南沢夜夢(みなみさわ やむ) 2
女の子が元気に返事をしたその裏で、あたしと雷様は、
女の子には聞こえない言葉で話しをしていた。
『沙有珠よ。ちといいか? お前にだけ話しかけておる。』
え? って思ったけど、女の子には聞こえていないみたいだ。
『はい、なんですか?』
声に出さずに返事をした。
『この娘、蟲に憑かれてたんじゃないかと思う。』
『蟲ってあの蟲?』
『そうじゃ、沙有珠が倒したあの蟲じゃ。』
あたしは、びっくりして、目をまんまるにしたまま雷様を見てた。
『思考誘導だけでは、ぴくりとも動かないとはならんじゃろうからな。
寄生して行動を操り、足を動かさなかったんじゃないかと思う。』
『なるほど……
今、足が動かせてるのは?』
『たぶんじゃが、沙有珠と一緒に雷を浴びたじゃろ。
その時に、蟲は焼かれたんではないかと思う。』
『ふむふむ。
呪いの正体が蟲なら、納得かも。
でも、あの雷を浴びて生きているこの子は……
もしかして……』
『あーたぶん違うじゃろ。
1000年ぶりの適格者が沙有珠、お前じゃ。
さすがに、2人目が選ばれるとは思えんからな。』
『沙有珠と一緒にいたから助かったし、ここにも来れたのじゃろう。
1人で雷に打たれたら、即死じゃな。』
『そっか……』
ちょっと残念だけど、雷様が言った言葉に
少しだけ期待した。
次も一緒にいたら、この子もここに来れるかもしれない! なんて。
だけど、戻ったら忘れちゃうんだよなぁ……
15日後に手を繋いでいればいいのかな?
あたしがこんな妄想を考えてるなんて事は、雷様には
ばればれだったみたいだけど、スルーしてくれた。
『とりあえず、蟲の事は、この娘には秘密にしておこう。
話す時がくれば話すという事で。』
『はい。』
まぁ、寄生蟲に操られていたとか、ショックだしなぁ。
言わない方がいいよね。
秘密の会話もこれで終わりらしい。
雷様が女の子に話しかけた。
「わしは外で待っておるから、着替えるといい。
沙有珠、任せたぞ。」
あたしは、こくりと頷いた。
「さ、着替えよ。」
「うん……」
「パンツまで替えるの?」
「そうだよ。ここ、今着てるのだと、山に入れないんだって。」
「ほんと?」
「うーん、この服のまま入った事ないからなんともだけど。
やってみようとか思った事ないな。」
「そうなんだ。」
「あっでも、その服で山登りはキツイかもしんない。」
女の子は、ひらひらしたスカートを穿いていた。
「だよね。わかった、着替える。」
いつもの事なのか、女の子は、座ったまま着替えていた。
サイズは大体同じ様な体格なので、特に困らなかったみたいだ。
着替えてる間の会話で、あたし達は、名前で呼び合う事になった。
で、気付いた。
真名のままだ。
雷様に決めてもらわなきゃ。
そんな事を思いつつ、夜夢ちゃんを支えながら歩き、
麓の小屋の外へと出た。
「サイズもいいようじゃな。」
「はい。」
「では、行く前に……」 と言った所で、割って入った。
「あの! 雷様、夜夢ちゃんの名前なんですけど
さっきフルネームで聞いちゃって。
確か、ここは、真名を言わない方がいいんですよね?」
「おぅ。そうじゃった。
では、真名を付けるとしよう。」
雷様は、そう言うと、何やらぶつぶつ言い出した。
右手の人差し指と中指を立て、他の指を握りこむと、しゅっしゅっと振り回し、
左手も同じ握りにして、右手で左手の人差し指と中指を握ると、
「唵!」
と掛け声をかけた。
「よし、これでいい。」
雷様は、夜夢ちゃんをじっと視て、
ふむ。とひとこと言った後、
「南沢・一護寺・夜夢
わしがそう名付けた。異論はなしじゃ。」
と言い放った!
夜夢ちゃんは、雷様の圧にびっくりしたみたいで、
何も言えなかったみたいだけど、真名って何?
ってあたしにそっと聞いてきた。
でも、雷様が、何か言いたそうにしてたので、
あとで教えるねと言って、雷様の言葉を待った。
「足の悪かった夜夢に、山歩きをさせるのは、厳しいかもしれんが
あの雷に打たれてこの地に足を踏み入れたって事は
身体能力が上がっているはずじゃ。
半年近く歩いていないのに、歩けたじゃろ?」
「はい!」
そっか、そういう事だったんだ。
あたしは、雷様を見つめながら、
『夜夢ちゃんも同じくらい強くなるの?』 って声に出さずに聞いてみた。
『雷神養成ギブスを付けている沙有珠とは、違うからの、
そこまでは、強化されんな。』
雷様も、声に出さずに答えてくれた。
そうなんだ。
でも、山歩き出来るくらいには強化されてるみたいだから良かった。
「では、行くとしよう。」
あたし達は、雷様の後をついて歩いた。
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絶賛死亡中の小金井沙有珠 視点
そうだった。
ヤムちゃんは、交通事故で、両足を骨折してたんだ。
だんだん、思い出してきたかも。
蟲……
交通事故……
あたしは、ふわふわ浮かんでいる雲の様なものを見つめ、
きらりと光ったものを掴むと、その記憶の中に潜っていった。
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次回より、第3部が始まります。




