火行2
「うむ。
外側の円から、内に向かって歩いていくんじゃ。
紋様が示す道が複数に枝分かれしていても、進むべき道は
道が示してくれる。
歩きやすいからといって、示す道を外れると、さっきも言った様に
2度と戻って来れなくなるから、気をつけるのじゃぞ。」
「はい。」
「沙有珠は、紋様の上をただ歩けばよい。」
「はい。」
体育館くらいの広さがある広場に、直径10メートルくらいの円形の紋様が
描かれている。
複雑怪奇なその紋様は、とても一筆書きで描ける様なものではなかった。
「この上を歩くの?」
「そうじゃ。」
うっすらと光っている線の上に足を乗せた。
パチリと、火花が散った。
『大丈夫なのかな?』
ちょっとだけ不安になった。
けど、もう歩くしかない。あたしは両足を乗せて歩き出した。
歩くたびに火花が散る。
『これで転写って奴が出来るのかな?』
心の中で考えていると、雷様が答えてくれた。
『その紋様には、暗号化された回路が描かれていてな、
沙有珠が歩く事によって、復号化され、へそに転写されるんじゃ。』
『はい。』
よく分からなかったけど、転写されるらしい事は分かった。
20歩くらい歩いたところで、歩きにくくなった。
なんていうのか、抵抗がある。
ぐぐっと押し返されるというか、腰までつかったプールの中を
歩いている様な感じだ。
しかも流れがある。
足元は、火花どころか、火が吹き出している!?
『なにこれ!?』
『熱い様な熱くない様な……』
『雷様! なんか、歩きにくくなったんだけど!
足元から、火が出てるし!』
『うむ。
パターンには抵抗があるんじゃ。熱に変わる事もある。
歩ききってしまえば、元通りになる。
頑張れ。』
『えーー!』
ただで済むはずが無かった……
歩くだけと思っていたあたしが、うかつ!
だけど、やり始めたら途中でやめる事は出来ない!
やってやる! やりきってみせる!
見えない壁? ゼリーとか、粘土とかの中を突き進む感じで歩いた。
炎は膝位の高さまで上がっている。
外縁を半分くらい歩いた所で、中へ入るルートへと導かれた。
こっちへ進めという様な感覚? が伝わってきて、別の方へ進もうとすると
”違う” という感覚になる。
なるほど、これが紋様が示す道か……
あたしは、紋様が示す方へと進む。
不思議な事に、炎で足が燃えたりはしていない。
熱いは熱いんだけど……
この先の道からは、猛烈な抵抗を感じる。
流れるプールから、台風の風の中を歩く様な感覚になった。
吹き飛ばされる様な事はないけど、前に進むのが困難だ。
1歩足を前に出すのに、時間がかかる。
吹き出す炎も腰くらいの高さまでになっている。
『ぐぬぬぬぬぬ』
あたしは歯を食いしばり、見えない壁の中を突き進んだ。
歩き始めて既に1時間が過ぎている……
パターンはようやく半分って感じだ。
パターンの抵抗は激しい時もあれば、そうでもない時もある。
回路によって違うのかもしれない。
あたしは、もう何も考えられない。
前へ、前へと歩くだけ……
抵抗が激しい時は、顔にまで炎が吹き上げてくる。
負けない! 絶対に歩ききってみせる!
松明が灯す暗い洞窟の中、紋様を炎で描いていく。
それから2時間が経った……
沙有珠は、あと少しで、中央へと辿り着きそうな所まで来ていた。
『ぐぉぉぉぉぉ』
炎は頭の上まで吹き上げ、1歩が遅々として進まない……
壁だ。
見えないけど壁がある。
猛烈な抵抗を感じる。
『くそ! あと少しなのに!』
『ぐぬぬぬぬぬぬ』
全身に力を込め、前へと。
あと1ミリが動かない!
『くそー!』
5分が経ち、10分が過ぎても、届かない……
『この壁を超えなければ、あたしは……
絶対に超える!
超えてみせる!』
ひたすら思い続け、遂にきた!
ぴくりと。
最後の1ミリが動いた!?
唐突に抵抗が無くなったと思ったとたん、白い光に包まれた。
あたしは、紋様の中央に立っていた。
『なに?
どうなったの? 終わり?』
そう思っていたら、松明の炎が全て消え、ほのかに光っていた
紋様も消えて、あたしも、その場から消えてしまったらしい。
らしいというのは、気づいたら違う場所にいたからだ。
あたしは、幽世の門の中の祠の中にいた。
『え? なんで?』
と思ったら、雷様もいた。
「転写は終わった。
へそを取るがいい。」
眉間にスパークが走った!
「鬼!?」
はっとして、気配のする方へと目を向けると、しめ縄で幾重にも拘束されている
巨大な腕だ!
上から下から、しめ縄でがんじがらめになってて、拳だけであたしより大きい、
肘までの腕。
あの腕の拳の上に、あたしのおへそが!?
「なんで!?」
今にもあの拳は、あたしのおへそを握り潰そうとしている!
『やばいやばい! 早く取らないと潰されちゃう!
でも、怖い!』
「雷様! おへそが大変です!
取ってください!」
「何を言っておる。
自分のへそじゃろう? 自分で取りなさい。」
「えーーー!」
「自分で取らんと、転写も消されてしまうぞい。」
『まじか……』
『怖過ぎる!
あの手、動いてるんだよ……
しめ縄で拘束されてるのに……』
「あたし、掴まったりしないよね?」
「大丈夫じゃろ。」
「雷様の大丈夫は大丈夫じゃない!」
「そうかの?」
とか、すっとぼけてる。
うーーーと唸っていたけど、転写が消されてしまうのは困る。
せっかく歩ききったのに。
『やるしかない……』
あたしは、意を決して、そろりそろりと、巨大な腕に近づいた。
『怖い……
拳だけであたしの身体くらいある。
それが、あたしのおへそを握り潰そうとして、力が入ってる。
早く助けないと!』
とは思うんだけど、近づくだけで、心が折れる……
さっきまでの見えない壁とはまた違う壁が、そこにあった。
『うぅ……』
怖ろしい存在に近づくという行為自体ダメだよなぁ……
なんて思ってしまう。
でも、やっぱりやるしかない。
やるしかないんだ。
近づけば近づく程、怖ろしさが増していく巨大な腕。
砕け散りそうな勇気を振り絞って、あたしは、1歩1歩と
巨大な腕に近づいた。
そして、おへそに向かって手を伸ばした時、
ガタガタっと、腕が暴れ出した!?
慌てて手を引っ込め、後ろへと下がる。
しめ縄で拘束されているから、大丈夫だとは思うんだけど、
びっくりした。
「大丈夫ですよね?」
あたしは、雷様に聞いていた。
「平気じゃろ。
それより、早くせんと、潰されてしまうぞい。」
うぅ、そうだった。
怖いけど、やらないと。
「ほれ、見てみい。」
巨大な腕の拳を見ると、あとちょっとで握り潰されてしまいそうな
おへそが見えた。
あたしは、全身に力を込め、3歩の間合いを1歩で詰め、拳の中にあるおへそを
掴み取った!
その瞬間、巨大な腕の拳は握りしめられていた!
間一髪! 間に合った。
あたしは、後ろへと飛ぶ様に足を蹴り、5歩程後ろへと下がったのだった。
「ふむ。
出来たようじゃな。」
雷様は、あたしの手の中からおへそを掴み取ると、懐へと入れてしまった。
「ふぅ。」
あたしは、膝から崩れ落ちた。
「さて、転写も出来た事じゃし、帰るとしよう。」
帰りの事はあまり覚えていない。
気づいたら、雷様の袖を持って、洞窟の入口にいた。
またやってしまったらしい。
洞窟の祠からの帰りは、どうやって帰ってきたのか? 覚えてない。
あたしがぼーっとしてたからか、山小屋までの帰り道は、迂回ルートを
通って帰った。
夜ご飯は、親子丼にした。
今回も、雷様がお風呂を沸かしてくれたので
さっと入った。
入ってる時から、眠くてしかたなかったけど、なんとか着替える所までは
起きていた。
と思う。
気づいたら朝だったよ。
ここに来て4日目の朝。
まだ、スイッチは入った気がしない。
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