修行前の打ち合わせ
「いつまでもここにおっても、修行は出来んから、山小屋へと行こう」
雷様がそういうので、2人で返事をした。
「「はい!」」
あたし達は、いつもの山歩き用の服に着替えて、外に出た。
「夜夢もいる事じゃし、山小屋までは、迂回ルートを使う。」
「「はい!」」
今日は声がハモる。
「では、行くとしよう」
あたし達は、雷様の後をついて歩いた。
山小屋に着くと、雷様が持っていたリュックから、食料品を
保存庫にしまったり、山小屋の中を軽く掃除したりして、お泊りの準備をした。
ここには、ここの時間で7日いるからね。
あちらの時間では、1秒もかかってないけど。
掃除が一通り終わると、雷様が、打ち合わせを始めるというので、
ヤムちゃんと2人、畳の間に座った。
「沙有珠は、あちらの時間で15日周期じゃったか、ここに来るのは?」
「はい」
「そうなんだ! さうすちゃん、15日おきにここに来てたんだ! 凄いね」
ヤムちゃんはなぜか、にっこり笑った。
??
「沙有珠と一緒にいないと、夜夢はここに来る事が出来ないと……」
「そうみたいです」
「わたし、さうすちゃんとずっと、一緒にいます!」
「さすがに、そういう訳にもいかんじゃろ。」
雷様がそう言うと、ヤムちゃんはしゅんとしてしまった。
「ふむ。沙有珠よ、繭糸出せるか?」
「え? まゆしー? はい、出せると思います」
そう返事をして、あたしは、腕をクロスさせた。
「お願い、まゆしー! 出てきて」
そういうと、腕がほどけた。
両腕に巻いてある包帯がほどける様に、ばららっとほどけると、
2本のまゆしーが空中に浮かんでいた。
「うむ。出せるようじゃな」
「ななな、なにこれ!? さうすちゃん!」
「うん? これは、まゆしーっていうんだよ。
あたしを守ってくれるんだ」
「腕がほどけたみたいに見えたけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。」
まゆしーは、あたしの両肩あたりから出ていて、びよんびよんと、
跳ねる様な動作をしている。
「そ、そうなんだ……」
ヤムちゃんは、あたしとまゆしーを交互に見ながら、びっくりした顔をしていた。
「あちらの時間でも繭糸は、動作しておったじゃろ?」
「はい! でも、その時は、あっちの時間でも、ここの記憶を持ったまま
だったからですかね?」
「いや、それは関係ないじゃろな。今は、あちらの時間でも動作したという
事実だけの確認でよい」
「はい」
「あちらの時間には、蟲を寄生させてくる怪異がいる。
それも、夜夢の身近にな」
ヤムちゃんがぶるっと震えて、あたしの袖を掴んだ。
「1回目は、両足を骨折したんじゃったな?」
雷様は、ヤムちゃんに問いかけた。
「はい、横断歩道で信号待ちをしてたら、急に車が突っ込んできて……」
「ふむ。それも怪しいのぉ」
「雷様、もしかしてそれも、蟲が?」
「かもしれんの。まぁ、今はそれはよい。
で、今回の事故は、足は怪我をせんかったのじゃろ?」
「はい、車に乗ってたから、車同士の衝突事故で、わたし達は
軽症で済みました。むちうちの検査とかはしましたけど」
「ふむ。蟲に寄生されたのが、どの段階かなんじゃが……
事故の時か、検査の時か。
事故の後、すぐに、足が動かなくなったかどうか? 覚えておるか?」
「はい、覚えてます。車から一人で降りれなかったから……」
ヤムちゃんは、嫌な事を思い出して、つらそうだ。
「ふむ。となると病院ではないな。
じゃが、怪異はどうやって知ったのかの?
夜夢の足が治ってるのを。
事故に合う直前、何をしておった?」
「えーと、歩ける様になったから、リハビリの必要ないねって事で
お世話になった病院の介護士さん達に、挨拶に行きました。
その帰り道で、事故に……」
「ふむ。リハビリの介護士か……怪しいのぉ」
「でも、普通の人達で、良くしてくれたんです。優しいし、怪しい人なんか
いませんでしたよ」
ヤムちゃんは、介護士さんを疑うのが嫌みたいだ。
「ふむ。そうか、すまんすまん、疑ったりして。
ただ、直前に何をしていたかを知りたかっただけじゃ。
ただ、介護士だけじゃないんじゃろ? その病院にいた者は?
事務員もいるだろうしな」
「雷様は、その病院にいる人の誰かだと思っているんですか?」
「蟲に寄生された者が複数いるとは思っておる。
夜夢の足が治っているのを知った者と、車を運転した者は、たぶん別じゃ」
「なるほど」
そういう風に考えるんだ。
ヤムちゃんは、少し青い顔をしている。
「ただまぁ、今回はたまたま、直前に病院に行った帰り道だったから
そう思っただけじゃぞ。
夜夢の足が治っているのを知っている者は、沢山おるのじゃろ?
学校の友達、その友達が親に話していれば、その親。教師は当然知っておるし
どこで、どのタイミングで事故が起きても、おかしくはなかったはずじゃ」
あたしと、ヤムちゃんは、黙って聞いていた。
いつ攻撃されるかわからない。
そう思ったら、怖くなってしまったのだ。
「あちらの時間ではここでの記憶は忘れてしまう。
今、言った事も忘れてしまうから、忘れずに行動出来る者が必要じゃ」
「え? そんな人いるんですか?」
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