1億ボルトの乾電池
「ふむ。
9才の女の子に、走ってる車をぶん殴ってこいっていうのも、無理があるか。
0.5秒以内に車の向きを変えないといかんのじゃが、動けないとなると
どうするか……」
雷様は、次の対策を考えているっぽい。
4・身体を動かさずに、車の向きを変える方法。
「そんな事出来るの?」
「スイッチを入れられる前提での話しとなるがな。」
『スイッチか……』
「雷神養成ギブスを付けている沙有珠は、
言ってみれば、1億ボルトの乾電池みたいなものなんじゃよ。」
「は?」
目が点になった。
「1億ボルトの乾電池? あたしが?」
雷様と話していると、オウム返ししちゃう事が多い。
またやってしまった。
「うむ。
車のフレームは鉄を使ってるみたいじゃから、磁力に反応する。
沙有珠のバッテリーを使って、電磁石を作り、車の向きを
変えてしまおうって作戦じゃ。」
「は? 電磁石?」
あーまたやっちゃったよ。
「ちょっと待って! 雷様!
乾電池のとこから、教えて!」
「ふむ。
雷神養成ギブスの機能の一つという事じゃな。
今は回路がないから、何もできんが、回路を刻めば出来る事がある。」
「あー全然わかんないよ!
それに、体内に高電圧とか……危なくないの?
あたしに触ると感電しちゃうとか?」
「うむ、そこら辺は大丈夫じゃ。シールドされておるし、外部への影響はない。
それに、高電圧といっても、電流が流れなければ、感電しないからの。」
「そうなの?」
「うむ。今までも、友達と手を繋いだりしたじゃろ?」
そうだけど、あたしには、いまいちわからない。
あたしが、わかってない顔をしてたら、例え話をしてくれた。
「そうじゃな、冬に鍵とかに触るとパチっときたりするじゃろ?」
「うん。」
「静電気じゃな。あれも9000∨(ボルト)くらいあるんじゃが、パチっとするくらいじゃ。
電圧は高くても電流はたいして流れんからの。
感電で怖いのは、電流が流れる事じゃ。
人ならば、50mAも流れれば、死の危険がある。」
「ふーん。」
「乾電池が、1.5∨(ボルト) で、静電気が9000∨(ボルト)か……
ふむふむ。
で、あたしが、1億∨(ボルト)。
桁が違うんですけど!
大丈夫なの? ほんとに?」
「大丈夫じゃよ。
雷神養成ギブスに使われている素材は、沙有珠のいる
時間では、発見されていないものじゃ。
位階が違うとでもいえばいいのかのぉ。
世界への認識力の差じゃから仕方なかろう。」
うーん……
雷様の言う事だし、雷神養成ギブスって、
”神” って言葉が入ってるからね。
雷神っていうくらいだから、不思議パワーがあっても、おかしくないか……
それに、高電圧持ってるって言われても、あたし自身、全然わかんないし。
電池については、もういいか……
『次なんだっけ? 電磁石?
理科でやった様な……』
「コイルに電流を流すと磁石になるんじゃよ。」
「そうそう、そんなのやった!
で、どうするわけ?」
「じゃから、沙有珠のバッテリーを使って電磁石を作るんじゃ。
1億∨(ボルト)の電磁石とかロマンじゃろ?
といっても、変圧するんじゃがの。
はっはっはっ」
「ロマン?」
なにが面白いのか? まるで分からないけど、雷様は
笑っている。
「そっちの時間では、超伝導電磁石とかそんな呼び方をしているかもしれんが
冷却の必要がない常温での電気抵抗ゼロを実現している素材がある。
それをコイルにするわけじゃ。」
「雷神養成ギブスは、何回にもわたって電着塗装をするんじゃが、
層ごとに部位塗装の素材が違うんじゃ。
剥がれる事も想定しておるからの。
で、一番上の層で、さっきの素材が使われておる部位は、両腕じゃな。」
「両腕の塗装を紐状に伸ばし、コイルに巻いて、電気を流せばいい。」
「は?
両腕の塗装? 紐状に伸ばす?」
まただ、またやっちゃったよ。でもしょうがないよね。
「今はまだ無理じゃが、回路を刻めば出来る様になる。」
「回路を刻む? なにそれ、ひとつもわかんないよ。」
あたしは頭をかかえた。
頭を抱えているあたしに、雷様は、スケッチブックに図を描きながら
説明してくれた。
4コマ漫画みたい。
ふむふむ。
1コマ目。あたしの手から紐? が出てきたぞ。
2コマ目。車の横に先端がコイルになってる紐が伸びてきた!
3コマ目。車がコイルに引き寄せられてる!
4コマ目。車がガードレールに激突した!
なるほど。めっちゃわかりやすい。
雷様は、画力があるなぁなんて思った。
うん。理屈はあきらめよう。
雷様が出来るっていうんだから、しくみはわかんなくてもいいかな。
使い方がわかれば。
『カイロって言ったら、揉むと暖かくなる使い捨てカイロの事だよね?
刻むって、包丁で千切りとかにすんのかな?
包丁あんまり使わせてもらってないんだよなぁ。
しっかし、使い捨てカイロを刻むと電磁石が出来るなんて知らなかったよ。』
なんて、考えていたら、雷様が笑い出した。
「くっくっくっ
沙有珠は面白いのぉ。」
「え? 何か面白い事あった?」
「いや、なんでもない。
じゃが、使い捨てカイロは使わんぞい。」
「そ、そうなんだ。」
『使い捨てカイロじゃないカイロってなんだろう?』
なんて思ってたら、スケッチブックに図を書いてくれた。
電池が1個と、スイッチと、豆電球が1個の図だった。
「わしが言っていたのは、電気回路の事じゃ。
温めるカイロの方じゃないんじゃ。」
図を見たとたん、恥ずかしくなった。
『これかー
もう!
恥ずかしくてやつ当たりしたくなったけど、我慢。我慢。
何事もなかったかの様に話しを続けないと!』
「それで、この回路をどうやって、刻むの?」
「この場合の刻むは、回路パターンを転写するって意味なんじゃ。」
「転写?」
「一言で言ってしまえば、写真を撮るみたいな感じじゃな。」
「写真を撮ったら、電磁石が出来るって事?
わけがわからないわ……」
「まぁ、工程はだいぶ端折ったが、そんなところじゃ。」
「え!? そうなんだ……」
適当に言ったら当たってた。
もう、あたしの想像を超えてて、理解出来そうにない。
あたまを抱えてしまった。
そんなあたしを見て、雷様が言った。
「聞かれるままに答えてきたが、沙有珠が気にしてる事は
何をすればいいか? じゃろ?」
「うん。」
「簡単に言うと、パターンの上を歩くんじゃ。」
「え? それだけ?」
「うむ。
沙有珠が歩いた所が、沙有珠のへそへと転写される。」
「あたしのおへそ!?」
「うむ。」
『まじか……
あたしのおへそがこんな事に使われるなんて……』
「沙有珠のへそは、やがて雷神核になるものじゃ。
このくらい普通じゃぞ。」
「そうなの?」
雷様のいう ”普通” が分からない……
「スイッチが入ったら、車を殴りに行きたくなるかもしれんが、やれる手数は増やしておかねばな。」
では、行くとしようかの。
雷様とあたしは、一の祠へと向かったのだった。
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