77.一緒にお出かけ
「デイン様。ようこそおいでくださりました」
恭しく頭を垂れるアズールはいつも通りだった。その様子に、安心した自分がいた。
「おぅ。……アズ、お前エミリィと婚約したんだって?」
「デイン様の耳にも入っているのですね。はい。実はそうなのです」
顔を上げたアズールは頬をかいてはにかむ。
「良かったじゃん。エミリィなら気兼ねなく付き合えるし。おめでと」
「ありがとうございます」
「なんか馴れ初めとかねぇの?」
「お、お話できるようなものは、まだ」
そう言うアズールは口元に手を当てる。頬も染めて、照れているのだろうか。
カノンの噂を止める為だけに婚約したのかとも思っていたが、この様子からするとそうでもないみたいだ。
まぁ、エミリィは昔からアズールの事が好きだったから、上手くいったんだろう。
なら、心配なのは……カノンだ。
「カノンは?」
屋敷から連れ出してやるくらいはしてやりたい……。
きっと、心を痛めているだろうから……。
「お嬢様は、本日はルーケンフォード様と出かけております」
「……は?」
―――
――
―
歌劇は面白かったのだろう。エンディングを迎えたあとは客席から拍手喝采が贈られている。
今日は人魚が人間の男に恋をするお話だった。最終的に人魚は人間の男と結ばれる、ハッピーエンドの恋物語。
パチパチと手を叩く。
面白かった。面白かったのだと思う。私は主人公の人魚より、人間の男に恋をしていたのに結ばれなかった幼なじみの方に感情移入してしまった。想っているのに結ばれない、その辛さは、よく分かる。それでも彼女は自分の想いを人間の男に伝えた。
もし、アズールに気持ちを伝えていたら、何か変わったのかな……。
今更な事を考えてしまう。
今アズールに気持ちを伝えても彼は困ってしまうだろう。
「カノン、行こう」
ルークが手を差し伸べてくる。そっと手を置くと、優しく包み込まれた。
歌劇場から出ると、ルークは近くのカフェに足を向けた。
「カノンは何を食べる?どのケーキがいい?」
ルークは今日はずっと声を弾ませていた。ニコニコしながらメニューを私の前に置く。
「ここのお店すごく人気なんだって、カノンは来たことある?」
「うん。前に、ピピナ達と」
アズールも一緒にちょうどこの席に座った。
「そうなんだ!何か美味しかったものとかある?」
「フルーツタルトが美味しいんだってピピナが言ってた気がする」
「へぇ、いいね。じゃあ僕はそれにしようかな。カノンは?」
「私は……この季節のケーキっていうのにしようかな。この時期だとなんだろう?」
「リンゴとかクラウンフルーツなんかじゃないかな。ふふ!カノンはなんだと思う?」
「そうだなぁ。私はチェルベリィだったら嬉しいかなぁ」
注文してケーキを待っている間、ルークは今見た歌劇の話題を出した。ルークはとても歌劇を賞賛していた。特に主人公の二人が結ばれるシーンが良かったと絶賛している。
「すごくロマンチックだった。カノンはどう思った?」
そう言われて思い返す。星の伝説にあやかり、満点の星空の下で2人の思いが通じ合う。会場全体が星空になる演出も相まってとても美しかった。
「私も綺麗だと思ったわ。台詞も素敵だった」
「カノンも告白されるならあぁいうのがいい?」
そんな事を言われて、思わずルークを見る。ルークは相変わらず笑顔でこちらを見つめ返してきた。
どこまで本気で言っているのか分からない……。
「ど、どうだろう……素敵だとは思ったけど……。もし告白されるならその人らしいものがいい、な」
言葉を選んで無難な答えを返す。
「そっか!」
ルークはそう微笑んだ。
それから色々と雑談していたら、ケーキが運ばれてきた。
季節のフルーツはルークの言った通りクラウンフルーツだった。クラウンフルーツは果物の王様と言われるフルーツだ。その名の通り王冠に見立てて飾り切りされており、中央にショートケーキが鎮座している。とても豪勢だ。
食べながら考える。
ずっと好意を向けてくるルークがあんな事を言うのだ、なんだかすぐにでも告白されてしまいそうに感じてしまう。
私は―――。
クラウンフルーツは甘くてトロトロして、美味しかった。




