2度目の奇跡
下校途中、雷が鳴った。
物凄い轟音が鳴り響き、大粒の雨がぽつりと落ちてきた。
瞬く間に豪雨となった。
電動車椅子を押しながら歩いていたあたしは、急いで雨宿り出来る場所まで
避難した。
建物のちょっとした軒下だけど、十分雨宿り出来る。
「すっごい雨だねー」
ヤムちゃんはそんな事を言ってる。
「うん、でもすぐに止むよ。通り雨でしょ」
「そだね。ん?」
ヤムちゃんは何か不思議そうな顔をしてる。
「どうしたの?」
「うん、なんか、変なんだよ。身体が……あっ!?」
「あっ!?」
2人同時に声が出た。
ヤムちゃんの足が……椅子に座っておろしていた膝から下の足が
ぴんと伸びて、地面と水平になってる!?
「動いた!?」
ヤムちゃんは、左右それぞれの足をぶらぶらさせながら、びっくりした声で
動く! って言ってる。
「さうすちゃん! 足が動くんだけど! もしかしたら立てるかもしんない!」
「うん! 立ってみようよ!」
あたしは、車椅子の前に立って、ヤムちゃんの手を取った。
「ゆっくりでいいからね、立ってみて」
「うん!」
ゆっくりでいいって言ったのに、ヤムちゃんは、勢いよく立ち上がった。
「うわぁ!」
あたしはびっくりして声が出ちゃったよ。
ヤムちゃんはその場で足踏みをしている。
「さうすちゃん! 大丈夫みたい! 立てるよ! これなら、歩けると思う!」
ヤムちゃんが興奮した声で言うので、あたしも嬉しくなって。
「うん! 歩いてみて、ヤムちゃん!」
「わかった! 行くよ!」
あたしは手を取りながら、後ろへと下がった。
1歩、2歩、大丈夫だ。もの凄く安定した歩き方だ。
手を持たなくても大丈夫そう。
そう思ったあたしは、手を放した。
すると、ヤムちゃんはコクリと頷いて、1人で歩き出したんだ。
「歩ける! 歩けるよ! さうすちゃん!」
「うん、うん。よかったね、ヤムちゃん!」
ヤムちゃんはぐるぐる歩き回っている。
もしかしたら、走れるかもしれないなんて思うほど、普通に歩き回っている。
そんな事をしてたら、雨が上がっていた。
自宅へと帰る事にしたんだけど……
「ただいまー」
自宅に着くと玄関前にヤムちゃんのお母さんが待っていた。
「え!? なに? どういう事?」
お母さんがびっくりしている。
まぁ、それもしょうがないよね。
車椅子に座っていたのがあたしで、押しているのがヤムちゃんだったからね。
「こんにちわ。お邪魔します」
「夜夢、どういう事? さうすちゃん、これは?」
あんまりびっくりさせるのも悪いと思って、あたしは椅子から
立ち上がった。
「ヤムちゃんの足が治ったみたいなんで、あたしが椅子に座らせて
もらってたんです」
「そうなんだよ! お母さん! わたし、歩ける様になったんだ!」
ヤムちゃんは、そう言うと、お母さんに飛びついた。
お母さんは泣き出し、ヤムちゃんも泣いている。
「ほら、見て?」
ヤムちゃんはお母さんのまわりを歩き回っている。
前回よりもしっかりした足取りで、歩き回る様子を見て
お母さんは、更に泣き出した。
「よかった……本当に」
「ここじゃなんだから、家に入ろう!」
そんな事があり、翌日
ヤムちゃんは、朝、あたしを迎えに来た。
一緒に登校する為だ。
ただ、昨日まで使っていた電動車椅子はどこにもない。
「おはよう、ヤムちゃん。あれ? 車椅子は?」
「うん、いらないから、置いてきた」
「え? もう大丈夫なの?」
「うん! 平気! 学校行こ!」
そう言って、あたしの手を引っ張るヤムちゃん。
散歩をねだる犬みたいになってる。
「わかった、わかったから、引っ張らないでー」
ヤムちゃんは歩けるのが嬉しくてなのか、学校まで歩けるのを
早く確かめたいのか、わからないけど、とにかく嬉しそうだ。
クラスが違うからよくはわからないけど、後から聞いた話しだと
クラスのみんなも、担任の先生も、みんなびっくりしてたらしい。
そりゃ、そうだろうね。
授業の移動も1人で行けるし、体育まで参加出来るとなると、
もう、障害者じゃないからね。
その日は、ヤムちゃんのお母さんが学校に来たみたい。
色々と説明して帰ったらしい。
まぁ、そんな事もあったりしたけど、
また、突然歩けなくなるかもしれないので、何ヶ月か様子をみるという事になったみたい。
ただ、検査は必要らしい。
つたい歩きさえ出来なかったのに、今は、健常者と同じ動作が可能になっている。
元々が原因不明なんだけど、障害者認定されてるので、回復したなら
撤回などの手続きも必要になるし、一応、検査はしないといけないみたい。
今はまだ様子見の状態だけど、早々に検査に行かないと行けないというのを
ヤムちゃんから聞いた。
でも、前回の事もあり、ヤムちゃんは病院に行くのが嫌になっているみたい。
行きたくないけど、行かなきゃならない、どうしよう……って。
学校からの帰りにそんな話しをしてた。
ヤムちゃんは、あたしについて来て欲しいらしい。
まぁ、お邪魔じゃないなら、行ってもいいかなくらいに思ったあたしは、
一応聞いてみた。
「ついて行ってもいいけど、お邪魔じゃないかな?」
「ううん! 全然邪魔じゃないよ! さうすちゃんがいてくれたら、
すっごく助かる! 来てくれる?」
目をキラキラさせて、そういうから
「たぶん病室には行けないと思うけど、検査が終わるまで受付で待ってるよ。
それなら、大丈夫かな?」
「うん! たぶん平気! さうすちゃんなら、病室だって行けると思う!」
「あー、でも、お母さんとかが一緒にいるはずだから、そこは遠慮するよ」
「うーー、そう……」
ヤムちゃんはちょっと残念そうだけど、そこは仕方ないと思う。
でも、気を取り直したみたいで、
「でも、さうすちゃんが来てくれるなら、病院にも行けるよ!
ほんとに来てくれるの?」
「うん、受付までだけどね」
「それでもいい! 一緒に病院に行ってくれるなら!」
「うん、行ってあげるよ」
「ありがとう! さうすちゃん!」
こんな感じで、次の土曜日に病院に行く事になったんだ。
病院への行き帰りは、前回のこともあり、タクシーを使った。
今回はお父さんも一緒だ。
前の席にお父さん。後ろに、ヤムちゃんと、お母さんとあたしが座った。
病院に着くと、あたしは受付の前の待合室? っていうのかな、そこに座って
待つ事になった。
ただ、待っている間に、変なことがあった。
顔に黒い煤が付いている人がいたんだ。
受付の人だった。
その人は体調が悪くなったのか、同僚の人に支えられながら何処かへ
連れて行かれた。
その後は、何事もなく、ヤムちゃんの検査も終了し、特に異常なし。
元々、身体には異常がなかったらしく、なぜ足が動かないのか? 分からないと
いう状態だったから、新たに検査しても、何も変わってはいなかったみたいだけど。
タクシーを呼んで、特に事故に会うこともなく、自宅へと帰り着いた。
お父さんと、お母さんと、ヤムちゃん、みんな、ほっとしてるみたいだった。
あたしも少しだけ家に上がらせてもらって、お寿司を食べて帰った。
美味しかったよ。
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