滝行
「滝での修行を行う前に、少しだけ座学じゃ。」
あたしは、雷様の前に正座で座らされていた。
「人間の身体には開閉器……わかりやすく言うと、スイッチがある。
どんなスイッチがあるか……」
「そうじゃな、走馬灯というのを知っておるか?
人が死ぬ直前に生前の記憶が、映像を見る様に次々と蘇ってくるというものじゃ。
これは、身体が死を認識した時に入るスイッチなんじゃ。
自分の意志で押せるものではない。
身体が死を認識する事によって、押されるスイッチじゃ。」
あー聞いた事あるかも。怖い話しだった気がする。
そんな事を思っていたが、雷様の話しは続いている。
「滝行にはまだ早いんじゃが、そうも言っておれん状況じゃしな。
沙有珠の身体にあるスイッチの一つ。
これを押すのに、滝行が必要なんじゃ。」
なるほど。あたしにスイッチがあったんだ。
どうやって押すのかな?
雷様には、あたしの考えはお見通しだ。
だから、口に出さなくてもすぐに答えが返ってきた。
「身体が押すんじゃよ。
ある状況に身体がおかれた時、スイッチは押される。
まぁ、人によってその状況は変わるんじゃがな。」
「押せなかったりするの?」
あたしは、声に出して聞いていた。
雷様はこくりと頷いた。
「えー! 押されなかったら、元の時間に戻った時、あたし死んじゃう?」
「他のスイッチが押されるかもしれんし、なんとかなるじゃろう。」
「他のスイッチ?」
「山歩きしとるじゃろ?
あれもスイッチを押す為の修行じゃぞ。」
「え? そうなの?」
「うむ。重力に抗えぬ身体は、高所に根源的な恐怖を抱く。
高所にあって、安全に着地する術を持たぬ状況というのは、
身体にあるスイッチを押す手段の一つなのじゃ。」
!?
そっか……だから命綱無しで山歩きしてたんだ。
「これも、身体が勝手に押すの?」
「うむ。」
雷様は、厳しい顔で頷いた。
「7日でどこまで出来るか? わからんが、やれるだけやろう。
よいな!」
「はい!」
「では、準備するか。
上着を脱いで。靴と靴下もじゃ。」
「はい。」
と答えたけど……
長袖のシャツと、レギンスに半ズボン。この格好のまま滝に打たれるのかな?
じっと雷様を見た。
「今回は、急ぎだったからな。着替えを用意出来んかったんじゃ。
リュックには、今着ているものと同じものが入っとるから、帰りはそれに着替えるといい。
わしは、火を焚く用意をしておく。」
そう言って、雷様は、行ってしまった。
着替えか……
雷様が用意する滝行の着替え……
ちょっとだけ不安だな。
あたしは、エッチなスケッチブックを思い出していたが、
小学生に変な格好はさせないよなと思い、今のこの格好も雷様が
用意してくれたものだし、一応、大丈夫と思う事にした。
リュックの中の着替えを確認し、準備は出来た。
脱いだだけだしね。
その場で屈伸したりして待っていると、雷様が戻ってきた。
「では、行くか。」
「はい。」
あたしは、雷様の後をついて歩き、滝が落ちている岩の前へと来た。
轟音が凄い。まだ滝に打たれてないのに水しぶきで、びしょ濡れになりそう。
こんなに音がうるさいと、会話もままならないなと思っていると、
”大丈夫じゃ” と聞こえてきた。
あれ? 雷様は、声に出してないと思うのに、声が聞こえてきた。
『沙有珠となら、声に出さずに話す事が出来るんじゃ。
知っていると思うたがな。』
あーそうか。雷様は、お見通しなんだった。
『滝に入る前に、軽く印を結んでおくか。
沙有珠よ、じゃんけんのチョキを出してみるのじゃ。』
『え? チョキ?』
こうかな? と雷様に向かってチョキを出した。
『うむ。では、開いている人差し指と中指を閉じるんじゃ。』
あたしは、言われた通りにした。
『そう、それでよい。
滝に入ったら、その指の形で前に突き出して、えい! と一声かけ
目と目の間、眉毛の間かの、そこに突き出した指を持ってくる。』
あたしは、雷様の言う通りにする。
なんだか、敬礼みたい。
『うむ、よいぞ。そのままの姿勢で打たれるがよい。』
『はい。』
『目はつぶっていてもいいぞ。開けてはいられんじゃろうからな。
息も鼻でする様にな。
わしがいいと言うまで、そのままでいる様にな。』
『はい。』
『あれ? 雷様は、打たれないのかな?』
と思ってしまったら、返事がきた。
『わしは滝行はせんぞ。他にやる事があるからの。』
『えー! 一緒にやってくれるんだとばかり思ってたのに!』
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