101.貴方の隣で
それから、私はイーサリオンの外れの村に小さな屋敷を貰った。使用人もおらず、ほとんど人も来ないド田舎だ。
ただ穏やかな人柄の人が多い村だった。突然の移住も穏やかに受け入れられた。
私の籍はイーサリオンのまま残っているらしい。
「私の子はみんな祈り子になるらしいの」
「ふぅん。じゃあ結婚はやめとくか」
聖女であることによる懸念を話せば、デインはあっさりとそう言った。それでも毎週末には屋敷に様子を見に来てくれる。
私は別にデインに正妻を持ってくれても良いと言ったけれど、彼は律儀に私だけを妻として扱ってくれた。
ルノンの存在は隠され、イーサリオン籍に入ることはなかった。
「パパー」
ルノンは父親という存在に慣れたようで、今ではデインをパパと呼び慕っている。
私にとっても似て可愛いの化身であるルノンにみんなデロデロだ。父様なんか遊びに来る度に大量のおもちゃを持ってくる。
時折ユリウス様が友人として様子を見にくることもあったが、彼はエリュナ・サンクティアに私の事を報告するつもりはないみたいだ。曰く、
「今、世界に必要なのは聖女を受け入れる時間だと思います。性急に事を進めれば必ず綻びが生じますから」
との事だ。私としてはこのままの生活を続けたかったので、彼の判断に従うことにした。
ルークの婚約者の座は長らく空席だったが、最近はネフェル様の妹君との婚約が決まりそうだという話が流れてくる。
彼が私に会いに来るようなことはなかったが、どうか幸せになって欲しいと願う。
アズールはエミリィと時々ここまで遊びに来てくれる。最近エミリィと正式に籍を入れており、もうすぐ長男が生まれるのだという。照れくさそうに報告する姿は幸せそうで、こちらまで嬉しくなってしまう。
私は我が身可愛さに世界を救うことをしなかった。
独善的で酷い人間だ。
きっと同じ選択を、ルノンにも背負わせてしまうのだろう。
今でも思う。本当にこれで良かったのだろうかって。全て私の思い過ごしなのではないかって。
でも、世界は今、平和に回っている。
だから、これで良かったんだと思う事にした。
「ルノン。朝のお祈りの時間よ」
「んー」
ルノンと並んで座る。
まだ、お祈りの意味も、聖女であるという事実も、ルノンには伝えていない。もう少し大きくなって、世界の事が分かるようになってから伝えるつもりだ。
ルノンは小さなてを可愛く組んで一生懸命女神様にお祈りしている。
私も目を閉じた。
―――いつまでも、この愛おしい時間が続きますように。
祈りは世界に溶ける。
そっと肩に触れる手があった。驚いて振り返れば、そこにはデインがいた。
「デイン!来てたの?今日視察って言ってなかった?」
「んだよ。せっかくケーキ持ってきてやったのに。誕生日だろ?ルノン」
「けぇき!?」
乱反射する光の中、私の小さな世界はどこまでも美しい。
たとえ救われていないとしても。
隣に貴方がいるこの世界で、今日も私は生きていく。
*゜fin*゜




