第十一話
ちょっと今回は前半と後半の温度差が凄いです。
俺たちは、決死隊のメンバーに通信で艦隊と合流するよう呼びかけ、付近にいた決死隊の面子を連れて母艦である“ポーツマス”に戻った。
いやー…あのカーキ色のEランク帯の奴…確か、チャズだっけ?
あいつランクの割に強かったな…ランク詐欺か?
まさかこの俺を相手に一分以上粘れるとは…
やはり、大企業のランカーは侮れないな。
「この分ならもうすぐで決着が着くな」
「はい、相手はランカー二人が墜ちた時点で及び腰になっていますし、直に撤退か降伏をすることでしょう」
補給中の休憩時間、俺はサリヴァン総司令官とだべってた。
ブレイカースクワッド時代を思い出すなぁ…
もうすぐで決着つくかもって?
そりゃ、俺たちだけで戦力の何割か削ってますしね。
いやー…また、サリヴァン総司令官と肩を並べて戦えると思うと、ついうっかりテンション上がりすぎて殺っちゃった☆
「えっ?そうなんですか?」
隣にいるバレットくんも会話に入ってきた。
つーか、なんで士官の君がそういう視点ないのよ…
もしかして、敵がどれくらい損害出したか知らない?
あーそうか…乱戦状態でようやく船に戻ったんだもんな…
そりゃ、状況もよくわかんねーか。
混線とかするせいで通信状態最悪だし…
そういや、俺たち三人以外の決死隊たちは、無事な機体が無いらしい。
俺とサリヴァン総司令官は無傷で、バレットくんは右肩のミサイルポッドが吹っ飛んだだけ…
でも、今戦ってる味方は凄い勢いで溶けてんだろうな…
バレット少尉の腕が上がったのは俺が鍛え上げたおかげじゃね?
俺って教官としてクッソ有能なんじゃね?
つーことで、俺が教官として熱血指導したのに大して強くならなかった、第1パトロール艦隊とAL4αコロニー駐留艦隊のみんなは、終始名誉クソカスパイロット確定です。
おめでとう(憤怒)
「ああ。俺たちだけでランカー二人と艦隊戦力の何割かが消し飛んだからな」
「そこにバレット少尉たち決死隊の戦果を含めると…三割行くか?」
えーと、俺たちが沈めたのが四隻くらいで、その直掩と近くにいたSAFも撃墜したから…
うん、俺らだけでSAFを20~30機撃墜してるな!
そこへ決死隊の戦果含めたら…三割前後ってとこか?
全滅判定出るわ!
これ俺たち決死隊だけで勝ってないか?
全滅判定だぜ?ヤバくね?
俺らまたなんかやっちゃいました?(笑)
「…試しに計算してみたら大凡三割くらいだな。軍なら全滅判定が出そうな損害だな」
「じゃ、じゃあ!もう終わりですよね!」
うーん…それはどうかな?
軍事教育を受けた軍人でも、自分の失態をどうにかしようと戦力の逐次投入をして、更なる失態を上塗りするような無能もいるからなぁ…
これで、アステリア・エレクトロニクス側のトップが、現場を知らないエリート社員とかだったら、ワンチャン文字通り全滅するまで戦う可能性もあるんだよなぁ…
そう思ってたら、先にサリヴァン総司令官が答えた。
「それはわからん。GISDFでも明らかに撤退すべき状況で撤退せず、部下に総員玉砕や死守命令を出すような奴もいた」
「それに、レギュレーターズはアステリア・エレクトロニクスの私兵だ。軍人よりもサラリーマンに近い。それこそ、我々軍人の常識が通じるかもわからん」
「な、なるほど…お答えいただきありがとうございます!」
あーそうか…総員玉砕や死守命令があったな…
大抵の場合、玉砕命令に背いて敵がいなくなるまで敵陣をぶち抜いてから、帰ってたからあんま印象にない。
不利になったら玉砕とか言い出す武人気取りの老害は、敵陣に突撃したら敵を全員ぶっ殺して生き延びましたってなったら、普通に満足するからある意味やりやすい。
最悪なのは、自分の醜態を目撃した奴ら全員消すために、何が何でも死ね!死に底なったら命令違反だから自決しろ!って言って来る屑や、自分が逃げるための時間を稼ぐためだけに、死守命令を出してくる糞野郎。
そいつらはもう流れ弾に当たって戦死して頂くしかない。
「そろそろ、補給の状況を確認します?」
「ああ、そうだッ!?」
なんだ!?今ドカンッて凄い音がしたんだけど!?
沈む!?この艦隊の旗艦が沈むのか!?
「なんだ!?今の揺れは!?」
「被弾したのか!?」
「不味いな…被害状況を確認する!」
やっべー…ポーツマス被弾したよ…
いや、でもそうだよな。
俺たちが乗ってる艦とか全力で沈めにかかるよな。
ワンチャン、ランカー二人まとめてお陀仏でゲームセットだし。
「おい!司令室!聞こえるか!?こちらサリヴァン!何が起きた!」
『サリヴァン総司令官!?はい、先ほど敵のミサイルに一発被弾しました。ですが、ハンガーはおそらく無事ですし、幸いにもダメージコントロールでなんとかなりそうです!…多分』
「ああ、わかった。ありがとう。…よし!二人とも、愛機のコックピットに入ってようぜ!」
「そうですね」
「り、了解!」
沈みそうになったらハンガーこじ開けて脱出しよ♪
え?整備兵はどうするか?
…狭いから、近くの一人だけなんとか我慢して乗ってもらうかな
一番マシそうな総司令官の艦でこれって酷いよな。
『こちら、アルビオン防衛軍副指令官ゲイリー・マクドナルド。敵の艦隊が撤退して行きますが…どうします?追撃しようにも無事な艦が少なく、何より敵にはまだ戦艦が2~3隻残っています』
『こちら、アルビオン防衛軍総司令官レイモンド・サリヴァン。無理に追撃は行うな。それより撃沈された艦や撃墜されたSAFの救助を行え。できれば敵のものもだ』
『了解、全体に捕虜の虐待はしないように徹底させます』
よっしゃー!!!
終わったぁぁぁ!!!
アステリア・エレクトロニクスの侵攻を退けたぁぁぁ!!!
…これ落としどころどうするよ
このまま手をこまねいてたら、損害から回復しきれずに弱体化した軍で、100隻のレギュレーターズ艦隊 with 上位ランカーを相手にすんの?
もう義理は果たしたって事で転職していい?
『よし、お前らコックピットから降りるぞ!』
「了解」
『了解!』
俺たちはとりあえず機体から降りた。
まぁ、とりあえずそれは一回寝てから考え…
『大変だ!先の艦隊は囮だった!本命はAL4付近の宙域を制圧するDランク帯のランカー率いる10隻だ!』
『今、地上の司令部に連絡を取ろうとしたところ、AL4αコロニーから救援要請が届いていると連絡が入った!すでに、他のAL4付近のコロニーは駐留艦隊を壊滅させられて降伏し、残っているのは彼らだけらしい!』
クソが…やられた!
相手は30隻で、それを2つに分けてこちらへ攻め込んでいたのか!
そして、副司令官が言ったこっちが囮ってのは半分正解で半分不正解。
多分、どっちも囮でどっちも本命だ!
どちらかが成功すれば、この星系の命脈はアステリア・エレクトロニクスが握ることになる!
「…おい、ジャック」
「…いつものですね」
おのれクソったれのクソ大企業めが…
戦場で散々教えてやったろ?
ブレイカースクワッドを舐めるなって…
もう一回教えてやるよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
AL4αコロニー。
ここは既にコロニー内部に敵が侵入し、市街地が戦場と化していた。
『こちら第8小隊、敵SAFを三機発見。撃墜する』
『こちら、エイト1。プラズマミサイルを使う。着弾地点付近のSAFは退避せよ』
『エイト3、了解。退避する』
『クソッ!こいつら海賊なんかとは比べ物にならないくらい強い!』
『不味い!プラズマ弾が来るぞ!』
『退避!退避ィ!!!』
彼らは不戦虚しく、海賊とは比べ物にはならない練度と装備で襲いかかるレギュレーターズに苦戦し、一人また一人と斃れていく。
AL4αコロニー、防衛軍駐留基地。
ここで、基地司令が粘り強い指揮で駐留軍を辛うじて纏め上げ、なんとか組織だった抵抗を続けることができていた。
しかし、それももう限界であった。
『ポイント13突破されました!』
『第5連隊通信途絶!もう終わりだァ!!!』
『前線を放棄!全部隊を後退させろ!…ええい!民間人の避難状況はどうなっておるか!?』
『現在、48%…とても間に合いません…』
『急がせろ!養成所の候補生や新兵どもを住民の避難、誘導に使っても構わん!』
『しかし、それでは戦力が…』
『ガキどもが戦力になるか!?…いいから、やるんだ!』
(せめて…民間人と新兵や候補生だけでも守らねば…駐留軍どころか、このコロニーを再建することすらできなくなるッ!)
そんな中、ある通信が届いた。
『え…?やったぁ!!!これで助かる!!!』
『一体どうした!?』
基地司令が尋ねると、そのオペレーターは答えた。
『現在、サリヴァン総司令官とギャレット最先任上級曹長が、こちらへ艦隊で援軍に向かっています!』
それを聞いた司令部は、歓喜に包まれた。
しかし、基地司令はその空気に飲まれずに冷静に指示を出す。
『…全軍に伝えろ。サリヴァン総司令官とギャレット最先任上級曹長が助けに向かっていると』
『は、はい!こちら、司令部聞こえるか!?今サリヴァン総司令官とギャレット最先任上級曹長が艦隊で向かってきている!あと少しの辛抱だ!耐えてくれ!』
(…果たしてそれまで持つのか?いや、持たせて見せよう)
『…でなければ、散っていった勇士やサリヴァン総司令官たちの奮闘が報われん』
基地司令はなんとか持ちこたえることを決意した。
この一報は、前線にいる者たちにも次第に届き、将兵たちを大いに勇気づけた。
もちろん、その中にはシドウ伍長やコールリッジ伍長もいた。
『聞いたな!なんとしても持ちこたえるのだ!』
『『『了解!』』』
『了解です、ケリー少佐!』
「了解しました!ケリー教官!」
彼らは、所属していた部隊が壊滅の憂き目に遭い、ケリー少佐率いる臨時編成の大隊に組み込まれた。
そう、最早教官たちすら戦力として組み込まねばならないような状況なのである。
『こちら、ス──』
『墜ちろッ!まずは一機だ!弾幕班は弾幕を張れ!ミサイル班とバズーカ班は、敵が弾幕から逃げようと、飛び上がったところを撃て!』
『『『『『了解!』』』』』
彼らは、ケリー少佐の巧みな部隊運用により、一定以上の戦果を上げていた。
しかし、その動きの良さがアステリア勢の目に留まってしまう。
『ユリウス隊長、発見しました。例のやけに動きの良い連中です』
『了解、排除します。総員、攻撃』
『『『『了解』』』』
ついに、指揮官であるユリウス直属の精鋭部隊が彼らを始末しに来たのだ。
『新手か!いつも通りだ!弾幕班!』
『『『『了解!』』』』
『ふむ、正確な狙いだ』
『故に、狙いが単純明快で躱しやすい』
『もう少しばら撒く必要があると思う…無駄にできる弾薬が残っていないの?』
『嘘だろ!?』
『そんな!?』
『こいつら…弾幕をすり抜けてるのか!?』
『ランカー並みの芸当だぞ!?』
『ええい!落ち着かぬか!…ミサイル班!バズーカ班!とにかく撃て!火力ですり潰せ!』
『り、了解!』
『わ、わかりましたぁ!』
「了解!」
『了解です!』
『…マクネアー大尉、ポンエー中尉。弾幕を抜けてきたら我々3人でやるぞ』
『『了解』』
ケリー大隊の総力を挙げた弾幕によって、精鋭部隊を何機か墜とすも、ついに弾幕を抜けられた。
『何機かやられたか…敵ながら天晴とでも言っておこうか?』
『う、うわぁぁぁ!!!』
『ひっ!やられ──』
次々と撃墜されるケリー大隊のSAF。
『これ以上はやらせん!』
『墜ちなさい!』
『墜ちろ!』
そこへすかさず、教官たちが割って入り、連携して敵を撃墜する。
ケリー少佐は乗機の“THI-MM02-GIGANT”の両肩に装備した、連装垂直戦術ミサイル“ICI-VLS-M73”の残弾数を確認。
それは、余りにも心もとない残弾数だった。
『マクネアー大尉、ポンエー中尉。M73の残弾数は36発…次で決められなければ私を殿に後退せよ。なに、ガキどもが逃げる時間は稼いでやれるさ』
『了解…』
『それは……了解!』
『やるぞ!二人とも!』
ケリー少佐はミサイルを発射しながら、両手のバズーカを発砲。
マクネアー大尉とポンエー中尉は、ミサイル発射中に動きが止まるケリー少佐を援護するため、彼を狙おうとミサイルを躱して反撃しようとした機体に攻撃を仕掛ける。
マクネアー大尉は、右手のマシンガンを撃ちながら、左手のバズーカを撃ち、避けようとした敵機に右肩のミサイルを叩き込んだ。
ポンエー中尉は空中へ逃げた機体へ、右手のライフルで相手のスラスターやセンサーなどを狙撃しつつ、左肩のグレネードランチャーで爆散させる。
他のSAFも敵に持ちうる火力を投射した。
しかし、彼らの奮戦もここまでだった。
ケリー機のM73が弾切れになったのだ。
ケリー少佐は宣言通り、二人の教官の前に出て言った。
『我らがここまでやられるとは…ユリウス隊長になんとお詫びすればッ!』
敵は数を大きく減らしたが、殲滅するには至らなかった。
『時間は稼ぐ。行け』
『…ッ!了解!』
『了解…ご武運を』
ケリー大隊は大隊長を殿に撤退した。
後ろからは、壮絶な銃声と爆音が聞こえ、やがてなにも聞こえなくなった。
「はぁ…はぁ…頭がッ!」
撤退の途上、シドウ伍長の身に異変が起きる。
『ユーマ?どうしたの?』
心配したコールリッジ伍長が、シドウ伍長に話しかける。
だが、シドウ伍長の耳には届かない。
「なんで…なんで…」
(なんで後ろのケリー少佐の機体が蜂の巣にされて爆発するのが見えたんだ!?)
(僕たちが足を引っ張ったせいで彼が死んだから?)
(僕たちがいなきゃ彼は思うように戦えた?)
(わからない…わからない…)
彼の脳内は先ほど過った、ケリー機が爆散する様子だけだった。
次の瞬間、彼の脳内に別のイメージが過った。
「ッ!?サラ!右に飛んで!今すぐ!」
『えっ?わ、わかった!』
二人がブースターを吹かして右に避けた。
すると、そこにレーザーが着弾した。
『躱されたか…』
『目標確認、排除する。…仕事なんだ、悪く思うなよ』
『さっさと終わらせるぞ』
アステリア・エレクトロニクスの第四世代軽量級SAF“AE-04L-GLADIUS”。
それが上空から、三機攻撃を仕掛けてきていた。
「アステリアのSAF!?もう追いつかれたのかッ!」
『各機散開!足を止めればやられるわよッ!』
マクネアー大尉は、周りの新兵たちに指示を飛ばし、相手の機動を追尾ミサイルで制限、そこへすかさず左手のバズーカを発射。
『そう簡単にッ!?』
ミサイルを振り切り、バズーカの弾を躱した敵機にポンエー中尉のグレネードランチャーによる狙撃が当たる。
敵は一機爆散する。
『手練れが二人いるな…まずは雑魚から狩るとしようッ!』
「ッ!来る!」
残りの二機は、片方が教官たちを引きつけている間に、シドウ伍長らを狙った。
『墜ちろ!』
「クソッ!なんとか躱せッ!?」
『ぎゃあぁぁ!!!』
シドウ伍長は敵の攻撃を躱すも、彼を盾にしようと後ろにいた機体が爆散した。
(さっき僕が見た光景にそっくり…?爆散するSAF…あれは僕のイメージじゃなかったのか…?)
(これは…少し先の未来が…?)
『考え事か?そのまま続けていいぞ。その方が楽に死ねるだろうからな』
「マズッ!?うわっ!」
『ふむ、これでも墜ちないとは…』
シドウ伍長は、自身の脳裏に過る死のイメージを頼りに、なんとか相手の攻撃を躱していく。
「はぁ…はぁ…これは未来を予知してるんじゃないのか?」
(でも、僕が行動する度に未来が変わっている?どういう事なんだ?)
『うーむ、これでも墜ちないか…最低でもFランク相当の戦力か?ここで殺しておくか…』
敵は、レーザーライフルとプラズマミサイルを交え、シドウを徐々に追いつめていく。
「不味い!追いつめられた!?上へは…逃げられない!?」
『中々しぶとかったが…旧式ではな。これで終わりだ』
シドウ伍長は壁際に追いやられ、上空から攻撃を食らわされる…筈だった。
彼の脳裏に味方の援護射撃の光景が過った。
『右に躱して!』
「わかった!」
『なんだと!?』
シドウ伍長が、今にもやられそうになった瞬間、コールリッジ伍長の指示が彼の機体のコックピットに響く。
彼がそれに従って飛び退くと、さっきまで彼がいた場所諸共的にミサイルやバズーカ、銃弾などが降り注いだ。
『何ッ!一体どこから!?』
「リサ!みんな!」
敵はなんとかそれを躱すも、シドウはその瞬間を見逃さなかった。
『そうか…逃げるのではなく…こちらを狙撃できる地点へ……移動──』
「いい加減に…墜ちろ!」
シドウ伍長は、脳裏を過った相手の機動に合わせ、バズーカの引き金を引いた。
そして、それは見事に命中。
敵機を爆発四散させた。
『終わりよ!』
『墜ちろッ!』
『わ、私が!?こ、こんなところで…』
教官たちの方も決着が着き、敵を撃墜したようだ。
その後、シドウ伍長らは教官たちと合流し、後退地点まで向かう。
到着する頃には既にシドウたちの数は、半数以下に減っていた。
道中、際立った動きを見せた者がいた。
「ミサイル…からのバズーカ!」
『ぐわぁ!』
シドウ伍長である。
彼はこれまでとは一線を画す機動と、敵の動きが“わかっている”かのような戦いぶりを見せる。
(だんだんわかってきた…これは、未来を予知するというより、未来を予測しているんだ!)
(この力と、ギャレット最先任上級曹長からの教えで──)
「みんなと…生き残って見せる!」
そう、固く決意するシドウ伍長。
そんな彼を見て、コールリッジ伍長らはどこか心配そうにしている。
『ユーマ…どうしちゃったの?』
「僕は…大丈夫だから…」
『シドウ伍長、どこか具合でも悪いのか?』
「いえ、ポンエー中尉!僕は絶好調です!大丈夫なんです!僕はまだ戦えます!」
『ヌゥ…わかった、異変を感じたらすぐに申し出るように』
『シドウ伍長、顔色が優れないようだけど…どこか負傷した箇所でもあるの?』
『いえ、マクネアー大尉!僕は元気です!どこも悪くないんです!大丈夫なんです!』
『わかったわ…今は行軍を停止した小休止中だから…なにかあったならすぐに言うのよ。治療が必要なら、応急処置をする時間はあるもの』
彼らが心配して声をかけるも梨の礫であった。
『マクネアー大尉、ポンエー中尉…ユーマは…シドウ伍長はどうしてしまったんでしょうか?』
『彼は…PTSDなのでしょうか?完全になにか…強迫観念に駆られているようだったけど…』
『うーむ、単に極限状態に追い込まれ、脳の分泌物のせいで神経が高ぶっている可能性もあるが…これだけ大勢の戦友が死んだのだ…PTSDになってもおかしくはない』
彼らはシドウ伍長を案ずるが、この最前線ではできることはたかが知れていた。
事実、シドウは極限状態で目覚めた力により、それで自分がなんとかしなければならないという強迫観念に駆られていた。
「ここにはサリヴァン総司令官も…ギャレット最先任上級曹長も…バレット少尉もいない…僕が…僕がやらないとッ!」
その後、彼らは何度かの戦闘を切り抜け、後退地点にたどり着く。
『ほう、まだこの付近に防衛軍側のSAFが残っているとは…』
『どうやら、私の部下は仕損じたようですね』
そこには絶望が待っていた。
彼らの目の前に立つのは、上品な紫色で塗装されたSAF。
アステリア・エレクトロニクスの最新鋭機、”AE-05L-REGINA“であった。
『識別コード…Dランク帯25位ユリウス・フォン・アトラス…機体名“ヴァーチュ”…!こいつは…ランカーだッ!』
『あなたたちは下がって!この地点は放棄!さらに後退を!』
『そんな…!二人でなんて自殺行為です!』
『教官たちはどうするんですか!?』
『まさか…死ぬつもりですか!』
『俺たちも一緒に戦います!』
ケリー大隊残存勢力は自身を逃がすために、時間を稼ごうとする教官たちに異議を唱えた。
だが、シドウ伍長とその異変に気がついたコールリッジ伍長だけは、教官たちと一緒に戦うなどとは言いださなかった。
「ハァ…ハァ…うぅ…」
(駄目だ…みんな行ったら死ぬ!)
『ユーマ?どうしたの?ユーマ!』
彼の脳内には、目の前の怪物によって自分を含む全員のSAFが、破壊される光景が見ていた。
そして、自身がどのように行動しようとそれは変わらないという事も…
(変えるには…僕だけの行動じゃない…みんなの行動を変えないと!)
彼は、教官以外の全員に大人しく後退させるという、まだ試していない新たな可能性に縋ろうと口を開こうとした。
「みんな!教官の言う──」
『では、全員纏めてここで消えなさい』
しかし、無情にも殺戮が始まる方が早かった。
『速い!?』
『まずは一機』
ポンエー中尉は、ライフルやグレネードランチャーの狙いを必死につけようとするも、圧倒的な機動力で翻弄され、右手に持つレーザーハンドガンの連射で撃墜された。
『ポンエー中尉!?このッ!』
『無駄な足掻きを…墜ちなさい』
次に、ポンエー機のカバーに入ろうとしていた、マクネアー機が狙われた。
彼女は追尾ミサイルを発射し、追い込んだ先にバズーカの弾を置く、俗にいう置きエイムを行おうとする。
しかし、ミサイルはレーザーハンドガンの連射で迎撃され、左手のレーザーブレード“AE-LB05-PERSEUS”に、ミサイルポットごと機体を切り裂かれてマクネアー機は爆散する。
その後、次々とSAFは撃墜されていく。
「あ…あ…」
(みんな…やられる…)
シドウ伍長は、唖然としながらも機体を動かし、なんとかユリウスからの攻撃を躱し続ける。
最も、それはユリウスが彼に対して、偶然にもそれほど意識を向けていなかったおかげだが…
(不味いッ!)
次に撃墜されるのはコールリッジ伍長。
そんなイメージが彼の頭を過った。
彼にとって、コールリッジ伍長はバレット少尉同様、ジャックによって共に鍛えられた、かけがえのない仲間である。
そんな彼女の死に動揺し、シドウ伍長はそこへ割って入ろうとした。
『うっ!?SAFの両腕が!』
『鬱陶しい。消えなさい』
得物を両腕ごと、レーザーブレードで斬り払われたコールリッジ伍長。
そこへ、シドウ伍長は無謀にも割って入ろうとする。
「や、やめろぉぉぉ!!!」
『ふむ、まだ羽虫は残っていたか…』
しかし、それは単に標的がコールリッジ伍長から、シドウ伍長に入れ替わっただけである。
「あっ…」
(不味い…死ぬ…)
(機体を動かし…駄目だ…死ぬ)
(バズーカを…腕ごと斬り飛ばされる…死ぬ)
(ミサイル…レーザーハンドガンの連射でポッドごと撃ち抜かれる…死ぬ)
(僕は…死ぬのか?)
それは、コールリッジ伍長が死ぬ未来を変えようとした代償にしては、余りにも重かった。
彼は、コールリッジ伍長の命を少し永らえさせた事で、自身が死ぬ無数の光景を見せられることとなった。
しかし、彼は未来予知ができるわけでは無い。
つまり、彼が見せられているのは全て単なる予測である。
彼の脳が現在の状況や情報から、未来を予測しているだけに過ぎない。
故に、外部から全く新しい乱数を投げ込まれれば、すぐにその演算は狂う。
『ッ!?これはバズーカによる攻撃か?』
シドウ伍長へ接近しようとしたユリウスの機体が、突如として後ろに飛び退く。
そして、さっきまで彼がいたところをバズーカの弾は突き抜け、その後方で爆発を起こす。
『ユリウス隊長!大変です!AL2侵攻艦隊が敗退し、こちらへサリヴァンとギャレットが向かって来るようです!』
『えぇ、存じ上げておりますよ。なにせ──』
『今私の目の前にいますので…』
ユリウスの目の前には赤いコグネイトが立っていた。
「…ジャック…ギャレット……最先任上級曹長…」
『シドウ伍長、無事だったか…コールリッジ伍長たちは?』
「コールリッジ伍長は、機体の両腕は破損しましたが、本人はおそらく無事です」
「教官たちは…もう…」
『そうか…』
『よくも好き勝手してくれたものだ』
ジャックはユリウスの機体…“ヴァーチュ”を睨みつけながら言った。
『あの二人と交戦して無傷でここまで来たのですか…』
ユリウスは眼前に立つ相手が、容易ならざる相手だとしり、警戒心を最大限に上げる。
『なるほど…中々厳しい戦いになりそうです。しかし…』
『そうか…教官たちはお前がやったのか…』
『『お前はここで必ず墜とす』』
両雄が向かい合う。
これより、現在アルビオン星系に存在するSAFパイロットの中では、頂点と言ってもいいほどのパイロット同士が激突する。
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