挨拶
車の中で監督が言った通りの流れになった。
土曜日だというのに生徒の数が多い。
みんな部活なのかな? なんて思ったよ。
学校の中に入ると、みんなあたし達を見てくる。
違う制服の女の子が、ぞろぞろ歩いてたら目立つよね。
でも、なんていうのかな、自分の学校じゃない学校にいる自分が
面白いというか、非日常を感じて、わくわくしてる自分がいる。
校舎と校舎の間にある中庭みたいな場所に着くと、
野球のユニフォームを着た人達が集まっていた。
どうやら、目的地みたいだ。
「今から、挨拶するからな。
みんな頼むぞ」
みんなは、車の中で言われていた様に、声に出さずにコクリと頷いた。
あたし達は、監督の後ろに整列しみなさんの前に立った。
「都立田無第一高校、硬式女子野球部同好会の顧問をしております、国立です。
本日は、お忙しい中、練習試合を組んで頂きました事、誠に感謝しております」
監督がそこまで言った所で、相手の先生が、話しかけてきた。
たぶん、監督のお父さんと思われ。
「先生、私どもの挨拶はさんざんやりましたので、生徒さんの方をお願い出来ますか?」
「あぁ、そうですね。そうしましょう。
小金井、頼む」
監督がそういうので、あたしは前に出た。
中庭には、結構人が集まっていた。
ユニフォームを着た人や、制服の人、先生と思われる大人の人も。
それに対し、あたし達は、監督を含めても6人。
飲み込まれそうになる気持ちを、おへそ? に力を込め……
そう、あたしは、おへそを意識すると、力が出てくる。
だから、おへそに力を込めた!
パチっ
静電気が走った気がするけど、気の所為だろう。
いつも通りのあたしだ。
あたしは顔を上げ、挨拶を始めた。
「都立田無第一高校、硬式女子野球部同好会1年2組 主将
小金井沙有珠です」
2組か、2組なんだとか聞こえてきたが、気にせず続けた。
本日は、お日柄もよくって言ったら、みんなが笑った。
ここは経験済み! 乗り切る!
「田早稲実業高校へお招き頂き、誠に有難うございます。
部員一同、感謝の気持ちで一杯一杯です」
いっぱいは一回って、小声で聞こえてきた。にしこくさんだ。
「あたし達の野球部、同好会は、見ての通り5人しかいません。
ですので、試合なんて夢のまた夢。
女子野球部のある高校へ練習試合の申し込みをしても、全部断られてしまったそうです。
さすがに、9人いないとダメだったみたいです。
でも、田早稲実業高校 野球部のみなさんは違いました。
5人しかいないなら、4人貸して下さると言ってくれたのです!」
「おーーー!」
中庭に集まっていた人達が叫びだした。
監督か? 監督が言ったのか? とか、みなさん口々に言っていた。
ほんとはカローラ先生がお父さんにお願いしたんだけどね。と思いながら、
あたしはスピーチを続けた。
「あたし達の初めての練習試合が、昨年の甲子園優勝校だなんて、恐れ多いですが
あたし達も優勝目指して頑張ります!」
どっと笑いが起こった。
あれれ?
「みなさんのお力もお借りしますが、あたし達も精一杯頑張りますので、
本日は、よろしくお願いいたします!」
そう言ってあたしが頭を下げた後、みんなが復唱し、全員で頭を下げた。
「よろしくお願いいたします!」
中庭に拍手が巻き起こった。
あたし達が頭を上げると、監督のお父さんらしい人が、監督に話しかけていた。
「素晴らしい挨拶をありがとう。こちらからも返礼をしたいと思います。
分倍河原、都立田無第一高校 硬式女子野球部同好会のみなさんに
挨拶を」
「はい!」
分倍河原と呼ばれたユニフォームを着た男子が、前に出てきた。
「田早稲実業高校 野球部 3年 主将
分倍河原大凪です」
「本日は、お足元の悪い中、お誘い合わせの上お越し頂き、誠に有難うございます」
雨振ってねーし!
雨の日のスーパーじゃねーぞーってツッコミが入ると、どっと笑いが起こった。
「都立田無第一高校 硬式女子野球部同好会のみなさまが来て下さるのを、
部員一同、待ちわびておりました」
「今日の練習試合が、両校にとって、良き学びと成長の機会となればいいなと思います」
「本日は、よろしくお願いいたします!」
分倍河原さんがそう言って頭を下げた後、後ろにいた全員が
頭を下げ、復唱した。
「よろしくお願いいたします!」
こうして、試合前の挨拶は終わったのだった。
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