お願い、まゆしー!
『え? どういう事?
もしかして、スイッチが入ったって事?』
『いや、わからん。わからんが、沙有珠は入れた感覚はあるのかの?』
『ない! です。』
イノシシはさっきよりも近くにいる!
あたしは、石を拾って素早く立ち上がり、その場から離れる為、全力で
駆け出した。
イノシシから50メートル位離れた所で、自分の身体を確認する。
痛い所はない。大丈夫だ、動ける。
イノシシは、2回の攻撃を凌がれたのを警戒してか、こちらの様子を見ている。
腕からほどけた何かは、しゅるしゅると腕に巻き付いて消えてしまった。
『雷様! 腕からほどけたのなに?』
『繭糸というんじゃが……』
『まゆしー? 分かった、まゆしー、ありがとう!』
あたしは、腕を触りながら、腕からほどけた包帯みたいなのにお礼を言った。
イノシシはじりじりと近づいて来て、30メートルくらいの位置で止まった。
対峙しているあたしは、何も出来ずにただ見ていた。
すると、イノシシの頭の上に黒い塊の様な物が3つ出来上がっていく。
『沙有珠よ! 気をつけろ! 魔弾を撃つつもりじゃ!』
『まだん?』
『物理が効かぬとみて、魔力の弾で攻撃してくるぞ!』
『え? たまって事は飛び道具?』
と言った瞬間、黒い塊が飛んできた!
右に避けようと身体を動かしたけど、時間差で迫ってくる黒い塊が
あたしの動いた場所に!?
当たる! と思った瞬間、腕をクロスして身構えた。
再び、腕がほどけ、沙有珠の身体を覆う様に黒い塊を防いだ!
『!?』
「まゆしー!」
2発目、3発目が、まゆしーに当たるが、沙有珠は無傷だった。
「まゆしー、ありがとう!」
そう言ってる時も、黒い塊は次から次へとまゆしーに当たっていく。
くそ! どこまで耐えられるんだろ?
避けないとまずいよね。
あたしは、ジグザグに走りながら、黒い塊を避けていく。
イノシシはあたしを追いかけながら、黒い塊を飛ばしてくる。
ジリ貧だ……
避けてばかりいても、いつかやられちゃう……
あたしには攻撃手段がない……
石を投げても、牙で打たれちゃうし。
『雷様! 何か攻撃方法はないの?』
『ない事もないが……
出来るかの?
繭糸が出せてるんじゃし、やってみてもいいかもしれん。』
円を描きながら駆け回り、黒い塊を避けていく。
『雷様! 早く!』
『分かった。
繭糸を操り、イノシシに突き刺して、電気を流すんじゃ。
そっちの時間でいう所のスタンガン、いや、電極を飛ばすから、テーザーガンじゃな。』
『テーザーガン?
どうやるの?』
『うーん……
どうやって繭糸を出しているのか、わからんのでなんともじゃが、
繭糸を、自分で動かしてみるんじゃ!』
『わかった!』
とにかくやってみよう!
あたしはまゆしーを動かそうと思ったんだけど、ジグザグに走ったりしているし
まゆしーは黒い塊を防いでくれてたりする。
んーどうしよう!
お願いするしかないか!
『お願い、まゆしー!
アイツを突き刺して!』
あたしは走りながら、追いかけてくるイノシシを指さした。
すると、2本のまゆしーが一直線になり、イノシシに向かっていった!
もう少しで突き刺さるという所で、まゆしーは、止まってしまった!?
届かないの?
30メートルは離れている。
あたしの両肩あたりから出ていて、追従してくるまゆしーは、
イノシシを何度も刺そうとしているが、届かない!
『くそ! もう少し近づかないとだめか。』
あたしの意図に気づいたイノシシが、速度をゆるめ、あたしから距離をとっていく。
追いかけられていたあたしは、そのまま走り続けていたから、50メートル以上、
距離があいた。
あたしは立ち止まり、イノシシを見た。
イノシシも走るのをやめて、こちらを見ている。睨んでいる様にも見える。
『ふむ。
イノシシめ、距離をとりおったわ。
沙有珠よ、今のうちじゃ。
繭糸に電気を流してみろ。』
『電気?
どうやって?』
『うーん……
繭糸を動かせるのじゃから、電気も流せるじゃろ?』
『えー、そんな事言われてもわかんないよ。
お願いしてるだけだし。』
『ふむ。
なら、繭糸にお願いしてみたらどうじゃ?』
『わかった!
お願い、まゆしー! 電気を流して!』
言った瞬間、まゆしーの先端から青白い光が放たれた!
『うわっ! 出た!』
放電? だったかな、理科の実験で見た事がある。
『なるほど。沙有珠のいう事を聞くらしいの。
沙有珠よ、繭糸の届く所まで近づいて、電気を流すんじゃ。』
『わかった!
いくよ、まゆしー!』
反撃開始!
あたしは、イノシシに向かってジグザグに走り出した!
イノシシも黙ってはいなかった。
黒い塊をばんばん飛ばしてくる。
当たりそうな奴は、まゆしーが防いでくれる!
あたしは、イノシシに向かって駆け続けた!
残り30メートルをきった所で、あたしはまゆしーにお願いする。
『まゆしー、お願い! 突き刺して!』
まゆしーは、一直線になり、イノシシに向かって突き進んでいった!
イノシシの鼻先に当たろうかという時、大地から土壁がせり上がり、
まゆしーの前に立ちはだかった!
まゆしーは土壁に突き刺さる!
『お願い、まゆしー! 電気を流して!』
そう言うやいなや、土壁が青白い火花と共に、大きな音をたてて爆発した!
まゆしーから放たれた電撃が土壁を破壊したのだ。
あたしは、まゆしーを引き寄せると、その場にしゃがんで辺りをうかがった。
もうもうとした煙が立ち込め、イノシシの姿は見えない。
すると、眉間にスパークが走った!
『鬼!?』
煙の中から姿を現したのは、イノシシだった。
顔中から血を流していて、こちらを睨みつけている。
直接ぶっ刺さないと倒せないか……
なんて考えていたら、イノシシがくるりと背を向けて走り出した。
『逃げた?
まだ、戦えそうだったけど。』
あたしはあっけにとられて、走り去っていくイノシシを見ていた……
『ふむ。
終わりのようじゃな。』
『逃げちゃったけど、いいの?
『沙有珠は、イノシシ絶対殺すガールってわけじゃないじゃろ?』
『うん。』
『なら、今日はしまいじゃな。』
『はい。』
終わりって聞いたら、力が抜けちゃって、あたしはその場にへたりこんだ。
「ふぅ」
自然とため息が出た。
『まゆしーがいなかったら、どうなってたか……
ありがとう、まゆしー!』
あたしがお礼を言うと、2本のまゆしーは、びよんびよんと、跳ねる様な動作をした。
返事をしてくれたみたいで、嬉しかった。
ふふ
しばらくすると、まゆしーは腕に巻き付いて消えてしまった。
「さて、お腹が空いたじゃろ?
昼ご飯にしよう。」
あたしが用意するのかと思って、リュックを開けようとしたんだけど、
雷様が、おにぎりを渡してくれた。
「今日は昼ご飯の用意とか出来そうもないじゃろなと思っておったから
用意しといた。」
「ほれ、鮭じゃろ?」
「うん! ありがとう!」
さすがは、雷様だ。
嬉しい!
あたしはすんごくお腹がへっていて、おにぎりを3つも食べちゃったよ。
2人でうまいうまいって言いながら食べたんだ。
食べながら、あたしは、雷様に気になっていた事を聞いてみた。
「あのイノシシって名前はあるの?」
「うん? イノシシの名前?
個体名はわからんな。
じゃが種族の名前ならあるぞい。
確か、魔猪だったはずじゃ。」
『まちょ? 意外と可愛い名前だ……女の子って訳じゃないよね?
種族名だし違うか。』
『しかし、まちょっていうのか、アイツは凄かったな。
130キロの球を走りながら打ち返すなんてね。
アイツも走ってたからもっと速い球を打った事になるんだよね?』
「そうじゃな、相対速度でいうと、イノシシが50キロくらいのスピードで
走ってたとして、180キロの球を打ち返した感じじゃ。」
「うへー、あたしが180キロの球を投げても打たれちゃうのか……」
凄いな。
強打者だ。
「ふむ。
そこが気になるとはな。
普通は土魔法を使ってきた事とかの方が気になるんじゃがな。」
「えー
ほら、あたしってピッチャーだから。
打たれた方が気になるんだよね。ははは」
そんなたわいもない話しをしている間に、猛烈な眠気が襲ってきた。
ご飯を食べたからかな?
だめだ、眠い……
あたしは、目を開けていられなくなり、いつの間にか寝ちゃったらしい。
気づいたら、山小屋だったし、朝になっていた。
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