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79.デート?

 私とアズールとの噂はすっかりなりを潜めたようだ。代わりに、また銀の至宝と金の華の噂が囁かれるようになった。


 相変わらず、私はルークの婚約者候補筆頭だ。


 だけど私はその立場を降りることにした。


『お前、王妃になる気がないくせにルーケンフォード様に気を持たせてるのか?』


 デインの言葉はきつかったけれど、否定できなかった。

 私の態度は後々ルークを酷く傷つけてしまうものだ。ならば、今から距離を置いておくのは正しいことのように思えた。


「カノン」

「!」


 ルークに話しかけられて肩が跳ねる。


「一緒にお昼食べない?」

「ご、ごめんね。今日はピピナと大事な用事があって」

「そうなんだ。じゃあ、しょうがないね」

「ごめんね」

「いいよ。僕も突然だったし」


 ルークに嘘をついてしまったことに、少しの罪悪感はあるが、これでいいのだ。


 それからルークからの誘いを片っ端から断った。

 デートのお誘いも、昼食のお誘いも、パーティのパートナーも全部。


 私は貴方の隣には居られないと態度で示しているつもりだ。

 だけど、ルークとは仲の良い友人でもある。ここまで拒絶するのは、やりすぎなのではないかという気持ちもあった。

 なんだか最近、ルークからの視線をいつにも増して感じるようになったし、昼食くらいは一緒に食べても大丈夫かな。


 そんな事を考えながら帰る準備をしていると背後から声がかかった。


「おい、カノン」

「どうしたの?デイン」

「今から暇?」

「暇と言えば暇だけど?」

「よし。ちょっと付き合え」

「どこに?」

「いいとこ」


 噂が収まってからは、またアズールと登下校していた。まだアズールを見るとちょっぴり悲しいけれど、以前より苦しくはなくなった。


「お嬢様、デイン様。お疲れ様です」


 正門で合流したアズールは穏やかに微笑んだ。


「ちょっとカノンと街降りてくる。アズも来るか?」

「……いえ、それでは私は先に屋敷に帰ることにします。お二人でごゆっくり」


 行ってらっしゃいませと手を振るアズールに見送られ二人で街へ向かって歩いていく。

 どこに連れていくつもりなんだろう。チラと隣のデインを見やるとなんだか鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。

 バチッと目が合う。


「あぁ」


 デインは忘れてたとでも言うふうにスっと手を出してくる。確かにロマンチックなのがいいと言ったけど、そんな取ってつけたようなのは嫌だ。

 少し膨れながら手を置くとぎゅっと握りこまれた。


「ここ?」

「ここ」


 デインに連れてこられたのは小さな可愛らしいケーキ屋さんだった。奥にカフェスペースもあり、中でも食べられるみたいだ。

 パステルカラーでまとめられた店内は女の子ウケが良さそうに見える。実際カフェスペースも女性ばかりが座っていた。


「マジで今まで食べたケーキの中で1番美味いの」

「へぇー!デインがそこまで言うんだ」


 それは期待できるかもしれない。デインは甘いものに目がないから。


「カノン、チェルベリィ好きだろ?今の季節のケーキセットがチェルベリィのケーキみたいだぞ」

「本当?じゃあそれにしようかな。デインはどれにするの?」

「俺はカフェ限定セット」

「えっ、そんなのあるの!?私もそれがいい!」


 席が空くのを待つ間そんなやり取りをして過ごした。


「ふぁぁ」


 運ばれてきたカフェ限定セットは大皿に色んな種類のケーキが1口サイズで並んでいた。


「すごい可愛い」

「色んな味が楽しめるからいいんだよなコレ」

「デインよくこんなお店知ってたね」

「まぁ街にはよく来てるから」

「一人で?」

「いいや、……友達と」


 何となく含みがあるなと感じてしまったけれど、今言及するのは野暮だなと思った。


「デインはどれが好きだった?」

「やっぱチーズケーキだな」


 今はこの時間が楽しいということだけ感じていればいいのだろう。



 ―――

 ―――

 ―――


「満足しましたか?」

「うん……。帰ろうか、ネフェル」


 街の片隅にあるような小さなケーキ屋で、幸せそうに笑うカノンを見つめる。

 最近、僕の誘いは全く受けてくれないのに、デイン・クレイウッドとは出かけるんだ。


 正門から二人で街に向かうのを見て思わず後を追っていた。

 何を話しているかまでは分からなかったが、カノンはずっと笑っていた。


 拳を強く握る。胸の奥が締め付けられる。焦燥と切なさで喉が渇く。

 もう帰らなければならないのに、愛らしいカノンの姿から、目が離せない。


「ほら、行きますよ」


 ネフェルに引っ張られて、ようやく足を動かした。



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