3.31.93 ぶらり異世界街歩き
ショックのあまりに意味不明なセリフを口走る真一。
判明したドラゴン少女の驚愕の生態に、混乱しきっていた。
そんななか、エピーが突然動き出す。
「ミュイっ!分かった。こうやるんでしょ!」
そう言ったエピーは、勢いよく便器の上にまたがる。
U字の凹んだところに足を通す座り方で、まさに真一が考えていた通りの体勢だ。
トイレの何たるかも知らないのに、お利口エピーは真一の話から便器の使い方を正しく予想したのだ。
すると何かのセンサー機能が仕込まれていたのか、床から生えている便器がウィ〜ンっ!とせり上がってきた。
エピーの身体が軽く持ち上がったところで止まる。
椅子に座ったように体重を預けられるので、これなら楽に用を足すことができそうだ。
「ミュミュミュぃっ。なんかサッパリした気がする!」
「これちょっと気持ちいいニャミュ〜」
しかも中の黒ミストに下腹部が触れたおかげで、自動的にキレイになったようだ。
地球のシャワートイレよりもずっと高性能である。
「だけど尻尾のトコがぶつかるのがダメだね。乗り方が違うのかな?」
「いや、人間には尻尾とかないから」
「ミュイ〜そっかぁ。シン、『といれ』って、お尻をキレイにする場所なんだねっ♪」
「うん、そんな感じ、、、」
そうとしか答えられない真一であった。
ドラ・ウンなエピーたちには、トイレにそれ以上の意味などないのである。
けれども真一は今さらの話ではあるが、もっと別のことが気になり始めていた。
エピーは今までの格好のままで、便器にまたがっている、ということに。
そしてそれで何の不都合もなくトイレを使えているのだっ!
それの何が問題かというと、、、
そういえば今さらだけど、、、
この子、はいてないんだよなぁ、、、
いまエピーたちが身にまとっているのは、ミコミちゃんからもらったミーニャのワンピースだけである。
当然ながらアンダーウェアなどは一切つけていない。
見た目は中高生くらいの美少女が、パンツもはかずに街を練り歩き、飯屋で暴食していたのだ。
しかもこの姿で空を飛んだりもするのである。
これはさすがにマズいだろう。
「エピー、ドリー、まだ明るいし、服を買いに行こっか!」
とりあえず真一はノーパンドラゴン娘にパンツを用意してあげることにした。
宿の外に出ると、かなり日が傾き始めていた。
といってもここは昼間でも空がピンク色の異世界である。
夕暮れの時間になっても空の色はあまり変わらない。
ピンク色がより赤みががったくらいで、そのまま暗くなってくる感じだ。
ただしそれは今までいた森の中でのこと。
バンリャガの街の中は、この時間でもかなり明るかった。
その理由はもちろん街明かりのおかげだ。
といっても街の中には地球にある街灯のようなものはない。
その代わりに、、、
道路が床一面、全て光っていた。
この街の路面は例のツルツルな謎石で出来ている。
その大理石チックな謎石が、ほんのりと輝いているのだ。
今はまだ日の光も残っているのであまり目立たないが、空が暗くなったらかなり明るそうだ。
光っている謎石の地面だが、どうも照明のようなものが埋め込まれているわけではない。
床全面が均一にうっすら薄緑色に光っているのだ。
この感じは地球でも見覚えがある。
夜光塗料とか蓄光テープみたいなアレだ。
これは思わずなるほど!と感心させられる異世界文明であった。
最初は魔法で光らせているのかと思ったが、それだと魔法を使う人の労力が凄まじい。
魔導具にしても、きっと何かの魔力源が必要になる。
毎晩そんなものを用意するのは難しいだろう。
だけど夜光塗料なら昼間に勝手に光を蓄え、暗くなったら数時間は光りっぱなし。
メンテナンスフリーである。
問題になるとすれば夜光塗料の材料だが、この異世界にはそれが豊富にあるのかもしれない。
宿を出た真一たちは、適当に街の中をぶらぶら歩いてみることにした。
服屋がどこにあるかなんて分からないし、ついでに街を散策しながら良さそうな店を探せばいい。
「シン!アレは何なの?」
「アレは食べられるやつニャミュ?」
全てが目新しいのかアレコレ聞いてくるエピーとドリー。
とはいえ真一にも分からないものだらけだ。
夕暮れの街は昼間とはまた印象が違って、とにかく新鮮である。
立ち並ぶ店の店頭に浮かぶ、魔法のサインの明かりがさらに色鮮やかに映る。
中には地面と同じように、壁が夜光塗料で輝いている建物もあるようだ。
2人の恋人たちとそんな異世界の街を見て回るのは、真一にとってもめちゃくちゃ楽しかった。
そんななか真一が気になったのは、魔導具の専門店らしきお店である。
エピーに立ち止まってもらって、店先に並ぶ意味不明な魔導具を観察してみる。
すると奥から店員が出てきて、試しても大丈夫だと勧めてきてくれた。
さっそくエピーに頼んで触ってみるが、これがまた面白い。
ホテルやメシ屋にあった、例のキレイになるクリームミスト製品がバリエーション豊富に並んでいる。
他には日光を遮り、冷風を吹き出す、日傘代わりの帽子型の魔導具。
電動キックボードならぬ、魔動キックボード。
危険なモンスターの接近を警告するアラーム、などなど。
見た目からは予想できないものばかりだ。
店員から使い方を教えてもらったときの、『なるほど〜』となるギャップが異世界の醍醐味であった。
ちなみに魔導具をつまみ食いしようとしたドリーは全力で阻止した。
そんななか真一は、気になるものを見つけた。
「お客さん、また変わったもんに目をつけたなぁ」
真一が興味津々に見ているのは、手のひらサイズの正方形の板状の魔導具だ。
表面はディスプレイっぽくなっており、4✕4で16個の正方形ブロックに分かれている。
それぞれのブロックは、赤、オレンジ、緑といった様々な色に点灯している。
「お兄さん、これってもしかして?」
「あぁ、時間を表示する魔導具だ」
真一が見つけたアイテムは、やはり『時計』のようであった。




