禽獣は旅を委ね往く Ⅴ
大衆の笑声が大通りに響く。それは、酒場に飲食店からの刺客だ。
目の前に広がる、石造りの大通りに酒に酔い酔う物達が夜に浮び光る星の様に陽気に笑っている。
そして、左右両方に佇む屋外席には、優雅にそして、楽しく飯を喰っている者達が居る。
其れが余計に空腹させる起爆剤に成る。
私達も大通りの一角に佇む、食事処に入り、屋外席に座っている。料理の到着を待っている。私は、肉の串焼きにマトンガルプツィとクバニエールって言うウォッカ二瓶。イデナは、ウートカシチーにゴロゴロ岩型の牛肉と多量の香辛料仕込みのカフカーフ版ビーフストロガノフと大ジョッキ一杯の黒ビールを頼んでいる。
料理到着を待っていたその時、周りから歓声が聞こえる。どうやら今日は何かしらのパレードがあるらしく、大通りには、騎兵の軍勢が行進して居る。派手で豪華な戦闘服を身に纏い、凛々しく行進して居る。
周りの諸民は拍手したり、歓声上げたり、ジッと眺めて居る奴もいる、無視して飯食べてる奴もいる。
私は二本同時に煙草吸いながら、その様子を眺め、イデナは椅子に凭れながら、騎兵の軍勢を視ている。
「あれが騎兵の軍勢、派手な色合いの服に長い剣、さすがは平原の猛者だな、格が違う」
鋭い眼光、屈強な体付き、老兵も若兵もかなりの大柄の持ち主だ。何とも怪力そうな騎兵民族なんだ、面白い。
「獣半人の中にも、馬関係の者は居ないの?」
イデナが、軍勢を視ながら、こっちに問いかけて来る。
馬血を汲む獣半人か...居そうでは在るな、でも、今の時点では見かけないなぁ、でも居そう。
「居るかもしれないけど、見かけないな」
「ふ~ん、ちょっと見てみたいな...」
そうこうしてる内に、着々と料理が運ばれる。
私の目の前には、灰が少し溜まった煙草を休ませている灰皿に黒いラベルに白い騎兵の絵に赤字でクバニエールと書かれた酒二瓶に大きなグラスと白銀色の短剣の様な串に刺さる焼けた肉々にキャベツに巻かれた羊肉塊。串を持って肉を貪り、ウォッカで喉を潤し、流し込む。
(くぅ~たまんねぇ~)
イデナの方も料理来て、既に黙々と食べる。頬が少し赤くなりながらも、バクバクと喰っている。
大通りのパレードが続く中、私達は飯にナイフとフォークで白兵戦をしている。
キャベツの装甲に風穴開けるフォーク、中から肉汁という鮮血が現れる。見事に半分に切り取れた羊肉塊、捕食者の血汲む私からはそう見える。
フォークに肉を刺し、そのまま一口で貪る。
(...美味しいな、黒胡椒に薫りが口内に広がる、キャベツが油と肉汁吸って旨くなってる)
物の数分でマトンガルプツィを平らげると、そのままの勢いで酒一瓶を飲み干す。グラスに入れず、酒瓶で飲む、何とも爽快な事だろう。やっぱり、瓶ごとのショットは最高だ。
(じゃあ、次はシャシリク、12本も有る。存分に酒の肴として楽しめるな)
パレードも終盤なのか、周りの歓声も甲高くなり、大歓声に成る。それでも、私達は飯に集中する。何なら、イデナは既に喰い終わって寝ている。
(って、どうやって宿に戻るの....負ぶるかぁ...)
くっ、呑気に心地よい顔しながら寝やがって...はぁ...
残る酒瓶手にして、一気に飲もうとする。だが、無い。既に空瓶だ。之が二本目の筈...あっ
「飲んだな、イデナ...」
単に寝てるのではなく、泥酔して寝てるな、之は...
そりゃ、私は慣れてるが、此の酒、度数が八〇%だから、直でも飲めばこんなヘロヘロに成るよなぁ...
「はぁ..こりゃ重労働だなぁ...」
食後の運動が確約した私を先に称えて...
「すみませーん、クバニエールもう一本くださーい」
「はーい、クバニエールもう一本ですね、かしこまりました」
二本飲めなかったしな、別に飲んでも良いだろう。でなければやってけない...
待つ間、休ませて火が消えた煙草に手を付け、また火を点け、一服する。
二本同時は何でもした事が有る。供給量が二倍に成るからな、なんなら、今までに六本同時に吸った事も有るし、十本も有る。今思えば馬鹿な事したな、私は。
夜も老け、大衆の声も子供の様な声は消え、大人達が謳い舞う舞踏場に成って居る。
すぐさま届いたクバニエールを一気に飲み干し、会計...結局、私が全額払う事に...
次は奢ってもらうからな、絶対に。
「はぁ...帰るかぁ」
荷物を煙に換え、煙と同化した体に含み入れては、同化を解除して、イデナを背負う。命宿る物は同化状態ではすり抜けてしまう。無機物なら煙にして、体の中に吸い込めるが、有機物は違う。煙と言うのは、
生命には危険で、其れを同化すると成ると死を贈る事に成るのだ。原理は解らないが、今までに煙で他者を攻撃する際、私の煙を吸った途端、弱体化し、気絶して、そのまま気を失ったまま死ぬことが過半数だった。まぁ、残りは刺殺と銃殺とかだけど...まぁ、人間以外もやってるし、言うて、今までの歴史の中で生物を殺しているのは人間だし、数十人位、大丈夫だろう。
「よっこらしょ...ふぅ..じゃあ宿に戻るかぁ」
大人の舞踏場を抜け、宿に向かう。
(イデナって意外と"重い"な、何か軽そうなのに、以外と体がガッチリしてるな)
そう心の中で呟く、其の時。
「お姉さん、大変そうですね。人背負いながら歩くなんて」
後ろから声がする。振り向けば、其処には、独りの女性。其れも馬車?人力車?引きながら...あ、もしかして人間じゃないな、こいつ、恐らく...馬血を汲む者かもしれない。
「どうです。乗っていきます?”旦那”?」
???旦那?私、女の筈だが、いや、たまに男に間違えられるけど...ちょっと待って、こいつ、酒の匂い凄いな、酔ってるな、まぁ...良いか。
「じゃあ、頼む」
「あいよ~じゃあ、此処に荷物置いて、此処に座ってぇ~」
椅子下の籠に荷物って煙にして置く物無いじゃないか...
まぁいいか...
「何処まで行きますかぁ~?」
「えっとなぁ...」
宿の名前...えぇっと...ロスヴォフヴォルク・ホテルだっけ
「ロスヴォフヴォルク・ホテルまで行ってくれ」
「あいよ~”舌噛むなよ”~」
「???」
あっ、やばいかも、これ...
その瞬間、馬車は動く、有り得ないほどの速度で。
「速い!!速いって!!」
「それが私の取り柄なんですよぉ」
動いた途端、激しく吹く風の様に進む馬車、私は風に押されて、背もたれに抑え付けられた様に感じた。
それぐらい、速いのだ。具体的な表現も出来ないほどの風圧が体に吹き渡る。
「もうすぐ着きますよ~」
その言葉が裏切ったのは、その刹那、もうすぐと言いながら十数秒で着いたのだ。
もう何とも感じないし、何とも思わないが、ひとこと言える、”速い”と。
「はい、之、お代」
「あっ、要らないですよぉ」
「いやいや、此処まで運んでくれたし、流石に...」
「じゃあ!!一つお願いしたい事が有るんですけどいいですか!!」
「良いぞ、何だ?」
「兄貴!!視たところ旅人そうだし、一緒に旅したいです!!」
「えっ...」
どうするべきか、多分酔ってるからそんなこと言うだけかも位知れないし...
適当に流すか...
「...分かった。明日の此処で集合しよう。分ったか?」
「はい!!兄貴!!」
「姉貴ね」
「はい!!姉貴!!」
「じゃあ、私達宿に戻るから、そっちも気を付けるんだぞ」
「はい!!」
そうして、別れた。
どうせ、酔いで翌朝には忘れるだろうしな...
私もイデナを部屋に戻して、寝るか...
イデナの部屋の扉を開け、ベッドのソッと寝かせる。
(ふぅ、これで大丈夫な筈...)
忍び足で部屋を去り、自室へ戻る。
あくび掻きながら、毛皮の羽織を椅子に掛け、帽子を机に置き、ベッドに横たわる。
「おやすみぃ...」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続




