ロヴァノリヤ・コサック自治国群の旅 Ⅱ
何時に起きたのだろう。まだ、陽が少ししか上らず、群青と朱が共鳴する空が窓から見える。
...早朝って事は確かだな。
「よし、走るぞぉぉ!!」
そう意気込みながら、服を着替える。
地味で華やかな丈長の比翼外套、外に出ている弾薬入れ用の嚢に外套用のベルトの付いた騎兵民族の伝統服のチェルケスカに少しダボダボなズボン、其れを纏い、膝丈まで有る革靴の中に入れ、ズボンのベルトを締め、チェルケスカのボタンを閉め、次に外套用のベルトを締め、弾薬入れの嚢に小銃の弾薬を何弾か入れて、完了だ!!
「よぉぉし!!行くぞぉぉ!!」
脱いだ服を鞄に詰め、勢いよく扉を開け、外へ出る。馬車に鞄を入れ、両腕を大きく広げ、深く息を吸う。
そして...地形を抉る勢いの脚力で彼方へ走る。同時に風の当たる爽快感に包まれる。
「やっぱり、走るのは、楽しいな!!」
そして、宿の方へ戻る。
「ふぅぅ、疲れたぁぁ...」
そんなこと言いながら、中に入る。一回の待合、其処には、イデナが新聞読みながら、座っていた。
「あっ、イデナ、おはよう」
「あぁぁ、おはよう」
苦みのある渋い顔で新聞と睨みつける。何か気に留まる内容なのか、私からは見えないから判らない。
ただ、その表情からは良くない事だとしか解らない。途端、少し雰囲気が重くなる。
私は咄嗟にイデナの隣に座る。新聞を覗くためだ。
「...如何した?」
そうイデナが問いかける。
「新聞にそんな睨めて、如何したの?」
「...はい」
イデナが新聞を渡して来た。ドレドレと新聞を読む。
「!?、之って!?」
「...革命前夜、遂に帝都で労働者が大規模蜂起を興したんだ、其れに軍人も関与してる」
「それってかなり、やばいのでは...?」
「そりゃそうだ、之からあらゆる民族が叛旗を翻して、此の国は革命が起き、内戦が起きるのだろう、不発に終わろうが、この国は崩壊する、最悪の二択だな...」
そう言うと、煙草を吸い始める。私はその様子を横目に新聞の続きを読む。
「軍の一部も蜂起に参加、民衆は古い銃携えながら、ボロい職業専門服で、帝都を行進する。赤旗掲げながら、男女関係無く、自由を叫ぶ...」
「世知辛い雰囲気が革命で塗り替わったな...さぁ、これからどうしようか...」
問いかけているのか、単なる独り言なのかも解らない、天を仰ぐかの様な目線で尋ねて来る。
「このままだと騎兵民族にも被害は来るのは確実でしょう。何せ、自治国で一番の独立意識の高い自治国。恐らく独立宣言を行い、革命にも関与することは間違いなし...そうなると、私にも選択肢がいくつか在りますねぇ...」
騎兵民族の軍へ入る...其れは名誉ある行為...だが、そんな事で同胞の血は見たくない。私は迷惑は嫌いだ、犯罪は嫌いだ、殺人は嫌いだ、戦争は嫌いだ、私は厭戦派だ。今こそ、人生の決断なのかもしれない、此処で名誉を捨てるか、名誉を尽くすか...名誉は私には在るのだろうか...?
私は今まで、名誉有りの前提で此処まで歩んできた。騎兵民族の馬人は名誉在る平野の選民。山岳に愛され、平野の加護を受ける。幼少期からそう伝われていた言い伝え...だが、今疑問に思う、其れは本当なのだろうか、鵜吞みにして良かったのだろうか...否、決断は今なのか?この新聞が本当に真実を伝える新聞なのだろうか...
このまま、この情報を鵜呑みにでもすれば、この情報を不信を抱けば...何が変わるのだろうか...私はどうなるのだろう。革命でもみくちゃにされるのか、名誉の為に死するのか。
...まだその時では無い。何かを決断する時、そう簡単に、はいかいいえを答えるか?その選択で此の先の人生に影響を及ぼすのは確実、此処は慎重に決めて行くんだ。
其れにイデナは私に聞いたって、何か得するのだろうか、私の戦力は良いものか?私の了承を得ても、ミュハーンの了承が駄目だったらどうするの?だから、
「まぁ、でも私には関係無い事だよ」
私は騎兵民族が好きだ。でも、それ以上に自分の身の方が好きだ。此の脚力、血に染める、何て事は避けるべき事だ。
「其れに私にどうこう言ったって、変わる物は僅かでもない。変わりが分かるのは、時間でしょ?」
私には歴史に名を刻む、何て所業は不可能だ。
英雄に成ることは、素晴らしい事だ、だが、英雄に成ることは、そんなに良いものなのか?人々から尊敬され、担ぎ上げられる。其れって、王様と変わりない気がする。
私はそんな者には成りたくない。成りたいのは、騎兵民族の一人。
「だから、私は騎兵民族の文化を守るために、生きるんだよ。戦うことに意味が有るのかは知らない、でも、イデナはどう思うの?」
そう問うと、イデナは話した。
「私は、革命を支持する側の者だ。ただ、聞くだけ聞いてだけの傍観者。別にこの問いに深い意味も無い、皆そんな考えだよ。私もユジノーもこうやって、他者より自らを優先する。でも、其れが一番の策だと思う。はっきり言うが、暴力革命賛成派の私から見れば、この蜂起では、真の平等は生まれない」
「...そっか、イデナは革命派の者かぁ...でも、私は攻めもしないよ。結局、此の国に在るのはその革命や保守論に改革論、色々な物の考えが有るんだよね。だから、私は納得できる。ただ、納得できない者も居るよ。あの人は解らないけど」
「ミュハーンか...彼奴はかなりの個人主義、現実主義だね。社会系統の党から見れば、一番の対立分子だね。社会系統の党は平等の理想を掲げるけど、現実主義や個人主義は理想を否定するから難しい、ユジノーみたいに受け入れるなら、良いけど...」
...難しい話だ。でも、此処からは複雑な国内情勢は確定だ。さぁ此処からは一つ一つの選択で人生にも影響がある。嫌だねぇ...でも、真の冒険でいいな。目標も夢も無い退屈で可変な旅、何か言葉では表せない独特な感情に心情。楽しみさと危うさの双方が液と成って混在の単一になった感じ。
そんな時の事。
「ぉお...二人とも、もう起きていたのか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続




