洞窟行
「ここから先は1人で行ってはならんぞ。」
雷様が扉のかんぬきを開けながら言った。
こくりと頷きつつ、開いていく扉の奥を見つめた。
真っ暗だ。雷様の松明の明かりがゆらゆらと揺れながら
少しだけ先を照らしていたが、奥へと続く道がどこまで続いているのか? 分からなかった。
あたしは、扉をくぐり、ネックレス型LEDライトの向きを色々と変えながら、
洞窟の中を照らした。
天井の高さは3メートルくらいありそうだ。
ごつごつとした岩に鍾乳洞で見られるつららみたいなのが
天井から下がっていた。
ひんやりとして涼しい洞窟を、あたしは、後ろをついて歩きながら、
雷様に話しかけた。
「道みたいに見えるけど、誰かが掘ったの?」
「そうじゃろうな。
昔からこうじゃし、祠までは道がある。」
そうなんだ。意外と歩きやすい道で助かるな。
山歩きみたいな命がけの道を行くんじゃなくてよかった。
道は下へ下へと続く下り道だった。
ギザギザとした岩の裂け目を身体を横にして歩いたり、雷様は
しゃがまないと通れない場所があったりしたけど、普通に歩けた。
ただ、修行とかじゃなきゃ絶対に行かないと思う。
だって、真っ暗なんだもん。
明かりが無かったら、本当に真っ暗だ。
あたしのLEDライトは明るいけど、周りまでは明るくならない。
なんていうか広がらない感じ。進行方向は明るいけど、ちょっとずれると
暗いから、すぐそばに何かいても気づけそうになくて怖い。
それに対して、雷様の持つ松明は、
周りも明るくなるけど、届く範囲が狭いし、ゆらゆら揺れるから、
何か生き物でも出てきそうな感じで怖い。
それにね、音がしないのも怖いんだよ。
あたし達がしゃべらないと、歩く音しかしない。
立ち止まったりすれば、しーんって、音が聞こえる気がするくらい
音がしない。
何かが息を潜めているんじゃないか? って思ったりして怖いんだ。
そんな事を考えてる時に限って、上から水滴が落ちてきたりするんだ。
びくってなるよ。
洞窟に入ってからどのくらい経ったのだろう?
まだ10分位かもしれないし、1時間位経ってる気もする。
狭い道を下りに下って、目の前にいる雷様がしゃがんで進んだ道を
あたしも通り抜けた。
すると、かなり開けた空間に出た。
天井が30メートル位あるし、横にも縦にも広い。
体育館くらいかな?
ごつごつした岩肌に、水が流れていた。
湧き水が染み出しているのかもしれない。
あたしのLEDライトが前方を照らすと、大きな岩が3つ。
柱の様に立つ2つの岩の上に、大きな岩が横に置いてある?
なんだろう? と思っていると、雷様が答えてくれた。
「幽世の門じゃな。あの中に祠がある。」
「あの中? あの石の門の中に入るの?」
「そうじゃ。」
うわぁ、なんていうか嫌だな。
さっきから、LEDライトで門の中を照らしてるんだけど、
なんにも見えない。
真っ暗のままだ。
そんな所へ入るのか……怖いな……
そんな事を思っていると、雷様が話しかけてきた。
「では、沙有珠は外を祓ってくれ。
わしは中を祓ってくるでな。
道具はこれじゃ。」
そういって、雷様は、背負っているリュックの中から
紙がわさわさ付いてる棒を渡してきた。
あーこれ見た事あるかも。
神社で神主さんが、ばっさばっさってやる奴だ。
ちょっとやってみたかったけど、なんでこれ?
掃除をするんじゃなかったの?
「うむ。それで、穢れを落とすんじゃ。
邪鬼が寄ってくるでな。」
じゃき? クワガタ虫でも飛んでくるのかな?
なんて思ってた。
あたしのまわりでは、クワガタ虫の事をじゃきって言うんだ。
「では、頑張ってな。わしは中に入る。」
そう言って、雷様は中に入ってしまった。
あたしは、神主さんがやる様に、棒を振って遊んでた。
これで、掃除っていってもなー
どうすればいいんだろ?
この時までは、そう思ってた。
がたっ
ん? なんの音?
あたしは後ろを振り向いて、LEDライトを色んな方向へ向ける。
何もいない。
おかしいな。なんか音がしたんだけど……
もう一度振り返った時、それはいた!?
真っ暗闇の中、LEDライトに映し出されたのは、鬼? だった!
鬼としか言いようがない。角が生えてるし、凄い怖い顔をしてる。
背はあたしと同じくらいか、ちょっと大きいくらい。
上半身ハダカで、腰巻き? っていうのかな、腰に布を巻いただけ。
肌の色もなんだか、緑っぽい。
真っ暗闇の中で出くわすには心臓に悪い。
どっきーん!
本当にびっくりした時って、声が出ないんだって、その時思った。
心臓が止まるかと思ったよ!
あたしは、無我夢中で、持ってたわさわさを振り回していた。
ぶわっさ、ぶわっさって、紙が音を立ててるけど、当たった感じがしなかった。
LEDライトは前方しか明るくしないし、範囲が狭い。
あたしが見た鬼みたいなのは、視界からいなくなっていた。
まじか!
「雷様ーー! なんか変なのがいるー!
鬼みたいなのー!」
あたしは、叫んでいた。
『おぅそうか、出おったか。』
『なにをのんきな! 出おったかじゃないよー
鬼だよ! 鬼! 超怖いんだけど!』
『うんうん。外の掃除は任せたからの。』
『は? 何言ってんの?
掃除?』
そこまで言った時、LEDライトの視界に、またあの鬼が横切った!?
『ぎゃー! また出たよ!
雷様! 助けてー!』
『わしも、今は手が離せんのじゃ。祓うまでは外に出られんし。
外からも、中には入れんのじゃよ。』
『なんでー!』
やばいやばいやばい! めっちゃ怖い!
雷様の所にも行けず、雷様も来てくれない!
逃げるしか! って思った所に、正面から鬼が現れた!
あたしは、やたらめったらわさわさを振り回し、後ずさりながら、来るなーと叫んだ!
すると、LEDライトの視界から、鬼がふっと消えた。
『どこ行った?』
右へ左へ身体を動かし、LEDライトの光を向ける。
『見失った!?』
わさわさを前に突き出して、その場でぐるっと回り、鬼を探した。
『ダメだいない……』
LEDライトの光が広がらないから、光を避けるだけで隠れられるんだ……
『くっそー』
『雷様!』
って叫んだ時、後ろから近づく気配があった!
ばっと、振り返ると、鬼が掴みかかろうとしている所だった!
「きゃあーーーー!」
と、叫びながら、わさわさを振り回すと、ぶわさっと、
紙の部分が、鬼の顔に当たった!
その瞬間、鬼が黒い煤の様なものに変わっていった。
『え!?』
1秒とかからず、鬼は黒い煤を残して消えてしまった。
『なにこれ? 消えちゃった……』
『雷様ーー! 鬼が消えちゃったー
黒い煤になっちゃったよ。』
『うむ。それでいいぞい。
どんどん、祓ってくれ。』
『え? どんどん?
まだいるって事!?』
『うむ。100匹じゃったかな? それくらいじゃ。』
『なんだって!?
そんなにいるの!』
『うむ。ちなみに、鬼に触られると、生気を吸い取られるから注意してな。』
はっと気づくと、あたしの足が何かに掴まれた!?
「ぎゃあああああああ!」
LEDライトの光を下に向けると、鬼の手があたしの足を掴んでいた。
あたしは、わさわさをぶわさっと振って、鬼の手にぶち当てた!
黒い煤へと変わっていく鬼を見ながら、あたしは膝をついてしまった。
『なんだこれ……
なんだか凄く疲れた気がする……』
『沙有珠よ、鬼に触られたか。生気を吸われたな。
しばしの辛抱じゃ。少しすれば元に戻る。』
『うぇー
なんか、かったるいよー』
『連続で吸われると動けん様になるから気をつけるんじゃぞ。』
『うぃー。』
今やられたら、まずいかも。
あたしは、なんとか立ち上がると、わさわさを振るった。
牽制とかしないとね。
まだ2匹しか倒してない。あと98匹……
気が遠くなりそうだった。
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