寒地の禽獣 Ⅴ
列車は果てなく続く平原を渡り、ついにヴォロジ=ネジに着くのだった。
駅内、蒸気機関の音が途絶え、ホームに停まる。次の発車は、3時間後だ。点検やら簡易整備等でこれくらい時間がかかるとの事だ。列車から降り、駅を出る。
「此処は、デモもストも何もないのか?」
ヤレンスクとは、違う空気、景色。子供の笑い声に人間と亜人が共に話しながら歩き、本当に同じ国の街かと目を疑う。街中をぶらつく中、酒屋を見つけ、立ち寄る。
「何だこれは...」
其処には、多量の種類の酒、ヤレンスクとは比べ物に成らない程、質も良い、そして、安い。
ウォッカ等の度数高い酒でも、数十種類も在る。まるで、天国ではないか...
「之は...いっぱい買うしかないだろうが!!」
計15本のウォッカ系酒を買い上げた。之は之は、嬉しい。
「うへへ、之で、当分酒に困らないぞ」
そう言いながら、酒を煙に換え、吸い上げ、体内に入れる。
こうすれば、無くすことは無いだろう。
「さっ、次は何処に行こうか、時間も全然在るし、存分に視て廻れるしな」
......
売店で煙草買い、街中に佇む商人営みの店群を回る。果実屋に靴屋、帽子屋、呉服屋、軽食の屋台、そして、またもや酒屋等、娯楽施設ではしゃぐ子の如く、買い物を楽しんだ。そして、今は、早めの昼食をする為、食事処へ入った所だ。
「いらっしゃい!!」
愉快で陽気な店員の声、客席は賑やかで、会話で談笑する者たちに、早くから酒飲み、酔い歌う者、新聞読みながら、ケールサラダを口に含める者等、色々な者が集い、食事やら会話やら楽しんでいる。
適当な席に着き、テーブルに置かれるメニュー表を覗く。
「えぇーと、サンドウィッチは...アレニナケールウィッチ?オリーブ油焼きの鹿肉にケール巻き、ブハンカに挟むサンドウィッチ...旨そうだし、これにして、飲み物は...普通に酒やら果実絞りのジュースやら、幅広めだな、じゃあジンジャエールにしようっと、すみませーん!!」
「はーい!!」
「アレニナケールウィッチで、飲み物はジンジャエールで」
「かしこまりました。少々お待ちを...」
店内には、ロヴァノリヤ軍歌の”騎兵民族の行進歌”が蓄音機から奏でられている。尖ったラッパと太鼓の連続音に低く重厚感、凛々しい男共の声。
ブジョーンヌイ...騎兵の英雄だ。大昔の英雄だが、今も彼の栄誉はこの曲で謳われている。ただ、彼は騎兵民族の血の者では無いそうだ。何じゃそれ...
「......お腹空いてきたなぁ...」
数分の時が経ち...
「アレニナケールウィッチとジンジャエールでーす」
「ありがとう!!」
大麦の絵が描かれた大皿の上に、3切れのサンドウィッチが乗っている。之が、アレニナケールウィッチ...オリーブの甘く爽やかな芳醇な薫りに僅かに黒胡椒の馨り、鹿肉はケールに巻かれ見えないが、きっと美味しいだろう。
「では...」
一口頂く...!?
「之は...美味い!!」
硬めで歯ごたえの在る鹿肉に、オリーブの爽快感と胡椒のピリピリ感が混ぜ合って、美味しいし、このブハンカも両面カリッと焼かれていて、パリパリ美味しい音が鳴る。そのカリッとパリパリ感に鹿肉の肉汁にケールが肉の油を取って、一口食うと、二つの肉の旨味を贅沢に感じられる。
「ジンジャエールも飲んでみよう.....良いな」
生姜の辛味が喉を刺激して、心地いいし、口の中に残る、肉の油を取ってくれているようだ。
「こんな旨い物、あっという間に喰べてしまうよ」
サンドウィッチの断面は、上のパンを押すたびに、挟まる鹿肉から、ジュワーと肉汁が溢れ零れる。
それがまた、食欲を引き立てる火薬の様だ。ならケールで巻かれる火薬だから、火薬庫みたいだ。
「いや~、美味しかったなぁ」
その時、ふと周りを見る。其処には、ヤレンスクから列車に乗る時に視た、人間?が居た。
彼女もアレニナケールウィッチを頬張りながら、珈琲啜り、新聞を読んでいる。
「........!!」
その時、目が合う。すぐに逸らすが、何故か妙に惹かれる。やっぱり、周りの者と比べ、異質に魅える。
私もそうだがな...そんな時の事だった。
「君、あの..ヤレンスク駅に居なかった?」
向こうからこっちに話しかけてきた。
「あぁ...居たよ。」
「やっぱり...一つ聞くけど、君は...亜人?」
「...(言っても言わなくていいが...)そうだよ。亜人だよ」
「やっぱり、そうだよな...」
「要件は何だ」
「いや、同じ”亜人”が、それもここら出身でも無さそうだし、ヤレンスクみたいな、デモやらストライキで荒れに荒れて、治安が崩壊している所から、此処に来る奴なんて、早々に居ないし、つい気になってしまってな...」
「そうなのか...此処に来る奴はそんなに居ないのか?生憎、私はヤレンスク周辺都市出身でもなければ、ド田舎の方、出身だからな。ここらに来るのも、初めてだし、土地勘が無いんだ。」
「行ける事は出来るが、職人が労働放棄して、収入が無く、列車に乗れないのと、駅員も労働放棄して、利用が困難になったりで、難しい状態なんだ。今回は、駅員が居たから良かったが、居なかったら、宿も閉鎖で何日も野宿する破目に成ってたかもしれないしな...まぁ、私もここら出身では無いが、ずっとこの辺を旅している。」
「奇遇だな、私も一応、旅人だ。今は、南下して、騎兵民族国家へ行こうとしている」
「君も旅人なのか、騎兵民族国家か...私もその辺には行った事無いな...なぁ、一つ提案だが、此処で会って、話しかけたのも何かの縁だし、私と一緒に行かないか?私、前から仲間が欲しくてな...」
「...奇遇だな、私も旅仲間が欲しかったんだ。...まぁ、宜しくな...名前は?」
「私か?私は、イデナウアー、イデナウアー・コルチャフネン。翼人だ。そっちは?」
「私は、ミュハーン・ゼムチャツキ、獣半人だ。イデナウアー、宜しくな」
「こっちこそ、宜しくな、ミュハーン」
そう言い、私は、イデナウアーと握手をした。今日から、二人で旅をする...何とも嬉しい事だ。
「そろそろ、列車の発車時刻では無いか?まだ、飯が残ってるぞ」
「そうだった、急いで食べるわ」
そう言って、イデナウアーは席に戻り、セッセッとサンドを口に運ばせ、珈琲を一気に飲みする。
「これからの旅、楽しくなりそうだ」
続
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人物解説
イデナウアー・コルチャフネン
本名 イデナウアー・カラシノコフ・コルチャフネン
種族 翼人(東方の地では天狗と言われる)
能力 不可解な事を引き起こす事
ミュハーンと同世代ぐらいの翼人。翼人とは、人型に羽の生えた種族の事を指す。
身長は177㎝で体重61㎏。好物は、温かいスープ系料理、酒(果実酒等)、煙草(月に3箱消費)得意な事は、急降下飛行、苦手な事は、白兵戦とチェス。好きな事は、飛ぶ事。名前が二つある。イデナウアー・カラシノコフ・コルチャフネンと言う泰西的な名と母方の東方民族の名の紫雲山纂慶の二つ有る。
外観は茶髪寄りの黒髪に緋色の瞳。服装は、暗い枯草色のリーファーコートに黒色の長ズボン、時に、山岳帽を被っている。靴は、黒の革長靴でズボンの裾を入れている。
出身はロヴァノリヤ西部の国境部のスモヴェンスク地方、スモヴェンスク市。幼少期は、ミュハーン同様、教育は受けてもらえず、働いていた。15で、逃げるかのように、スモヴェンスクを出て、旅をするようになった。今は、騎兵民族国家への玄関地方、ヴォロジ=ネジ地方を主とする旅をしていた。ロヴァノリヤ出身だか、両親はロヴァノ人系でも無い。
精神
原始的レーダー・・・聴力に優れ、気配による相手の数等を特定できる
飛燕戦術・・・空からの地向けの攻撃・偵察が可能、機銃掃射等
能力 不可解な事を引き起こす事
之は、要するに、相手に善い事、悪い事が不意に降り堕ちると言う事。災難や幸運は相手に届く。
だが、基本的には悪い事を降り落とす。例えば、急に躓いて転んだや事故・事件に巻き込まれる、当たる筈の無い弾丸が周囲の物に当たって、軌道を変え、当たってしまう、そんな感じ。
予期せず起きるので、対処が難しい。
また、幻覚や幻聴等、精神的な攻撃等も可能でこれを主とする。基本的な武器は、ppsh‐50と言う短機関銃である。いつもは鞄や翼の中に入れている。
執筆者の八十一です。ずっと、新キャラの設定や予定で苦戦しました。
次から騎兵民族国家編です。評価・感想お願い致します。




