禽獣は旅を委ね往く Ⅱ
そして、蒸気機関の甲高いヴォルンヴォルンと言う唸り叫びが響る。景色は変わり、人工的な物へ変わる、着いたようだ。騎兵民族の馬舎に着いた。
「さぁ、降りよう、早く審査終わらせに行くぞ」
「そうだな」
列車を降り、駅の広場へ参り着く。
壮大な騎兵の壁画に高いドーム状硝子張りの天井、落ち着かない。
「あそこに人溜まりが出来てる、あれが、検査官か...」
「とっとと済ませよう...此処は全然落ち着かない、終わらせよう」
「解ってるって」
人溜まりの沼は、検査場であった。
「次の方、自己証明書を出してくれ」
厳つい長髭の人間の爺の検査官が、低い声で私に言う。
「はい、見せろ」
「ほらよ」
そう言い、私の自己証明書を渡す
爺は、右から左、左から右と目を動かし、舐め回すかの如く、自己証明書を眺める
「いいぞ」
其れが入国審査合格の言葉だ。つまり、私は行けたのだ。この騎兵民族の国に入れるのだ。さて、今から何をしようか?座り疲れたし、少し運動もとい周辺の建物の確認をしたいものだ。
今見える範囲での印象は、馬が居ないと言う事だ。何なら、馬より機械の方が使われている。路面列車にエンジンと呼ばれる機械動力を備えた車等、馬が見当たらない。
「なぁ...全然馬を見掛けないな、本当に騎兵民族だよな...?」
「私に言ったって知らないよ...でも、周りの者、殆どが騎兵民族じゃない気がする」
「私達みたいな異国人が多いって事か?」
「そう、顔つきがロヴァノ人に近いと言うか...騎兵民族は他民族だから、ロヴァノ系の人かもしれないけど...」
確かにロヴァノ人と似たような顔付きが多い気がする。金髪や金の同系色の髪色に、青やら鮮やかな瞳の色、イメージする騎兵民族の顔とは違うように感じる。
「街中回ってる内に見掛けるでしょう...」
「...そうかもな...」
「まぁ取り敢えず、其処らの店々にでも立ち寄ろう、少しは歩きたい」
「そうだね」
そうして、私とイデナは、取り敢えず駅周辺の店を周る事にした。近くに商人店群が形成する大商業施設が有り、其処へ向かうのであった。
「酒屋塗れだぁぁぁ」
「急に叫ばないでくれよ...」
大広場の様に広がる烏合の酒屋、酒欲しい欲しい、
何なら其の場で酒飲みたい飲みたい、マジで...
「あぁぁぁ~たまらん~」
「ミュハーンは酒に目がないのか...」
「当たり前だろ、酒が無いと、体の機械が動かない、酒は燃料であり、ジュースなんだよ」
「えぇ...」
「後、いちいちミュハーン、ミュハーンって言うの面倒だろ、ミュハでいいよ」
「おぉ、そうか、じゃあ私もイデナって呼んでよ」
「心の中ではそう呼んでる」
「なんだよそれ...それに路上で買った酒飲むんじゃねぇ!!塵が出るだろうが、何処に捨てるんだよ...」
「煙に換える、常識常識♪♪」
「んな訳ないだろうがぁぁ!!」
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大商業施設だけあって、多種多様な店達が佇む。香ばしい食の匂い、馨しい民衆の喜声の渦の中に私たちは居る。
「なぁ、ミュハ、私腹減ってきたなぁ...そろそろ食べないか?」
「早くね?」
「酒飲んでるから腹満たされてるだけでしょ、ミュハは...私は、サンド食べた後、何も食ってないからね。腹が減ったら戦が出来ぬって言うでしょ..」
「戦はしないよ...?」
「そういう事では無くてな...腹が減ったらやる気が出ない的な感じよ、戦=やる気って事」
「殺る気...?殺すのか?満腹になったら、殺すのか?」
「違うから!!活力が湧くみたいな感じだから...」
「殺す活力...?」
「一回、殺すから離れてくれ...やばい奴みたいに成ってるから...私が悪かったから勘弁してくれよ...」
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「いやぁ...この料理美味しいなぁ!!此の...ビーフボルシィアルチって言う料理は!!」
「そうかい、イデナは其の料理を食べるのか...じゃあ私は、ビーフストロガノフ食べようかな..」
今は、食事処に居る。イデナの料理量やメニュー表を見る限り、安いし、量も多い、なんて素晴らしい事なんだ。
「ミュハ、此処でも煙草吸う気か...」
「別に禁煙ではないじゃないから、良いじゃないか」
「お前の煙草、紫煙の排出凄いから、こっちが咽るんだよ」
「そうか...」
火が点いた、幼い煙草の先端を指で潰し、煙草を箱に仕舞う。
イデナはやるじゃんみたいな表情をこっちに向ける。
「何だその顔...そのビーフボルシィアルチ喰うぞ」
「ふっ...ミュハらしいな」
そう言いながら、イデナをスプーン一杯に乗り建つスープと牛肉を頬張る。
「こっちも腹減っていきた、すみませーん」
「はい」
「ビーフストロガノフ一つと飲み物は..ビールで」
「わかりました、少々お待ちを」
そう言って店員は厨房の方へ行く。
「お前、また酒飲むのか...!?」
「ビールだぞ、大したもんじゃない」
「大したものじゃなくて、飲酒し過ぎだ。絶対、倒れるぞ」
「んな訳無い、ビールって言ってもウォッカよりか、甘いだろ」
「そういう事じゃない、酒以外を飲め、水やらジュースとか...」
「ビールはジュースだろ」
「酒飲み過ぎて、體が壊れたんだね。可哀そうに...」
「あくまで、個人の自由だろ。別にイデナも一緒に飲むことでは無いし、嫌がるならまだしも、私、個人だけの選択なんだから、他者に押し付けられることも無いでしょ?」
「まぁ、そうだな...」
「だから、ビールは飲む」
「だとしても、倒れないでな...」
「解ってるって、大丈夫だから」
「心配だなぁ...」
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「ビーフストロガノフとビールです」
その言葉通り、器に聳え立つ山盛りのビーフストロガノフにジョッキに注がれた黒ビール。
「旨そうだな」
「イデナには其れが有るだろうが」
「食べはしないから、旨そうに見えただけだから」
「ふん!!一口もやらんからな」
「食べないって...」
「では、いたただきます」
茶と猩々色のとろりとした煮込みスープに埋まる芋に人参、肉、トマト、そして、スープに添えられる揚げ芋。
スプーン手に取り、抄い上げ、口に入れる、その刹那。サワークリームの酸味とヨーグルトの酸味にトマトの甘味は薄れているが、少し酸味が控えられ、また、とろりとした感じが舌を刺激する。それに、肉や野菜の出汁が薄れた甘味を補強して酸味と調和させていて、程良い味を現わしている。
「美味しいなぁ~」
ジョッキを手に取り、黒ビールを喉に流し込む。
口内に広がる大麦の苦と言う香辛料が、スープの残党と融合して、独特の味を生み出している、其れはまた、美味しい。頭の中は、快楽塗れさ。
「あぁぁ~たまらないぃ~」
「そんなに美味いのか?」
「当たり前だろ、極楽気分だよ」
「そうなのか」
「手が止まらないぃ~」
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大商業施設から出て、街中の路の上、時刻は黄昏。
「いやぁ~美味しかったぁ~」
「なぁ、次は何をする?」
「とりあえず、宿でも取ろう、今の内に取った方が楽だと思う」
「じゃあ、宿取りに行くか」
そうして、宿を取りに行くのであった...




