3.30.92 ドラウン
異世界ベッドで気持ちよく横になっていると、真一はふと気づいた。
この感触に覚えがあることに。
この肌触りって、、、
ヒーラーさんの部屋の床と一緒だっ!!!
真一に感じ取れるのは首から上だけだが、それでもヒーラーさんの部屋のフワフワした床面と同じだとはっきりわかる。
つまり真一の右手はヒーラーさんの寝室の、ベッドの上に置かれているということだ。
ずっと美少女(※妄想)のベッドにあったとか、何とも背徳的な感じである。
もっともヒーラーさんとは昨夜あんなエッチなことをしたばかりなので、今さらな話かもしれない。
それはさておき、このまま今日はもう寝るというのも悪くはないのだが、まだまだ日没には早い。
それに夜が16時間もある異世界だ。
今寝たら真夜中に起きることになってしまう。
そんなわけで真一はエピーにお願いして、謎ベッドから出ることにした。
ドリーはもちろん、寝たままである。
相変わらず歩いてても寝られるのはスゴいなと、感心する真一であった。
まずは部屋の中でまだ見ていないバスルームを確認してみる。
壁にあるドアを開けてみると、その先は小綺麗な洗面所のある小部屋だった。
洗面台には流しと鏡があって、地球のものと大きく違わない。
ただし鏡はガラスではなく、良く分からない石か金属みたいなもので出来ている。
流しには壁から蛇口が突き出していて、手をかざすとキレイな水が出てくる。
何かのセンサーで反応しているようだが、もしかして魔法感知方式なのだろうか?
お湯用の蛇口とかハンドソープはないものの、地球の洗面台とほとんど変わらない。
ただし、、、
謎のクリームミストの入った据え置き型の魔導具が、流しの隣りに設置されていた。
飯屋にあったものと同じ種類のようだ。
手洗いはこっちでやれってこと?
うがいは流しの方?
クリームミストの魔導具はタオルの代わり?
と、混乱する真一。
しかも魔道具の横には、受け皿の上に置かれたスポンジのようなものもある。
魔道具に入っている手をキレイにするクリームミストを、固めてスポンジ状にしたような謎物体だ。
こちらはいろんなところを自由に拭くためのものだろうか?
異世界文化は不思議だらけである。
さて洗面所の中には、さらにもう1つドアがあった。
奥にあるのはユニットバスとかなのだろう。
さっそくエピーにドアを空けてもらう。
「これは、、、トイレか??」
中には風呂はなく、便器のような何かが1つあるだけだった。
高い部屋なのに風呂ナシかぁ〜と、少し残念な真一。
だけどよくよく考えてみると、さっき謎バスタブのベッドに入ったときに、汗とか汚れとかはキレイサッパリしていた。
真一は頭部だけしか感じとれないが、髪の毛や顔のアブラが落ちていたのである。
もしかするとこの異世界だと、アレが風呂の代わりなのかもしれない。
ユニットバスならぬ、ユニットベッドだ。
この世界の風呂はトイレではなくベッドとセットのようだ。
寝汗とかあるし、その方が効率的、、、なのかな?
と困惑する真一だったが、それよりも気になるのは目の前の異世界トイレである。
小部屋の中にあったのは、不思議な形の便器と思われるナニカだった。
床から楕円形の筒が生えているのだ。
縦20センチ、横15センチほどの楕円で、高さは50センチほどもある。
楕円柱の上部はUの字型にくびれており、その天井部分は柔らかい形状で座れるようになっていた。
くびれ部に両足を通すようにして上にまたがると、Uの字の突き出した部分でちょうど前と後ろが隠れる感じである。
そして筒の内部は空洞になっていて、フワフワ漂う例のクリームミストで満たされていた。
ベッドにあった低反発タイプのクリームミストではなく、メシ屋や洗面台の魔道具に入っていた突き抜けて反発しないやつだ。
ただし便器の中のクリームミストは色が濃い灰色になっている。
おそらく大のときも小のときも、パンツを脱いでこの上に座り、そのまま出せばいいってことなのだろう。
そうすれば出したものがそのまま黒ミストで分解されてキレイになるって仕組みのようである。
トイレットペーパーは見当たらないが、お尻も同時に黒ミストで浄化されるってわけだ。
確かに便利そうではあるものの、、、
「これ、他人が使ったあとには使いたくないな、、、」
他の人の排泄物を処理した後の黒ミストに触れても汚くは無いのだろうか?
たぶん大丈夫なのだろうけど、心理的にはかなりの抵抗がある。
やはり異世界文化には馴染めない真一だった。
もっとも毎日シンシンちゃんの部屋にアレもコレも垂れ流している真一にだけは、この異世界の人たちも言われたくはないであろう、、、
「ミュイ〜、シン、これって何なの?」
真一がトイレを眺めていると、エピーが聞いてきた。
ずっと森で暮らしていたのでは、トイレを見たことないのも当然の話だ。
「トイレだね。たぶん、、、」
教えてあげる真一だったが、100%の自信はない。
もしかしたらトイレではなく、真一には考えもつかない魔道具なのかもしれない。
なんせここは地球とは文化が違いすぎる異世界なのだ。
カルチャーショックがあってもおかしくはない。
だが真一が本物のショックに襲われることとなったのは、その直後のことだった。
「シン、その『といれ』って何なの?」
つぶらな瞳を輝かせて、無邪気に聞いてくるエピー。
天真爛漫な美少女に、まさかの下ネタをどう説明しようかと悩む真一。
「なになに?これって食べていいやつニャミュ?」
いつの間にか目覚めていたドリーが、便器を見て恐ろしいことを言う。
「食べちゃダメ!ってかこんなキチャナイもん、絶対美味しくないからなっ!!」
ドリーの凶行を慌てて阻止する真一だった。
「ニャニャニャ?これって汚いやつニャミュ?」
「あぁ、そうだ。トイレってのは、アレだよ。いろいろ食べたり飲んだりしたのが、下から出てくるだろ?」
「ミュイ〜。シン、何を言ってるの?下から出るって、何が?」
「シンって馬鹿ニャミュ?せっかく食べたものを出すなんて、そんなもったいないことするわけないでしょっ!」
「馬鹿じゃねぇよっ!だからアレだよ!お腹が痛くなったら、お尻から出るアレ!」
「ミュイ〜、お腹が痛くなるって、シンは身体が悪いの?」
「ミュフフ(笑)、お尻から出るって、シンってやっぱり頭がおかしいニャミュ〜。お尻のドコから出るの?」
「どこってお尻の穴だよっ!」
「バカだね、シン。お尻に穴なんかないでしょ!穴があるのはお尻よりもっと前の方ニャ…
「はいっ、そこまでぇぇっ!!!」
美少女にあるまじき発言をしながら、さらには服をめぐり上げようとするドリー。
下ネタすぎるにも程がある。
大声を上げて言葉を遮り、ストリップショーを阻止する真一であった。
「見せなくていいからっ!そっちの穴じゃなくて、お尻の割れ目の、、、」
そこで真一はハッと気付いて口ごもる。
あれっ!?
そういえばコイツらって、、、
今まで一度も、大も小もやってなくね???
全く気にしたことがなかったせいで、これまで真一はそのことに気付いていなかった。
だけど2人と出会ってから5日ほど。
その間に真一は、1度たりともエピーが用を足すのを目撃したことがなかった。
恥ずかしいからコッソリやってたなんてことは不可能だ。
同じ身体を共有している真一に5日間も気付かれないまま、済ませ続けていたなんて考えられない。
つまりエピーとドリーは本当に排泄行為を行わないのだ。
胃の中にアイテムボックスを持ってるような超常生物である。
食べたものを出す必要などないことくらい、別に驚くようなことでもない。
あの『アイドルはうんこしない!』も、この異世界ではネタではなくガチなのだ。
つまり『ドラゴンはうんこしない!』、それすなわち、、、
「これが『ドラ・ウン』なのかっ!!!」
いま初めて明かされる、衝撃の事実であった。




