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71.気にしすぎ

 気づいてしまえば、噂の事ばかり考えてしまう。

 普段なら気にしないのに……内容が内容だからだろうか。


 好きな人と恋仲だと思われるなんて、嬉しいことのはずなのに、私は激しい羞恥心に苛まれていた。まるで、告白もしていないのに好きな気持ちだけが他人に伝わってしまったような。そんな気持ちになってしまう。


 アズールはどんな風に思っているんだろう……。


 急に登下校を別にしたいと言い出したのは、もしかしてこの噂を知ってしまったから……?


 アズールのことだ。きっと私の外聞を気にして離れてくれているのかもしれない。もしそうなら、アズールは私と結ばれるつもりなんてきっと欠けらも無いのだ。私の恋心は傷ついてしまう……。


 そもそもなんでこんな噂が広がっちゃったの?


 もうずうっと同じことばかり考えてしまっている。なんだかアズールと顔を合わせるのも恥ずかしくって帰れずにいた。魔法研究会の教室の隅っこで本を開く。




 気付けば、空は茜色に染まっていた。

 読んでいた魔導書も、頭の中には一文字も入っていない。



 ふぅと一息ついて、本を閉じる。そろそろ帰らなければいけない。


「終わった?」

「えっ?」


 すぐ真横から声が聞こえた。驚いて振り向くとそこには何故かルークが座っていた。


「ル、ルーク何でここに!?というかいつから!?」

「二十分くらいかな。帰り際に書類を届けに来たんだけどカノンしか居なくて」

「ご、ごめんね!気づかなくて!声をかけてくれれば良かったのに」

「何か考え事してたみたいだったから……それ、一ページも捲らなかったけど?」

「……あ」


 ルークは少しいたずらっぽく私の本をトントンと叩いた。


「ちょ、ちょっと、ね!あっ!ほら!書類!そこのファイルに挟んでくれれば代表が見てくれるから」

「そっか」


 ルークは書類をファイルに挟んで丁寧に代表宛にメモまで書き付けた。


「わざわざ待たなくても良かったのに……」


 そんな事を言いながら教室をぐるりと周り戸締りの確認をする。


「僕が待ちたかっただけ。……こっちは大丈夫だよ」


 手伝ってくれたルークにお礼を言って、二人で廊下を歩いた。


「カノン何かあった?今日の午後、ずっと上の空だったよね?」

「えっ、そ、そうかな?」

「そうだよ。何か、心配事?」

「少し、悩んでるけど……ルークには内緒」

「ないしょ、かぁ……」


 さすがにこんな悩みは相談できない。それよりと明日の課題の話をした。ルークはにこやかに話に応じてくれる。




「じゃあまた明日」

「うん。また明日」


 ルークを見送ってから、門の前で移動魔術を発動する。


 いつもの玄関の前に飛ぶ。屋敷に入れば、アズールがホールで待っていた。


「お嬢様!」


 アズールは私の姿を見るなり、すぐに駆け寄ってきた。

 思わず1歩、後ずさってしまう。

 まだアズールに会うだけの心の準備が出来ていなかった。


「お帰りなさいませ。遅いので心配していたのですよ?」

「少し用事があって……。ごめんね心配かけて」

「いえ、ご無事にお帰り下さればそれで良いのです。お荷物お預かりしますよ」


 そんな事を言いながらアズールはサラリと私の手から荷物を取り上げた。


「ありがとう」


 アズールがいつも通りだからだろうか、私もさっきまでの緊張が嘘のように無くなった。普段通りアズールと接することができそうだと安堵する。



「それではまた、夕食時にお迎えに上がります」

「うん。ありがとう」


 パタンと扉が閉まる。


 私、気にしすぎだったのかな。


 実際にアズールを目の前にしてみると、噂のことなんて全く気にならない。


 いつも通り。


 そう。


 いつも通りだ。


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