天狗岩
麓の小屋から、中腹の山小屋までの道より、一の祠までの
道の方がきつい。
それなのに、今日は急ぐからと、別ルートで行くと言われた。
ただでさえ難所っていうのかな、普通に歩ける所が少ないのに、
今日は、大きな木に登り始めたんだ。
そして、飛んだ!
枝から枝へ。雷様は、飛びました。
はっ!? って思った。
なんで飛ぶ? 下を歩いたら行けるんじゃないの? って思ったけど、
着地した枝で、あたしを待ってる雷様がにっこり笑顔だよ!
ドヤ顔とも違う、早く来い的な!
マジか……
まずね、木を登るのはいい。でもね、飛び移るってのがね。おかしいんだ……
猿じゃないんだから。木の高さはたぶん50メートルくらいはあると思う。
崖を挟んでるから、落ちたら死んじゃうよ!
飛ぶ枝と飛び移る枝の間は、最初は1メートルくらいの距離だったんだけど、
だんだんと遠くなっていって、最後の方は、3メートルくらい離れてたよ!
あたしの身体軽くて、ジャンプ力もあるから、飛べない事はないけど、
高所から飛ぶってのがね……
めっちゃ恐い! 震えるよ。
自殺するって、こんな覚悟がいるんだなって思った。
雷様が待っててくれて、励ましてくれたから、飛べたけど、
ほんというと帰りたかった。
泣きながら飛んだよ!
木を降りると、岩場が待っていた。
雷様が天狗岩って言ってた。
天狗の鼻の様な岩が、崖に突き出ている。
オーバーハングしている岩を登らないといけない。
ここは鎖がない。その代わりに、岩に窪みが掘ってあるけど、
下は崖だ。落ちたら真っ逆さまだ。
命綱もなしにどうやって進むんだろう?
って思っていたら、雷様が、岩の窪みに手をかけて
オーバーハングしている岩にぶらさがりだした。
うそぉ!?
下は崖だよ! そこを懸垂で、渡ってくの!?
雷様は、すいすいと、岩に掘ってある窪みに手をかけて
渡っていく。
まるで、小学校の校庭にある雲梯で、遊んでいるかのようだ。
こ、これ、あたしもやるの?
雷様は、8メートル程の距離を渡りきると、声をかけてきた。
「沙有珠、渡っていいぞー」
えぇぇぇぇ
あたし、たぶん凄い顔してたんだと思う。
顔を横にぶんぶん振ってた。
「大丈夫じゃー、ここまで来れたんじゃ! 身体能力は十分あるぞー
後は、勇気だけじゃー」
そうは言われても、恐いものは恐い……
あたしは、岩の窪みに手をかけられなかった。
しばらくその場から動けずにいると、雷様が戻ってきた。
この雲梯を往復させちゃった。
すまない気持ちで雷様を見ていたら、声をかけてくれた。
「枝から枝へと飛べるんじゃから、大丈夫じゃよ。
校庭にある遊具と同じじゃ。」
にっこり笑いながら話しかけてくれた。
「違うよ! 下は崖だから! 落ちたら死んじゃうよ!」
「ふむ。
落ちたら死ぬかもしれんが、落ちなければいいんじゃ。
大丈夫、沙有珠なら出来る!」
そんな事言っても、あたしは恐いんだよ……
「まぁ、普通に考えたら、死にそうな事をやらなくていいなら、
やらないってなるじゃろうな。
だがな、ここでやらないっていう選択をすると、車に轢かれて死ぬだけじゃぞ。」
そ、そうだった!
あたしは、死なない為に修行してたんだ。
何もやらずにいたら、あっちの時間に戻った時、数秒後には車に轢かれてるんだ。
崖から落ちて死んでも、車に轢かれて死んでも、死ぬは死ぬんだ。
死ぬ気になって、雲梯を渡れば、渡れるかもしれない!
学校の雲梯で遊ぶ時だって、落ちたら死ぬとか言って遊んでたんだし、
本当に死んじゃうってだけだ。
どうせ死ぬなら、やってから死なないとだね。
「わかったよ、雷様。
あたし、やってみる!」
「そうか! 大丈夫じゃ、沙有珠なら渡れるわい!」
「うん!」
あたしは覚悟を決めて、岩の窪みに手をかけた。
80キロの握力と、垂直跳び2メートルオーバーの身体能力。
身体は小さくて体重も軽い。
自分の身体が羽の様に軽く感じた。
すっすっと懸垂で渡っていく。
気がついたら、渡りきっていた。
本当にあとは勇気だけだったんだ!
あたしは、嬉しくて涙が出た。
恐くても出るし、涙って不思議だ。
雷様に手をふると、にっこり笑ってくれた。
天狗岩の雲梯を渡りきった雷様と
合流し、鼻の上へと登った。
ここからはあと少しじゃ。
滝の水を汲んでから、祠へ行くぞ。
はい!
お読み頂き有難うございます!
よろしければ、ブックマークと評価の方も宜しくお願いいたします。




