83.失恋
「聞いたか?朝の」
「聞いた聞いた。ルーケンフォード様がめちゃくちゃ情熱的な公開プロポーズしたって話やろ。もう今日腐るほど聞いたでそん話」
「とうとうって感じだよね。おめでたいね」
「……」
「なんや嬉しそうちゃうなぁデイン。あんさんもこれで晴れてイーサリオンの後継者確定なんちゃうん?」
「まぁな」
カノンとルーケンフォード様の婚約が確定したという話は朝からものすごい速さで情報が回っていた。
熱愛の末の婚約と、美談が回っているが、俺はそうは見えなかった。王命、世論、公開プロポーズ……どれも巧妙にカノンの逃げ道を塞いでいるように思えた。
カノンなら、断れないだろう。あいつはそういう奴だ。
変なところで、優しすぎる。
もっと自分本意に生きていいのに。
ショックはなかった。元々カノンはルーケンフォード様のものになると思い続けて来たのだ。少し、希望が見えたからといって自惚れるほど馬鹿ではない。
だけど、カノンが俺の隣を考えて居てくれたことは素直に嬉しい。
叶うことはなかったけれど。
ちょうど今週、ルーケンフォード様の生誕パーティがある。カノンの誘いでパートナーとして一緒に行く予定だったが、この様子だとそれも無しになるだろう。
「デイン。ごめんね。週末、一緒に行けなくなっちゃった」
カノンは律儀に俺にそう断りに来た。別に分かっているから来なくても良かったのに。
「まぁ、仕方ないだろ。こうなったんだから」
「うん……」
カノンの表情は暗かった。とても、ロマンチックなプロポーズを受けたばかりの女には見えない。
「まぁ、おめでとう。これで俺も晴れてイーサリオンの後継者だ。決めてくれてありがと」
「……そう、だね。イーサリオンを継ぐのがデインなら私も安心だよ」
今にも泣き出しそうな、そんな表情。この間もルーケンフォード様と話した後こんな表情をしていた。
「泣きたいなら、泣けばいいじゃん」
「……どうして?悲しい事なんてひとつもないんだから」
カノンはそう言って笑った。泣きそうに、笑った。
今は周囲に人もいる。こいつは、そういう奴だ。
「そっか。そうだな」
「うん。ありがとう、デイン」
そのままカノンは魔法研究会には居座らず、屋敷に帰って行った。色々とやることがあるのだろう。
彼女が、幸せになってくれればいいと切に願う。




