寒地の禽獣 Ⅲ
市役所までの道
メダリオン絨毯模様の石造りの道を歩く、宿から近くに市役所は有る。便利だね、歩いてちょっとで着く。
自己証明書、名前・出身・血筋(何系人)・生年月日等を申請紙に書き、機械か何かに入れて、作る。正直面倒くさい、名前長いし、作る時間も20分位、だけど、何か地味に長く感じる。
「此処が市役所か...」
止まらず、そのまま、中に入る。入口入れば受け付けが有るはず...あぁ、あっちか...
其処に一人の人間の男が立っている。受付役だろう...
「今日は何の用で?」
「自己証明書を作りたいんです。」
「自己証明書ですか、そしたら、左の方に階段が有るので、2階に上がって、右の一番奥に、申請用の紙と制作機械の部屋があります。使用方法は解りますか?」
「何回かしたことが有るので、大丈夫です。」
「分かりました。では、どうぞ、行ってください。」
左を向き、歩く。階段を見つけ、昇る。壁には、市専用の宣伝紙が張り巡らされている。兵役の代わりに、消防団や公務員の宣伝に代わっている。ただ、かなり古いのか品質が悪いのか、黄ばみに少し破れている。所々、汚れた壁に床、中途半端に清掃された感じだ。
そんな階段通路を上る。
右の方、あっちか...
「それにしても、静かだな。朝早い時刻だが、受付役が居るのに、他の職員は居ないのか?...」
妙な静寂、市役所だよな...? ...職員はストライキでもしているのか...なら、さっきの奴は、凄いな。一人で職を懸命にしている。いや、でも...まぁ、いい。私は自己申告書を作りに来ただけだ、それが終われば、此処に用は無い。
私の足音が、廊下に響く。人気の無い、閑々とした、廊下。そう進みながら、奥の部屋に着く。
この部屋も、誰もいない。電気は点いているが、私一人のみ、早々の終わらせよう。
「紙はこれか...」
傍に有るペン立てに刺さる、ペンを取り、紙に書く。
「...ミュハーン・イリノヴィチ=ノルド・ゼムリャツキっと...次は、出身か...ウラテリンブルク、血筋...ロヴァノ系ノルド人っと...生年月日か、聖歴1595年1月9日...」
ロヴァノ系ノルド人...それが私の人種だ。ノルドと言うのは、帝国から北東に位置する、地に棲む民族だ。あの辺は、”北方”と言われている。父はその北方の一国、スオフェンラントという国出身の獣人だ、母はロヴァノの人間。獣人、簡単に言えば、動物が二足歩行した見た目。そんな獣人と人間が交わると、その子は、獣半人と呼ばれる。人型に、獣の耳に尾が生えた様な感じだ。私の事だ。しかし、大半の人間は獣人と獣半人を統一して、獣人と呼ぶ。だが、獣人や私の様な獣半人は互いに区別する。と言うか、普通に見るだけで、獣人・獣半人って見分けが付くからね。人間位だよ、統一して、獣人って呼ぶは...他の亜人、ドワーフにしろ、エルフにしろ、ちゃんと区別して獣人・獣半人って呼んでる...
また、つい深く考えてしまった。...
「後は、この機械に入れるだけ...よし、後は待つだけか。暇だな...」
作成時間は20分、完成時は何かしらの音が鳴る。機械や企業ごとに、若干音が違う。
一体、どんな仕組みなのか...私には、さっぱり解らないな。
壁にもたれ、腕を組み、時間が過ぎるのを待つ。
相方が欲しいものだね。狼だから、鳥...翼人とか良さそうだ。
翼人...人型に翼の生えた種族。狼と鳥で、禽獣、面白そうだ。いい加減、此の一匹狼の旅から、誰かと旅をしたい。とは言え、どうすれば旅仲間は見つかる?中世舞台の御伽噺の様に、酒場に行けば、出会えるのか?一国の侯爵、王族の様に、最初から、仲間が居る...貧乏で、地位も低い、私には無理なのか?労働の大衆は、平等平等と叫ぶ、彼らを世話する、雇い主は、やるやると言いながら、やらない。時代は無情に刻々と過ぎ、人々は老い、そして、朽ちる。それなら、多数でやるのではなく、個人で可能限り、抗議して、それから手を組んで、再度抗議をすればいい、大衆は、すぐに日常に異変が起きると、その異変に偏る日常を送る。良くも悪くも、それが自らの息の根を絞めていることも有る。だが、この労働者の抗議は地位を欲している。収入じゃない、自らを王や貴族の様に、隷が欲しいのだ。しかし、全然、彼らの願いは叶わない。なら、最速案が在る、高度な地位に居る者を蹴り落とせばいい、殺せばいい、どうせいつかは、死ぬ。死は、今までの罪を破る免罪符の様な者だ。私に在る煙を操ること、単に、煙に出す。それだけじゃないと思う。煙に成る、之は跡形無く有耶無耶にすると言う意味。
煙、それは考えを変えれば、危ない能力、魔術かもしれない。
御伽噺にしろ、物語には、悪役が必要だ。私はそっち側かもしれない、物語に正義や悪が在るかは、知らぬが、この世には正義が正義を悪を決める世界なのだから、私の思想は悪かも知れないが、それが正義なのかもしれないな。私は馬鹿だから、正義と悪を見分ける事が出来ないから、この世は”正常”なのか解らないね...
そんな自分で築き上げた哲学はさておき、そろそろだろう。
「.....ガシャン」
「出来たか...」
自己証明書が出来た、手に取り、外套の内側嚢に仕舞い込む。
準備は出来た。後は、列車に乗るのみ。
「では、往こう。」
そんな独り言を残し、此処から出るので在った。
執筆者の八十一です。読んでくださりありがとうございます。
主人公ミュハーンの本名が出しました。かなり長い名前なので、覚えにくいと思います。すみません。
次々回ぐらいから、騎兵民族「コサック」国家編です。




