手が大っきいんですよ!きっとつかみ取りという点においてはアズールの方が有利ですうっ」
「確かに、そうですね」
「いっぱい取ってくださいねアズール!だいたい十個で元がとれますぅ」
「十個も取れるでしょうか……」
店員にお金を払えば、籠を貰った。どうやらここにひとつかみしたお菓子を入れるらしい。
「いけー!がんばれー!あ、そっちの方がなんかお菓子密集してませんかぁ?」
「いや、この辺の方が、ほら、なんだか取りやすそうです」
グッと手を広げ菓子袋の山に手を入れる。めいっぱい手を広げたつもりだったのでことのほか多く取れた気がする。
「エミリィ籠下さい籠!」
「はいはいっ」
ドサッと掴んだお菓子を入れる。
「これは結構取れたんじゃないですか?」
「いち、にぃ、さん…………凄いですっアズール!十五個もあります」
「やった!」
思ったより取れていて思わず手を叩く。
袋に詰めてもらってエミリィに渡す。
「わーい!ありがとうございますっ!あ、お嬢様の分。いりますかぁ?」
「そうですね、つかみ取りしたものをお嬢様に出すのは気が引けるのでそちらは別で買いましょう。一個だけ味見に貰っていいですか?」
「もちろん!どれがいいですかぁっ?」
エミリィが袋を差し出してくれたので、一番人気のありそうな動物の形のマシュマロを取った。
「あーっ!」
「!」
「いえ、なんでもないですぅ」
「ふふ。可愛いですもんね。じゃあこっちで」
どうやらエミリィが欲しかったもののようだ。仕方が無いので別のお菓子をとりあげる。
封を切って口に入れる。特に問題のない味に思えたので、味見した菓子を一箱と、エミリィが気に入っていたマシュマロの詰め合わせを二箱買った。
「はい。これはエミリィに」
「えっ!いいのですかっ?」
「お嬢様の分は用意できましたから。これ、気に入ったんでしょう?」
「!はい、はいっ嬉しいですアズール!ありがとう」
満面の笑みでお菓子を抱えるエミリィ。
こんな姿を見ると、また買ってあげたくなってしまう。
「次はどこに行きたいですか?そろそろお昼時ですが」
「じゃあじゃあ裏通りのご飯屋さんに行きましょうっ!」
「いいですね。行きましょうか」
歩き出せば、自然と手を繋いでいた。
エミリィといると、気を張らなくていいのがありがたい。
きっと私達はとても相性が良かったのだろう。
これからも、こうして他愛のない話をしながら歩いていくのだと思う。




