禽に狼に馬の旅 Ⅳ
ガタンゴタンと馬車は揺れる、ちゃんと速度は程々で快適。私も煙草を吸いながら、左右に広がる広大な景色を眺める。イデナは腕組みながら、天を仰いでいる。
あぁ...何とも良い時間、良い風景、何もかも豊かで気が楽になる。
だが、此処が長閑で穏やかだろうが、他の町はどうだろうが...仲間を殺すのは躊躇するが、そろそろ、有象無象な価値の塵共を葬りたくなって来た、はぁ...この時代、技術も文化も生活も全て変わった。たが、其れも慾も肥大化している、私の正義は血。煙草を吸って、酒を飲んでも、そろそろ、乱期が来ているかもしれない。
あぁ、血が恋しい。私の正義の正当化の産物...正義は人それぞれ、でも私は血が正義なのだ。でも、其れを妨害する物が居る。自信を正義と称し、私を悪を称す、だから、殺した。人間も同胞も他の亜人も。何十?何百人?もう数えていないな...だからヴァナルガント...そうだ、私はヴァナルガントなのかもしれない...なら、正当化は出来た。私は誇り高きヴァナルガントの裔。悪凶は正義の類語、だから、何人でも殺していい筈。もう手は緋色に染まっているのだから、これ以上血が手に染まっていても、定期的な色染めとでも思えば関係は無い。つまり、無制限に殺せるし、もう、私は手遅れ、救いのない魔物だ。
私は、労働者が集い創る思想、社会主義でも無いし、貴族や王族的な反動主義にも染まらない。私には独自の思想が有る。正確な名前は無いが、血の正義とでも言おうか。全ては暴力によって世界は出来ており、皆、慾によって金を得り、金でを慾を得る。その慾は暴力で在り、暴力で金を搾り、金で暴力を買う。だが、其れは貴族か王族のやり方。そんな上品な暴力は要らない、上品さは殺す時の血飛沫の芸術点だけで良い。じゃあ、我々がやる暴力はどうかって?そんなの、無差別殺人一択だ。暴力によって、正義を得る。暴力は全てを変える改革分子、アナーキーよりも凄い劇薬なんだ。とりあえず、殺しは正義の華。
英雄も勝手に魔物・魔王を悪と称し、身勝手で残虐非道な事を行う。なら、此方もやって良いじゃないか。先にやっているのは、此方だろうが、殺られた分だけ殺り返す、正義と正義の白熱戦だ。
...私はヴァナルガンドの裔だ。血は正義の飾り、正義は血の化身。殺しは救済、都合の悪い人物はジャンジャン殺して行こう。どうせ、此の国には、仮初の人権が跋扈する国。殺しても誰にも気に留めない、悲しい...いや、楽に殺せるな、良きかな良きかな。
ガタンゴタンと揺れる中、私達三人は、そう長閑な自然に見とれていた、だが...
その時...一つの銃声が静寂な雰囲気を壊す。
だが、その銃声の後、聞こえるのはカンと言う金属音。
その凶弾は見事、ユジノーの肩へ貫くように見えた。しかし、聞こえたのは金属音。私もイデナもその音に少し傾げる。...いや、今、私達は何者かに狙われている。その時、ユジノーが叫ぶ。
「匪賊です!!二人とも馬車から降りて、何か弾の障害になる物に隠れてください!!」
「お前、今肩撃たれて居なかったか!?」
「私は、大丈夫です。防弾チョッキ着てるんで!!」
「おっ、そうか...なら、良かった」
その時、また銃声が聞こえ、今度は私の煙草の先端に当たる。
「ミュハ!?大丈夫か!?」
「大丈夫だ」
その時、私は外套の嚢から、拳銃を取り出す。
「敵は、あっち、東の方。恐らく、複数人。ちょっと殺して来る」
「待て待て!!お前一人じゃ、勝てっこないぞ!!」
「大丈夫、私には銃弾は通用しない」
「...そうだったな、だが、お前一人じゃ、危ない、私も戦うぞ」
そう言って、イデナは翼の中から、銃を取り出す、其れも短機関銃。弾数の多いドラムマガジンの短機関銃、錆の少しある銃、それなりに使われているのだろう。
「よし、行くぞ!!」
「待て!!ミュハ!!」
私は敵の的となる、平たい原野の前に立つ。敵に見つかると同時に私も敵を見つける、数はたったの4人。一人は、拳銃、二人が小銃、一人はイデナと似た短機関銃を携えている。絶好の鹵獲チャンスだな。
私が敵の目の前に立った、その刹那。
バンバンと銃声・銃弾が私に降りかかる、肩に足、腹、首、普通なら死ぬ此の状態。
だが、残念な事に、私には効果は無い。穴の開いた体、同時に、白い煙が穴の開いた処を塞ぐ。
痛みも感じない、だから、今、この状態、私が優勢なのだ。
「愚か...」
どんどん、私は敵に近づく、ジャンジャン弾幕は強くなる。同時に敵から焦りを感じる。
「そんなに焦らなくとも、直ぐに楽にさせるだよ...」
そして、私は、敵の目の前まで来る。その時の敵の表情は愛くるしかった。
私に怯え、「命だけは...」震えた声で懇願してくる、かわいい。
「大丈夫だよ、命だけは許してやる」
「ほ、本当ですか...?」
「それ以外は奪うがな」
「えっ?」
その瞬間、5発の銃声が聞こえる。
「あーあ、終わっちまった。つまらないつまらないねぇ...」
此奴らどうしよ、少し瘦せてるし、臓器売買も成り立たなそうだなぁ...
目の前に広がる、五人形成の血の池。たった数分の遊びで在ったが、楽しかった...
いや、まだ、生きてるなぁ...
血の池から一人、未だに生きようと、踏ん張って立とうする者がいる。何だ面白い奴じゃないか、私が再度、銃口を向けようとした、その時。バンと言う銃声、同時にそいつはくたばる。撃ったのは...”ユジノー”であった。
「そんな物、要りませんよ、此の世に...」
ユジノーと思えない言葉を吐き、私の方に来る。
「大丈夫ですか!?怪我は有りませんか!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「良かったです!!」
イデナもこっちに近づく。
「お前ら、大丈夫か?」
「はい。私もミュハさんもピンピンです!!ですよね、ミュハさん?」
「あぁ...そうだな」
「そうか...なら良かった...で、この死体どうするんだ?」
「私に任せろ」
そう言って、私はこの5人の屍に血の池ごと、煙にして、私の体の中に入る。
その様子に二人は、唖然と...いや、呆然としていた。
「よし、行くぞ」
「おい、待てミュハ!!その死体如何するつもりだ!!」
「後で埋める」
「......そうか」
さっきまでの勢いが消え、馬車の方へ戻るイデナ、そしたらユジノーが近づいてこう言う。
「そいつ等、同胞を殺す馬賊だから、其処らにほかしていいよ」
「急にどうしたんだ。ユジノー?」
「私たち、馬人は同じ仲間を殺す奴は、価値も誇りも無いから、殺したらそのままにするの。だから、其処らにほかして」
どうやら、馬人には、独特な価値観が有るっぽいな...
「分かったよ...」
そう言って、煙にした5体の屍を再び地面に落とす。
「これでいいか?」
「うん、ありがと」
「じゃあ、戻るか...」
「うん」
何と言うか、かなり雰囲気は重くなってしまった。
やはり、他人との関係は難しいな...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続




