表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

フィッティングルーム

エレオノールに腕を掴まれたジュスティーヌは、招待客専用のフィッティングルームまで引っ張られて、隅の部屋に放り込まれた。


「スイカはそこの隅にでも置いておけ。後で細かく切り分けて客人に出してやる」

「へえ、ありがとうございます…」

エレオノールに言われた通り、ジュスティーヌは持ってきたスイカをフィッティングルームの片隅に置いた。

「へえ、じゃないだろう。こういうときの返事は「はい」だ!まったく、私たちから離れてそんなに経ってないのに、もうすっかり庶民になりよって!」

「すんませ…申し訳ございません。エレオノールさん…」

言われてジュスティーヌは、謝罪の言葉を言い直した。


「アナスタシア、このスイカを持っていって、ローズマリーを呼んできてくれ。コイツの服と化粧をきっちりさせてやる必要がある」

「かしこまりました、エレオノールさん」

アナスタシアと呼ばれた女が、エレオノールに言われた通りに、身軽な動作でスイカを持ち上げると、フィッティングルームから出ていった。


「ほうら、今日のお前の服はこれだ。念のために用意して正解だったよ」

エレオノールはそばのクローゼットからレモンイエローのドレスを引っ張り出すと、ジュスティーヌに渡した。

「ありがとうございます、エレオノールさん」


──この黄色いドレス…懐かしいなあ


ドレスを出されたジュスティーヌは、在りし日の出来事を思い出した。

居酒屋での仕事の帰り道、まだ男爵令嬢だったジュリエット嬢に呼び止められた日のことだ。


そこから影武者となるべく、最初に着せられたドレスがこのレモンイエローのドレスだった。




「馬子にも衣装ってヤツですかねえ…」

レモンイエローのドレスを着た後、鏡に映った自分を見たジュスティーヌは苦笑いした。

こんな気持ちになるのも、かなり久しぶりのことだ。


フリルで縁取られたスタンドカラー、マリーゴールドの形をしたボタン、ミモレ丈のスカート部分がなかなか上品で、そのスカートの縁も襟と同様なフリルで縁取られているのが、とても華やかで美しい。


野暮ったくてガサツな庶民の居酒屋の女が、あっという間にどこかのお姫様のように美しく早変わりした。


──最初にこれを着せられたときは、「こんなドレス、ワタシなんかに似合うものか」と思ったなあ…


ジュスティーヌのその予想は外れた。

ドレスを着せてもらい、髪を結い、化粧を施された後、鏡の前にいたのは、間違いなくジュリエット・ヴァノロス男爵令嬢であった。




「馬子にも衣装……たしかにな、まったくもってその通りだ。さて、次は髪を結ってやる。まったく、結婚式にそんな野暮ったい頭のまま出てくるバカがあるか!」

あのときもこんなこと言われたな、とジュスティーヌは思い出した。



エレオノールに命じられるまま、ジュスティーヌは大きなドレッサーの前に座らされた。


──このドレッサー、ジュリエットさんはまだ持っていらしたのか…


鏡に映った自分を見つめながら、ジュスティーヌはまたしても懐かしい気持ちに駆られた。


続いて、エレオノールはローズマリーという女を呼び出して、ジュスティーヌの髪をセットするように命じた。



「えーと、ジュスティーヌさんの髪……えらく傷んでおりますね…」

ジュスティーヌの髪に触れるなり、ローズマリーは呟いた。

「大方、髪の手入れもろくにしてこなかったんだろう。誰の目から見ても、嫌でもわかってしまうわ!」

エレオノールは頭を抱えて、大げさにため息をついた。


「そりゃあ、エレオノールさん。高貴で美しいお嬢さまや奥さまならまだしもですよ。ただの居酒屋の女に、こまめな髪の手入れなど不要でございますよ。枝毛や切れ毛だらけでも、ギシギシにきしんでいても、おっきいリボンなんかで結ってしまえば誤魔化せますわな」

「だとしてもだ、人様のおめでたい結婚式にまで、こんな頭で来るヤツがあるか!なんだこの髪は?頭の上に鳩の巣でも乗せてるのかと思ったぞ!」

「いてえ!ひどいやエレオノールさん、ご容赦くださいませ…」

カンカンに怒ったエレオノールにポコンッと頭を叩かれて、ジュスティーヌは頭頂部を撫でさすった。



「うーん…まあ、エレオノールさんの言うとおり、鳩の巣みたいですけどね。でも、さっきジュスティーヌさんが言ったとおり、大きいリボンやらコサージュやらでまとめて結い上げれば、それなり見栄えはしますよ。この程度の傷みなら、なんとかなります。帽子をかぶってカモフラージュするなんて手もありますし。おまかせくださいな」

目の前で突然始まった寸劇に驚き呆れつつ、ローズマリーはブラシとヘアオイルを手に取った。

「そうか。よろしく頼むぞ」

「いやあ、お手数をおかけします。ローズマリーさん」

ジュスティーヌはばつが悪そうな顔をして、人差し指で頬をポリポリ掻いた。

「ええ、髪のセットを始めるから、しっかり前を向いてちょうだい。まずは髪に脂をさして、ほつれを解いていきましょうか。傷んだ髪にブラシを入れるから、ちょっと痛いわよ」

「はい、よろしくお願いしま…って、ああっ、いたっ!ローズマリーさん、痛いですう!」


こうして、「痛い痛い!」とわめきながら髪をセットしていくこと約15分。

ジュスティーヌの髪は、かろうじて見苦しくない程度には整えられて、しっかりまとめて結われた。

その仕上げにローズマリーは、ジュスティーヌの頭を、ひまわりの花を模したコサージュで飾ってくれた。


ちょうど、いま着ているレモンイエローのドレスによく合う、黄色いひまわりのコサージュだ。


この花の花言葉は、「崇拝」「情熱」「あなたは素晴らしい」「あなたを幸せにします」である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ