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婚約破棄は綿密に行うもの  作者: ワカメ
富豪商人婚約破棄計画
15/24

令嬢からの頼み事

「ラフィヌモン侯爵夫人、申し訳無いが、このたびの婚約は破棄させていただきたい」


未亡人のベアトリーチェ・ラフィヌモン侯爵夫人は、豪奢な猫脚のテーブルを挟んで向かい座っている婚約者ベンジャミン・リッシュ氏に、突然の三くだり半を突きつけられた。


夫が亡くなってすぐ、ようやく見つけた再婚相手が、なぜこんなことを言い出したのか。

ラフィヌモン侯爵夫人には、心当たりがなかった。


「ベンジャミン様、なぜです?理由を聞かせてくださいませ」

ラフィヌモン侯爵夫人は、リッシュ氏を睨むように見つめた。

「情けない話ではあるが、ほかに好きな人ができた。私は、彼女を愛している。それが、婚約破棄の理由だ。ジュスティーヌ、ほら、入りなさい」


金色のフルール・ド・リスの装飾が施された豪奢なドアが開いて、年若い女性が入ってるくる。


「はじめまして、ベアトリーチェ様」

女がうやうやしく挨拶する。

背が低く、華奢な体つき。

丸顔の童顔で、歳の頃はおそらく10代後半から20代半ばくらい。


このジュスティーヌという女、いったい何者なのだろう。

どこの誰ともわからぬ女に向かって、ラフィヌモン侯爵夫人は、鋼鉄のように冷たい視線を向けた。







 


──さてさて、この御婦人はどう出ますかな?



ドアの前に突っ立ったまま、ジュスティーヌはラフィヌモン侯爵夫人の反応を待っていた。


ここはリッシュ氏の邸宅。

なぜこんなところで、こんなことをしているのか。


これはすべて、リッシュ氏の思いつきなのだ。

話は、1ヶ月前に遡る。











統一国家エレウテリアーの第一王子エクソリアと侯爵令嬢マルグリット・エレオスのあの婚約破棄騒動から、約1年後のこと。



すっかり庶民の女に戻ったジュスティーヌは、居酒屋での仕事を終えた後、バックヤードでタバコをふかしていた。


「いやあー、疲れたー疲れたー!」

薄汚れた木箱にドカッと腰掛けて、ジュスティーヌは鼻から口から、盛大に煙を吐いた。


「まったく、品の無いヤツだなあ」

ジュスティーヌと同じように、そばに立ってタバコを吸う職場の同僚ジャン・ジャックが、呆れて苦笑いを浮かべた。

「はっはっは!そりゃそうだろう。なあ、ジャン・ジャックよ、こんな居酒屋の裏側でわざわざ上品ぶる必要はあるまい?」

「ま、お前の好きにすりゃいいんだけどな」

言いながらジャン・ジャックは、タバコを口に含んだ。

途端、居酒屋の非常口が開いて、中から同僚のガブリエルが出てきた。


「ねえ、ジュスティーヌ。マルグリットって人があなたに会いたいって来たんだけど、知ってるかな?なーんかすっごい身なりのいいお嬢さんよ」

「なにい!?それはきっと一大事にちがいない!ガブリエル、伝達ありがとう!」

話を聞いたジュスティーヌはタバコをその場に捨てると、ガブリエルの脇をすり抜けるようにして走り去っていった。


「行っちゃった…」

ジュスティーヌの尋常ならざる様子に、ガブリエルは唖然とした。

「ていうか、タバコをこんなところに捨てるなよ。まったく…」

ジャン・ジャックは呆れながら、ジュスティーヌが捨てたタバコを拾って、そばに設置されているゴミ箱に捨てた。






もうすっかり客がいなくなり、静まりかえった居酒屋。

店内は簡素な木製のテーブルとイスがいくつも寿司詰めになって並んでいて、その片隅の席に、侯爵令嬢マルグリット・エレオスは座っていた。

隣には、ジュスティーヌの知らない男がいる。



「マルグリットお嬢様、いかがなさいました⁈」

バタバタと忙しない様子で、ジュスティーヌは店内に戻った。

「久しぶりね、ジュスティーヌ」

ジュスティーヌが声をかけると、マルグリットが嬉しそうにこちらに視線をよこした。


今日のマルグリットは、ジュスティーヌがまだジュリエット嬢の影武者をしていたときより、ずっとシンプルな装いだ。

おそらく、ここに来るにあたって、目立たないように服を簡素化したのだろう。

それでも、庶民の目からすれば充分に「高そうな服だな」と感じるのだけど。



「お久しぶりでございますな、マルグリットお嬢様。それで、今日はどのようなご用件で?」

言うとジュスティーヌは、マルグリットの向かいの席に腰を落とした。


「もう一度、婚約破棄の手伝いをして欲しいのよ」

「へ?」

マルグリットの予想外の頼みごとに、ジュスティーヌは間抜けな声を出した。


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