滝行3
山の天気は変わりやすいって言うけど、あたしには良く分からなかった。
というのも、いつも天気が良かったから。
雨が降った事なんか一度もない。
なのに、今日は、滝に着いた途端、雲が出始めた。
「ふむ。今日はいつものルートは使えんな。
帰りは別ルートで帰るぞ。」
「はい……」
なんでかな? と思っていたら返事が来た。
「雨に濡れると滑るからの。天狗岩は、渡らないで行く。」
なるほど。
確かに滑って落ちたら大変だ。
こんな事を考えている間にも、雲は広がっていき、雷が鳴り始めた。
うわぁ、山の中で雷の音は結構凄いんだ……
なんていうんだろ……お腹に響くっていうか……超うるせーって感じ。
これから滝行やるっていうのにって思ったけど、滝の音もうるさいから
気にならないか……と思い直し、あたしは滝の裏の洞窟で、靴を脱ぎ始めた。
レギンスも脱いじゃう。濡れると脱ぎにくいし。
最初から、長袖Tシャツとパンツだけ履いてる状態になった。
うぉっす! 今日こそ、スイッチ入れちゃうぞ!
あたしは気合を入れて、滝の前に立った。
「雷様、いけます。」
「うむ。では、1本目いくかの。」
「はい!」
あたしは滝に入ると、チョキを閉じて前に突き出すと、えい! と一声。
眉間の間に指を戻すと、そのまま固まった。
ドドドドドドドド!
今日も滝の圧が凄い。
身体に力をいれ、その場に留まっていられる様にひたすら耐える。
しばらくすると、昨日も感じた変な感覚がきた……
目を瞑っているのに、水の中から空を見上げている様な……
足を踏ん張って耐えているのに、なぜか、上に昇っていく様な、変な感じが……
冷た過ぎたからか、手足の感覚は無くなっている。
水の中から出て、ソラへと行かなきゃっていう思いがしてきて
それがだんだんと強くなっていく……
ふらっと身体が揺れた様な気がした。
そんな時、滝の音が全てをかき消した。
ドドドドドドドド!
雷様の手があたしの身体を掴んで引き寄せたらしい。
「そこまでじゃ。」
いつもの事だけど、わたしは呆けた顔をしてたと思う。
だんだんと現実に戻ってくる。
雷様が大きなタオルを出してくれて、頭から被せてくれる。
あたしは、滝の裏の洞窟で焚いている焚き火にあたり、身体を暖めながら
濡れている服を脱ぎ、タオルにくるまった。
そして、それは昼ご飯前の最後の1本で起こった。
この山の名前は雷山というらしい。
本当は、神成り山というのだが、呼び方が同じなので
あたしは勘違いしていた。
朝からゴロゴロとうるさかった雷が、豪雨と共に本格的に鳴り出した。
昼間だというのに薄暗く、風も強く吹いている。
「雷山だけに、雷も凄いね。」
あたしは、雷様に話しかける様に呟いた。
「神成りには、雷が憑き物なんじゃよ。」
「ん?」
どういう事かよく分からなかったが、雷様がしゃれでも言ったのかな?
と思い、気にしなかった。
「雨が降ってても、滝に打たれて濡れちゃうから関係ないよね。」
沙有珠的には、プールで泳いでる時に、雨が降ってきた感じくらいに思ってる
のだが、雷様的には少し違ったらしい。
「いや、雨が降ると水流の勢いが増すからのぉ……
ちょい厳しいかもしれん。」
「あー、そっか。濡れるのだけ気にしてたわ。
でも、まだ平気でしょ?」
「うむ。今今すぐなら、変わらんじゃろ。
1本いっとくか?」
「はい!」
あたしは滝に入ると、チョキを閉じて前に突き出すと、えい! と一声。
眉間の間に指を戻すと、そのまま固まった。
ドドドドドドドド!
大雨で滝の勢いも少し増しているのかもしれないけど、元々凄かったので
それほど違いは感じなかった。
圧が物凄い。
全てを押し流そうとする水。
あたしはそれに抗う。その場に留まろうと必死で堪える。
まず、手の感覚、足の感覚が徐々に無くなっていった。
それから水の中から空を見上げて、上へと昇っていく様な感覚が始まる。
そして、今回は何かが違った。
水の勢いが強かったのか? 回数によるものなのか? 分からないが
自分の中の何かが剥がれた気がした。
あー、雷人養成ギブス塗り直さないとだめかな?
なんて思った時の事だった。
ピカッ!?
辺り一面が白一色に染まった。
!?
目を瞑っていたのに、眩しい……
それに、音が……なくなった?
さっきまでしていた滝の轟音が……聞こえない?
あれほど、あたしを押し流そうとしていた水の圧さえも、感じなくなってしまった……
そう思った所で、あたしの意識も飛んだ……
遅れて物凄い音が鳴り響いた!
雷が落ちたのだ。
気づいたら、洞窟の中にいた。
あたしは、雷様に抱きかかえられていて
ほっぺたをぺちぺちと叩かれていた。
雷様は、沙有珠、沙有珠と名前を連呼している。
「おぉ、気づいたか? 大丈夫か?」
心配そうな顔で、あたしの顔を覗き込んでくるので、あたしは、うん。とだけ答えた。
「そうか! 良かった!」
あたしを抱きかかえて喜んでくれている。
だけど、寒い……
濡れたままの服を着ているのもあって、身体が冷えてしまっている。
「おっと、いかんいかん、身体を暖めないとな。」
雷様は、あたしをそっと離すと、リュックの中から大きなタオルを
取り出して、あたしに渡すと、わしは外にいるでな、服を脱いで暖まりなさい。
と言って、外へ出てしまった。
長袖Tシャツを脱いでタオルにくるまり、焚き火のそばにしゃがむ。
冷えた身体に、焚き火の熱がじんわりと伝わってきて気持ちいい。
『気絶しちゃったんだ……』
焚き火を見ながら、声にならない声で呟いた。
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