表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

ロヴァノリヤ・コサック自治国群の旅 Ⅰ

時は、過ぎ、夜の目覚めが空に現れ始める。

「ユジノー、もうそろそろか?」

「うん、あと少し...」

「そう言えば、お前は知りながら話すことできるんだね」

「意外とできるよ、ミュハもやってみたら?」

「そんな事、出来てたまるか」

「...あっ、見えて来たよ」

「あれがチホレツクか、もう私眠いぞ」

「もう少しの辛抱だよ」

「あと、イデナ全然起きないな...」

「...そっとしておこう」

「そうだな...」


そんな事を話す内に、チホレツクの街並みがどんどん迫って来る。

ものの数分後、チホレツクに着いた。閑々と静寂な雰囲気に包まれる草原の真ん中。

木造の茅葺屋根の家々が集う街、さっきまで居たロスヴォフとは大違いの街の風景、だが、その雰囲気が騎兵民族(コサック)感が有って良い。ユジノーが引く馬車は一軒の木造建物に辿り着く。他の建物に比べて、大きくて二階が有る、宿だ。

(何とも質素な宿、こう言うのも有りだがな...)


そんな思いが秘める中。

「此処が宿です。ちょっと待っててくださいね」


そう言うと、ユジノーは建物の中へ入って行った。空室状況の確認へ行ったのだろう。

私は、夜に成った空で踊る星達を見ながら、煙草を吸っている。

およそ、3分前後。

「ミュハさん、部屋は取れたんですけど...」

「どうかしたか?」

「3人分は無理で、2人で相部屋と1人部屋に成るんですけど...どうします?」

「...そうか、どうする?」

「私に言われましても...」

「ベッドの数は大丈夫なのか?」

「それが、元々、1人用なので、ベッド1つしかないので、相部屋だと床とかで寝ることに成るんですよね...」

「...う~ん、じゃあ、私とイデナが相部屋で、ユジノーは一人部屋使っていいよ、部屋取ってくれたし、此処まで足疲れたと思うし...」

「あ、ありがとう!!」

「じゃあ、ちょっと待ってね...」


そう言うと私は、馬車に座って眠るイデナを負ぶる。

「じゃあ、部屋まで案内してくれ」

「はぁ~い」


宿の中へ入る。案外、内装は良くて、深緑のダマスク柄の壁、朱よりの濃茶の木造家具、味が有って良い。受付に会釈して、階段を上り、幾つかの部屋の扉が見える。

「此処がイデナとミュハの部屋だよ」


一番奥の部屋の扉を指さす。

「おぉ、此処か...」

「じゃ、私は此処でおやすみぃ~」

「おやすみ」


そう言って、ユジノーは泊まる一人部屋の扉を閉めた。私も、ドアノブに手を伸ばし、宿泊部屋に入る。

確かに、一つのベッド、少し長いソファ、其れに一人で十分な部屋の広さ、イデナをそっとベッドに寝かせ、私はソファに横たわる。

「...あ~あ、何か眠れなくなっちゃった」


そう言って、静かに立ち上がり、そーっと扉を開け、外へ

階段を降り、受付に再び会釈する、だが、受付は机で眠っている。無音に近い足音で外へ飛び出す。

「いや~静かで良いねぇ~」


そんな独り言呟きながら、煙草を吸う。左手に火点け機(ライター)持ち、煙草に火を点ける。

煙草の紫煙はいつもより薄く、天へ上ろうとしても、私の肩や背中の方へ導かれ、その儘、身体へ入っていく。煙が入ってくる感覚は薄っすらと有る、何と言うか、背中や肩を(くすぐ)られる感覚に近い。だが、その後は何も残らない。其れが難所だ、体内の煙が満ちたのかも解らず、何時も数本吸って終える。

「...ふぅ~」


(いか)れたぐらいの紫煙を吐き出し、中途半端な角度で夜空を見上げる。

「ほんと、此処は長閑だな...」


そんな広大な自然に対する幼稚な片言も、その壮大な空気に呑み込まれる。

だが、その孤独感、妙に惹かれる。何だろうか...そんな事考えながらも煙草の先端の灰は増すばかり、その時。灰が地へ落ちようとする。咄嗟に、掌で受け取る。熱くは無い、何故なら私は煙と同化できる、其れも長年の慣れで細かく体の一部分だけの同化も出来るようにも成った。


それで、灰の乗る手を煙と同化している。そして、同時に灰は消化される様にジミジミと消えていく、煙も吸われ、灰色の塊から僅かに出ている橙の小さい火も掌に吞み込まれて入る。

「...」


私は、死んだ魚を観る様な眼を意識しながら、呑まれゆく灰の骸を眺める。

こんな、ゆっくりと呑まれる灰で、静寂な夜を少しでも時間を進めようとする、だが、その退屈凌ぎの様なこの行為も私には、矮小な娯楽の一つだ。煙草は吸うと口の反対側が灰と化す、徐々に灰色の様に活を感じない暗色を見るのは、少し楽しい。


理由は単純。遊戯も劇も無い、そんな無娯楽の状態がずっと続いていた、だから、物事の変化を楽しむのが自然と娯楽の一つとなって居た。雨に打たれ、激しく揺れる葉、インクの付いた筆を荒い紙の上に載せて、訳の解らない奇怪な文字を書き創る、風に吹かれ方向転換する紫煙。どれもこれもまるで、退屈な時に地面に踵を何度も落とす様な意識の基に成り立っている。


そんな感じで煙草の灰を覗くが、既に塵の様な姿で私の中に含まれている。

「はぁ...」


また、紫煙を吐く。だが、紫煙と言うよりも硝煙の様な薫り、そうだな、さっき銃使ったからな、その時の硝煙が体に吸われて、煙草とかの体内の煙を出したり入れたりする時に出てきたのだろう。この匂い、紫煙や工場の黒煙や人々の白い吐息とは違う独特な臭いとは違う匂いで良いんだよな。

「ふぅぅ...頃合いかな」


そう言うと銜えた煙草を取り出す。見事に灰の死病菌が白と茶の煙草を蝕んでいる。

「もう終わりだね」


掌に煙草を直に置き、もう片手で握手するような形で潰す。そして、両手を広げる、双方の掌は火傷の跡も無い、逆にピンピンと赤みの在る手だ。

「それじゃあ、寝るとするかぁ...」


そう言って、忍び足で部屋に戻り、ソファでまた、横たわり、瞳を閉じる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ